『迷惑メールの部屋』
迷惑メール:迷惑なメールのこと。まれに必要なメールも振り分けられる。
「あぁ、また来てる」
「どうした?」
ヒトミはユウジに携帯を見せる。
「迷惑メールか」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「うん。迷惑メールって開かないけど、来るだけで嫌だよね」
「自動で振り分けてるのか?」
「そうだよ?」
「……思ったんだが、迷惑メールってどこから迷惑になるんだ?」
「え?」
「だってそうだろ。迷惑メールとして振り分けられるってことは、幾分迷惑じゃないと駄目なはずだ。そもそも、その迷惑基準がわからないんだが」
「私の場合は、アドレス帳に無いと、すぐに迷惑メール行きだよ? あとはどうだろ。開かないで削除しちゃうからなぁ」
「大体そうだろ。……実験してみるか」
「実験? 何をするの?」
「今からメールを送るから、どの程度の迷惑なら振り分けられるのか試してみる」
「でも、お兄ちゃんからのメールならお気に入りに振り分けられるよ?」
「解除しておけ」
「い、嫌だ! 一秒でもお気に入りから解除したくない!!」
「話が進まん」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「うぅ……お気に入りがぁ」
コチコチ。ピロリン。
「送ったぞ」
「えっと、普通に届いてるよ」
『明日、そちらへ、向かう。迷惑だろう?』
「何、この文面」
「迷惑メール」
「意味不明だよ!!」
「だが、この程度だと迷惑メールにならないみたいだな」
「……(そういえば迷惑メールって、広告とかURLの添付してある奴なんじゃ)」
コチコチ。ピロリン。
「普通のメールだよ。えっと――」
『これを三十人に転送しなさい。さもなければ――』
「これ駄目な奴だよ!!」
ピロリン。ピロリン。ピロリン。
「また!? しかも三通連続!」
『ポマードポマードポマードポマードポマードポマードポマードポマードポマードポマードポマードポマードポマードポマーポマードポマードポマードドポマードポマード』
『トマトの正しい食べ方を教えてあげようか? そうだなぁ、どうしよっかな?
うん。教えてあげない。
あははははははははははははははは!!!
一生間違ったトマトの食べ方をしてるといいよ、どうしてもっていうなら土下座してよ! ほら早く! さあさあさあ!!』
『恋について議論しませんか。これから数日おきにメールします。あ、別に怪しいものではございません。あなたのメールアドレスと住所と家族構成、名前に生年月日に血液型に歯型から指紋とその他諸々、そして、ここ数日の食生活を知っているだけの者です。だって――
あ、ごめんなさい。長文になってしまいましたね。では、愛してます。ふふっ』
「いやあああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「どうだ?」
「迷惑すぎるよッッ!!」
「まだ迷惑メールに定義されないか。今度は……」
「……お兄ちゃん、楽しんでない?」
「ギクッ! そんなことないぞ」
「口でギクッ! って言った人初めて見たよ! やめてよね! あ、でも、最後みたいなメールなら歓迎しちゃうかも」
兄の血の気が引いた。




