『ハロウィンの部屋』
ハロウィン:トリック・オア・トリート。仮装して騒ぐのではなく、お菓子をもらう行事。
『今年のハロウィンも、若者の仮装で賑わっております。こちらではDJポリスによる注意喚起がされており、ハロウィンの都会は、未だに眠りそうにありません。こちらからの中継は以上です。スタジオの駒鳥さんへ、キュー!』
ブツッ――。
「お兄ちゃん、今年のハロウィンも大変なことになってるみたいだね。まあ、私達はいつも通り部屋でのんびりしてるから、関係ないけど」
「数年前までは、ハロウィンってこんなにメジャーじゃなかったんだけどな。ゲームの中のハロウィンイベントの方が認知度高かったと思うぞ」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「ともあれ、今日は季節ネタだね。ハロウィンの部屋だよ」
「ついに、お題も季節ネタを入れてくるようになったか」
「うんうん。ハロウィンって面白そうだよね。私も仮装してみたいって思ってたんだ」
「仮装か……」
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「いやなに、仮装と聞いて最初にこっちの『火葬』を思い浮かべる俺は、異常なのかと思ってな」
「それはサイコパスだよ」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「ハロウィンって仮装がメインなの?」
「お菓子をもらうことがメインだろ。実の所、お菓子をもらうイベントは昔から日本にもある。和製ハロウィンってやつだな」
「へぇ、そうなんだ」
「確か、北海道では夏にロウソクを出せと言って家を回るんだ。それでお菓子をもらう」
「仮装はしないの?」
「しない。モンスターがロウソク寄越せって恐怖だろ。第一、ご老人が腰を抜かしたらどうするんだ」
「そんなクオリティの仮装は、きっと本物のハロウィン行事じゃ見られないと思う」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「確かに、凝った仮装し過ぎだよな」
「でもさ、お兄ちゃんは興味ないの?」
「は?」
「ほら、例えば私が――」
「興味ない」
「最後まで言わせてよ!!」
「どうせ、露出度の高い仮装するとか言うんだろ?」
「その通りだよ!」
「思うんだが、露出度の高いおっさんは補導されるのに、ハロウィンで露出度の高いコスプレをする女性は補導されないのか?」
「露出度の高いおっさんは、ヤバい奴だよ!」
「主に下半身の露出度だからか?」
「言わせないでよ……」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「とにかく、忘れてはいけないのはハロウィンがトリックオアトリートの精神に則っていることだ」
「なにその、スポーツマン精神みたいな言い方」
「仮装するだけして楽しむなってことだよ。やるならとことん、トリックオアトリートを貫け。そして、菓子を求めて走り回るんだ」
「あんなに大勢で、しかも大の大人がお菓子を求めて走り回るって……想像しただけでも怖い画だね。街中のお菓子が消滅しちゃうよ」
「それだけならいいが」
「どういうこと?」
「トリックを忘れるな」
「い、イタズラだね……でも、ハロウィンのイタズラって、どういうことをするのかな?」
「子供のイタズラだからな……輪ゴムを人に向けて撃つとか」
「駄目だよ」
「お菓子をくれなかったら、藁人形を用意するとか」
「怖いよ。別の意味で怖いよ」
「この家は、お金を持っててもお菓子をくれないケチの家だって言いふらす」
「ちょ、それ駄目!」
「あとはそうだなぁ、仮装してるからな……仮装グッズを家の前に置き去る」
「もうイタズラじゃなくて、迷惑行為だよ。それこそ補導対象だよDJ黙ってないよ」
「マズいな。それだと露出度の高いおっさんと同等になってしまう。せめて、露出度の高いコスプレをした痴女と同等にならないと」
「それは、どうなんだろう……と、とりあえずそろそろ終わりみたいだから、今回はハロウィンということで、せめて最後は声合わせようよ」
「何を言うんだ?」
「ハッピーハロウィーンじゃない?」
「それだと、ハロウィーンなのかハロウィンなのかという問題が――」
「そ、そうだ! あれにしようよ。ごにょごにょ」
「それなら、議論の余地はないな」
「せーの」
「「お題の人に、トリックオアトリート!!」」
コツン。コツン。
「……お兄ちゃん、飴が降ってきたね」
「そうだな。どうやらイタズラが怖かったらしい。臆病者め」
「お兄ちゃんは、お菓子あげないの?」
「そんなわけないだろ。イタズラなんて御免だ」
「お兄ちゃんも、大概だよね……でも、そんなお兄ちゃんも好き!」




