『水着の部屋』
水着:海やプールで着る、遊泳・潜水用の衣服。デザインが多い。
「サービス回だね、お兄ちゃん!」
「なんでノリノリなんだよ。第一、勝手に用意されてたけど、部屋の中で水着ってのは落ち着かないな」
「うふん。お兄ちゃん、こっち見てもいいんだよ? この谷間とくびれ、全部お兄ちゃんのものだよ」
「何言ってんだ? さっきから見てるだろ」
「違うよ! そこは年頃の男子らしく――もっとこう! 熱くなれよ! 燃やせよパッション!!」
「はぁ……。大体、水着も野球と似た位置にあるんだぞ」
「え、何の話?」
「……こんな話、しなかったか?」
「野球かぁ、したことないかもね」
「そうか……勘違いか」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「それよりもさ! 水着回の定番と言えばあれだよね! サンオイル塗り!」
「なんだよ、それ」
「知らないの?
こう、一緒に来たヒロインとかが『日差し強いなぁ……そうだ、ユウジくん、その、前は塗ってきたんだけどね、背中が塗れてなくて……オイル、塗ってくれる?』――って言って大胆にも水着を外しながら――」
「は? 日焼けしたくないなら海行くなよ」
「元も子もない! 全国八千万人のサンオイルシーン愛好家に失礼だよ!」
「すごい市場規模だな。まぁ、背中には塗りづらいだろうから、頼まれたら塗ってやらんでもない」
「――! (お兄ちゃんから、ラブコメ主人公のにおいがする! 大抵のラブコメ主人公は、こういうサービス回でお色気シーンを逃さない百戦錬磨の超人。もしかして、お兄ちゃんもその類なの?)」
「部屋の中でサンオイルはいらんけどな」
「だ、だよね」
ヒトミは手に持っていたサンオイルをサッと背中の後ろに隠した。
〇〇〇〇〇〇〇〇
「しかし、前々から疑問なんだが」
「どうしたの?」
「海とかプールって、楽しいか?」
「出た! お兄ちゃんのインドア発言! 素敵ぃぃ!」
「……海なら、まだなんとなく潮風が気持ちいとか、楽しそうな理由はあるけど、プールはないだろ。人多いし」
「そうだね。人が多いのは確かに。でもさ、冷たくて気持ちいいよ?」
「それなら、家で浴槽に冷水を溜めて浸かればいいだろ」
「それはそうだけど。ほら、大勢だったら楽しいし」
「友達のいない奴は楽しくないだろ」
「……」
「ま、人それぞれだけどな」
「急すぎるよ! お兄ちゃんの交友関係から察して黙っちゃったじゃん!」
「修行が足りないな」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「とにかく! 今はサービス回だから! ほら!」
「なにしてんの?」
「見せつけてるんだよ。こうして寄せれば、胸の谷間も結構あるでしょ? 飛び込んできてもいいんだよ?」
「へー、そうだね」
「うわー、全く興味なし? なら、これならどうだ!」
シュバッ!
「どうしたんだ? 急に水着を取ったかと思えば胸を片手で隠すようにして」
「全部説明された!? ど、どう? これならグッとくるでしょ?」
「……あのなぁ、水着だからって必ずしもサービス回にするのはどうかと思うぞ」
「え?」
「第一、海に行っても水着なんて着る必要はないし、海を眺めるだけなら普段着で充分だろ。まあ、プールは無理だけど」
「で、でも! サービス回を期待してる人だっているよ!」
「それなら尚更。お前のそれはサービスにならん」
「な、なんだってぇぇぇぇええ!」
「自分で水着取るなんて、痴女だろ。ああいうのは定番のアクシデントで――ヒトミ?」
「……」
ヒトミは灰になっていた。
「……はぁ。風邪ひくぞ」




