『クレーンゲームの部屋』
クレーンゲーム:景品を獲得するゲーム。ゲームセンターに多く、景品も様々。
「……これ、ゲームセンターから持ってきたのかな?」
「いや、きっと買ったんだろ。しかし、お題の為とはいえ、わざわざ買ってくるか?」
「誰が買ってきたの?」
「そりゃあ、お題を出してるやつだろ」
「誰?」
「さあ……」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「ま、いっか。お兄ちゃん、このクレーンゲーム、お金いらないみたいだよ。さっきからボタンが光りっぱなしだもん」
「景品は色違いのうさぎのぬいぐるみか」
「色によって表情が違うんだね。メーカーが何十種類も作りそうなデザインだよ」
「よし、とりあえず取るか」
「お兄ちゃん、あれがいい!」
「あの黄色い奴か。……可愛いのか? あれ」
「お兄ちゃんに似てるところがすっごくいいよね! もう最強!」
「……取るぞ」
カチッ。アームが左に移動していく。
「ここか」
「お、ピッタリだよ!」
カチッ。アームが奥に移動していく。
「ここだ!」
「おぉっ! ちょうど真上だよ。これなら頭を持ち上げて取れそうだね」
「……あれ、なんでアームが降下しないんだ?」
「え? ……あ。お兄ちゃん、もう一つボタンがあるよ」
「三つめ……このマークは、回転?」
「アームが回転するってこと?」
「多分な。少し微調整しろという計らいだろう。遠慮なく使わせてもらうか」
カチッ! アームがものすごい勢いで回転し始めた。
「「……」」
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるううううぅぅっっ!
「お、お兄ちゃん、ボタンから手を放さないと」
「わかってる。しかしな、実は既に放してるんだ」
「え?」
バキィッ!
「「あ」」
アームは回転に耐えきれなくなり、摩擦で炎と煙を上げながら落ちた。
「「あああああっっっ!」」
ぬいぐるみに引火。
ビィィィィッッッッ!
「なんだこれ! どういう展開なんだよ! ぬいぐるみが炎の海じゃないか!」
「わかんないけど、火災報知器鳴ってるし逃げた方がいいよ、お兄ちゃん!」
「そ、そうだな。とりあえず部屋から出よう」
扉まで駆け寄って手をかける。
「あれ、なんだ。これ」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「……?」
「あ、お兄ちゃん。おはよー」
「あ、ああ。(寝てたのか?)」
また部屋にいる。
あの巨大なクレーンゲームもそこにあった。
「なんか、知らないうちに火も消えて、新しいぬいぐるみが補充されてるよ。さっきのと変わらない種類だけど」
「ほんとだ。……例の第三のボタンがないな」
「さすがにあれは……。次は私が挑戦してみるよ」
「わかった」
「いっくよ~~!」
カチッ。アームが右に動く。
「それ」
カチッ。アームが奥に動く。ボタンを放すと同時に止まり、ゆっくりと下降し始めた。
「お、いけそうだぞ」
「頑張れ! お兄ちゃんウサギ!」
アームは黄色いウサギの首の部分に刺さっていく。
「「お、おぉ!」」
「いけるよ。このまま慎重に持ち上がってくれれば」
「ああ、そうだな。なんか、こっちまで緊張してきた」
ゆっくり。アームは首の部分を捉えて、そのまま一気に……。
ズボボボボ。バスンッ!
「「え」」
アームはその鋭い攻撃で、ぬいぐるみを頭と体に切断した。
「……綿、飛び散ってるね」
「ああ。飛び散ったな」
「あのアーム、なんだろうね」
「きっと、鋭利な何かだ。よく見ると、これまでの獲物の綿が絡みついている」
「あ、ホントだ」
アームが持ち上がっていく。黄色いウサギの頭だけを乗せて。
「お兄ちゃん」
「そこでそんな風に呼ばないでくれ。すごく心が痛む」
アームから落ちて、頭だけが景品として出てきた。
「……ごめんね、お兄ちゃんウサギ」
「……」
拾い上げたぬいぐるみの表情はなぜか、すごく人間味を感じられた。
首からボロボロと綿が湧き出てきたけれど。
「まだ光ってるよ、お兄ちゃん」
「ああ、そうだな」
「やる?」
「いや、ゲームは一日一回でいい」
「そうだね」
二人とも異論はなかった。