『アニメ化の部屋』
アニメ化:マンガや小説、ゲームなどの媒体がアニメになること。決定とは言っていない。
「大変だよ大変だよ大変だよ!!! お兄ちゃん!」
「どうした?」
「私達がアニメ化するらしいよ、お兄ちゃん!」
「は?」
「私達がアニメ化するらしいよ、お兄ちゃん!」
「いや、聞こえなかったわけじゃない。本気か?」
「本気だよ!! ついに銀幕デビューだよ!」
「最近はやたらとアニメ化するけど、俺達がアニメ化だなんて、正気の沙汰じゃないな」
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「そもそも、どんな感じになるんだ?」
「そりゃあ、現代のアニメだもん。ぬるぬる動くんだよ! ほら、某アニメとかだとキャラクターが踊ったり楽器弾いたり、はたまた話数ごとに顔が変わったりするんだよ」
「三つめはあえて触れないでおくとして、この作品で踊りも楽器もないだろ。ケチャでも踊れってか? 冗談じゃない」
「いや確かにないけど、最近はなくても踊らされるらしいんだよ! 作品とは全く関係の無い所で踊らされるから、私達も練習しないと駄目だね! 社交ダンスとかいいんじゃない!? ほら、距離近いし! そのまま踊っていって互いをパートナー以上に意識しちゃって……最高の展開だよ! いざベーゼ! 果てに結納だね」
「……最悪だな」
「んもう、テンション低いよ! お兄ちゃん! ほらほら!」
「無駄に動き回るのはやめておけ。作品の中だと一切描写されないが、仮にもアニメになったとしたら、お前の動きにアニメーターがキレると思うぞ」
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「つまんないなぁ。あ、でもさ、アニメ化ってことは色もつくんだね」
「そうだな」
「それに、私達もついに姿形を得るわけだよ」
「何言ってんだ? 俺達は常にここにいるだろ」
「ちっちっち、甘いね、お兄ちゃん。角砂糖の角――」
「それ前にやったぞ」
「とにかく、私達の髪形も髪色も身長も顔立ちも体型も声も特徴も服装も、この作品では全くと言っていいほどに描かれていないんだよ!」
「言われて見ればそうだったな。でも苦労したことはないだろ」
「ないけどさ……ようやく、私達が生きるってことだよ。感無量だね」
「しかし、確実に尺は短いよな」
「え、なんで?」
「考えてもみろ。こんな会話だけのアニメ、通常の尺で見たいと思うか? きっと気怠いぞ」
「……」
「ここで問題。アクションシーンが多いアニメ、感動要素が多いアニメ、可愛い又はカッコいいキャラクターが出演してるアニメ。列挙すれば一日が終わりそうな昨今のアニメ事情を鑑みて、会話だけの狂気的アニメが受け入れられると思うか?」
「た、確かに……」
「それこそ、早口カオスコメディのような立ち位置に近い気がする。つまり、出来て五分か。妥当だな」
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「で、でも、この台詞だってアニメになったら声優さんが……ハッ!」
「どうした、妹」
「そうだよ声優さんだよ! 私達の声が、遂に確定するんだよ!」
「気の毒にな。いくら仕事とはいえ、俺達の声を担当することになるとは、これぞ最悪の極み」
「えー、どうして?」
「経歴に傷がつくだろ。……いや、待てよ? 有名な声優を使えばファンがアニメを見てくれるから、話題が拡散しやすい。この世の中、良くも悪くもネット社会だから、火がつけば一気に円盤が売れるんじゃないか?」
「お兄ちゃん、考え方が嫌だよ。まあ、お兄ちゃんは嫌じゃないというか、好きだけど」
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「今考えると、これって俺達しか出演してないよな」
「そうだね……ってことは、声優さんは二人になるの?」
「それに、背景は永遠に変わらない部屋の風景だ。無駄な小道具が無い部屋の時は、描くのに苦労しないな」
「――そしたら、高価格で売りつけてしまえば」
「高収入確定なんじゃないか!? でも、いや、そもそも俺達に入ってくるのか?」
「どうだろう」
「これで入ってこないとしたら……ぶつくさ」
ぶつくさ言ってると、天井から手紙が宙を舞うように降ってくる。
「ん? あれ、お題の人から手紙が降ってきたよ」
「随分と急だな。前々から思ってたんだが、それどうなってんの?」
「えっと、なになにふむふむ。なんですと!?」
「どうしたんだ?」
「お兄ちゃん、アニメ化の話……白紙になったんだって」
「急すぎる展開だな。スポンサーがつかないのか?」
「アニメ会社が倒産しちゃったんだって」
「……まあ、あの業界もかなりブラックだからな」
それには、何も言えなかった。
「――しかしやっぱり、試合はホームゲームに限る。頭の中だけで動く方がいい」
「お兄ちゃん、負け惜しみにしか聞こえないよ」
静かになりました。




