『実写化の部屋』
実写化:実写による表現。ファンに激怒されるシリーズ。
「最近多いよな、実写化」
「そして炎上してるよね、実写化」
「思うんだけど、どうしてわざわざ実写にするんだろうな? 成功例なんて、アメコミくらいだと思うんだが」
「うーん、インスタ映えじゃないだろうし……やっぱり話題性?」
「クリエイティブじゃないな、まったくもって」
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「最近って特に、漫画とか小説……あとアニメで成功した作品を実写化するよね」
「三番目は確実にブーイングされる奴だな」
「漫画をアニメにするってのは分かるよ? だって、絵が一緒だもんね。原作を読んでいても、違和感がなくて世界観に入り込みやすいもん。弊害は声くらいだし」
「そうだな。しかし実写にした途端、それは俺達のリアルな世界に直結する。そこにいるのは演者であってキャラクターではない。途端に息をしていることや食事をしている事、生活感を意識させてしまう。これが実写化の最大のデメリットだ」
「……そもそも、メリットって何? よくわからないよね」
「さあな、俺にもわからん。イケメン俳優とか、売れっ子女優にキャーキャーわめきたいんじゃないのか?
舞台挨拶とかしてるけど、それ以前にアニメ化してる作品だったら、お前がそのキャラ語るとか何様だよ、この一年生が! って思うようなファンは実写を絶対に見ないだろうし、ネットに批判を書き込むケースが多いだろうな。
やはり、アニメなんかオタクの見るものでしょ、ふふふっとか言ってる奴が見に行くんだろ。それがオタクの文化の入り口とも知らずに、馬鹿野郎め」
「お兄ちゃん、それは腐り過ぎてると思うよ」
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「本当に、何で実写化するんだろうな?」
「ファンに後押しされてってことはないよね、炎上するし」
「思うんだけど、ハリウッドなら成功するって思い込みもやめた方がいいだろうな。実際に失敗例はあったし」
「敢えて名前は出さないんだね」
「アメコミのヒーローものだと、実写化しても変な感覚が無い。これはきっと、アメコミは作品に登場する人物が前提的に人間だからだと思うんだ」
「でも、日本の作品も、大体が人間だよ?」
「違う。絵柄だよ」
「……絵柄が人間的ってこと?」
「多分な。まあ、アメコミ自体に馴染みがないから受け入れやすいのかもしれん」
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「結果的に、実写化はハイリスクローリターンな気がするな」
「映画とか作るのも、お金かかるもんね。その分のお金をアニメに注ぎ込んだ方が、ファンは歓喜しそうだよ」
「……ところで、この作品はどうだろうな?」
「じ、実写化ってこと? そもそも、私達がそれを認めたら、私達が実在しないことになるよね? そうだよね?」
「しないだろ。フィクションだし」
「そうだった! いや、するよ! そこだけは私達が認めないよ!」
「しかし、実写化だけは避けてほしいな。俺達を実際に表現するのはシュールすぎる」
「そうだね……いや、そもそも実写化するのって人気作品ばかりだから、これは無理だよ。世界の片隅で愛を叫んでるようなものだもん」
「……それだとヒットしそうだけどな。劇場版で」
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「けど実写化……されるとしたらどんな役者に頼みたい?」
「そういった期待があるから、監督やプロデューサーを名乗る連中が勘違いするんだろ」
「ぶぅ……。実写化、響きはいいけど呪いの単語だね。特に作品のファンからしたら、汚すなってくらいに」
「そうだな。実写でこけたら作品もこけたみたいになるからな。……待てよ? 元々のファンが嫌々でも見に行けば、作品の評価を落とさずに済むんじゃないか?」
「嫌々見に行ってる時点で、失敗だよ」
「悪い。なんとなく言ってみたかっただけだ」
「そういう軽はずみな発言で、実写化も決まるのかもね」
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「しかし、この作品が本当に実写化されるとしたら、どうなるんだ?」
「きっと成功するよね! だって、私を演じるのは百年に一人の美少女だもん! 確率にすると、えっと、すごいよね!」
「……」
「な、何でこっちを凝視するの? もしかして恋?」
「違う。ずうずうしさだけなら、お前も実写化の片棒を担げそうだなって思ってな。何年もかけて作者と交渉して、嫌々ながら許可をいただいたくせに我が物したり顔で人気の俳優をキャスティングしていくスタイルになりそうだ」
「いやぁ、照れるなぁ」
「この状況で褒めてると思うのか?」
「でもでも、この作品にファンなんていないだろうし、実写化しても炎上しないんじゃないの?」
「……やめろ」




