『エビフライの部屋』
エビフライ:エビを油で揚げた日本発祥の料理。
「お兄ちゃん、お待たせ~~」
「お前が料理してる所、初めて描写されたな」
「うぐっ、ここへ来てようやくの本領発揮……待って。これって確実にメインヒロインの立ち位置だよ! 完全勝利だね! あのBGMかけてよ!」
「お、エビフライを作ったのか」
「なんか、お兄ちゃんのスルーも快感になってきたよ」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「うん、美味かった。当然ながら食べるシーンは割愛されてるけどな」
「食べるシーンとか料理の描写は面倒だからね。こんな作品じゃお目にかかれないよ。飯テロは別番組に期待してほしいな」
「しかし、エビフライを食べていて思ったんだが、会話ばかり続けてる俺達にも、食レポくらいは出来るんじゃないか?」
「お兄ちゃん、その発言はタブーすぎるよ。何人もの挑戦者が、食レポの前に崩れ去っているんだよ? 俺なら私ならって挑戦してみても、放送を見てみたら残念過ぎる汚らしい食事風景にしかなってなくて、感想も全く伝わってこない。よくあることだよ」
「お前は一体、食レポの何を極めたんだ」
「ともかく、食レポはやめよう。犠牲者が出ないうちにね」
「あ、ああ」
恐ろしい説得力だった。
〇〇〇〇〇〇〇〇
「――ッ! いてて」
「ど、どうしたの、お兄ちゃん!! 死なないで! 救急車、ドクターヘリ、通りすがりのボッタクリ医師! 誰でもいいからお兄ちゃんを助けて下さああああい!」
「大袈裟だな、それに三番目は目が合っても呼ぶな。……歯の間にエビフライの尻尾の破片が刺さってただけ。もう平気だ」
「よ、よかったぁ……って、お兄ちゃん尻尾の部分食べたの?」
「あそこが一番美味しいらしいからな」
「は、初耳だよ……でもあれって、バリバリして歯茎から血が出ない? あれ以来、私は食べないようにしてるんだけど」
「あれがいいんだろ」
「まさかのM発言!?」
「違う。……なんというか、怖いもの見たさに近い感覚だ」
「わかんないよ」
「そうか。まあ、いずれ尻尾の魅力に気が付く時が来るさ」
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「一つ訊きたいんだけど、いい?」
「なんだ?」
「高級な店でエビフライが出てきても、食べるの?」
「もちろんだ。尻尾が俺のアイデンティティだからな」
「そこまで!?」
「さすがに言い過ぎたが、例え合コンだろうと、見合いだろうと、エビフライがあれば尻尾を噛み砕き、話してる連中の話を遮って邪魔をしてやろうとする」
「考え方が、暗すぎるよ。でも、お兄ちゃんには貫き通してもらうよ!」
「……根端が見え見えだが、今回ばかりは頷いておこう」




