『世界一周の部屋』
世界一周:世界を一周しよう。
「ついにお題の人が狂ったか。このワンルームで世界一周なんて不可能だろ」
「もしかして、妄想で世界一周ってことかな?」
「なんだよ、その悲しそうなフレーズ」
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「とりあえずやってみようよ。そうだなぁ、私はオーストラリアに行ってみたいな」
「おお、いいじゃないか」
「でしょ? コアラを見て、カンガルーを見て……えっと、あのおっきい岩を登るよ」
「エアーズロックだな。オーストラリアの観光スポットだ。しかし、一つの国に行くだけじゃ世界一周にならないだろ」
「もちろん。オーストラリアに行って、南極に行くの」
「まさか、縦に世界一周する気か?」
「変かな?」
「まあ、あんまり考えないだろうな。普通は横だろ」
「でも、横ってなるとつまらないよ」
「どうしてだよ」
「時差があるもん!」
「時差か……世界一周するには天敵だよな」
「うん! あ、でも時差ボケって体感したことないと想像できないよね。寝坊と同じ感じかな?」
「まったく違うだろ。けど、俺達のような国外に一歩も出たことの無い連中からは想像できないな。正確に言えば日本国内でも時差はあるんだが」
「そうなの?」
「ああ。でも日本の場合、国内で時差が発生しない様に一つの地点を基準にしてる。その基準値の時間が日本全土、北は北海道から南は沖縄まで、時間が統一されてる」
「へぇ……」
「だから日の出や日の入りの差があっても、日本では常に時間を同じにしてるんだよ」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「時間って不思議だね。……でも待って。時間って人が作ったものなの?」
「まあ、概念はそうだな。明るいのが昼、暗いのが夜ってのは人間が作った。もしかしたら、本来は暗いのが昼、明るいのが夜と言ってもおかしくない」
「なんか、急に哲学チックだね。つまり、人が作った時間に、人が追われてるってことでしょ? 想像したら、ちょっと面白いね」
「まあな。そもそも、時間は国によっても捉え方が違う。日本だと一分一秒も狂いなく電車が来るのが普通だろ?」
「そうだね。来ないと怒る人も多いし」
「でもな、海外なら遅刻は当然なんだ」
「そうなの?」
「まあ、全てが全てってわけじゃない。でも一つ考えたら見方が変わるぞ。電車を運転するのは人間だろ? 果たして、人間が数分の狂いもなく運転できると思うか?」
「プロだから、そうすべきじゃないの?」
「普通はそう考えるかもな。じゃあ、ここで時間の概念が無ければどうなる?」
「???」
「例えば、電車が来るのはあと少しって言われたら、実は数分遅れていたとして、遅れたって怒ることができるか?」
「そ、そんなの無理だよ」
「つまり、そんな些細な事なんだよ」
「え?」
「時間に縛られてるって表現が当てはまるな。時間以外でも、人間は人間の作ったものに縛られてるんだ」
「うーん、なんか皮肉だね」
「まあな。傍から見れば滑稽だろ。宇宙生命体がいるのだとすれば、彼らは俺たちを見て笑い転げるかもしれないな。無重力だけど」
「うわー」
「でも、それが人間なんだ。滑稽なところが面白いってな」
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「……」
「どうした?」
「あのさ、どうして今日はこんな真剣に話し合ってるの? そもそも、お題そっちのけだし、お兄ちゃんの喋り方も違うし、教育番組みたいだよ。面白くないし」
「面白くないってのは否定しない。……まあ、たまには真剣な回があってもいいだろ」
「お兄ちゃん、真面目だね。だから大好き!」
「お前の発言で一気に不真面目な回になってしまったな」
「そんなっ! あ、じゃあじゃあ、二人でハネムーンするなら世界一周ってことで、どこに行こう?」
「無茶ぶり過ぎる上に、まずありえん」
「妄想だよ!」
「お前の妄想か?」
「違う! わ、私はねぇ――」
「俺は世界一周より、家でのんびりしたいな」
「究極のインドアお兄ちゃん、そんな所も好き!」




