『怪談の部屋』
怪談:夏にやる。怖い話。あの人の本職。
「ふっふっふ。怪談の部屋だよ!!」
「随分と盛り上げるが、とっておきのネタがあるのか?」
「……」
「終わったな」
「ま、待って、お兄ちゃん! 今絞り出すから……」
「そもそも、怪談って絞り出すものじゃないだろ」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「じゃ、じゃあどうやったら生まれるの?」
「そりゃあ、誰かから聞いたとか、人伝……待てよ? 怪談って、原作者が存在してるのか?」
「あ、こういうことかな。誰かが恐怖の体験をしたから、それを人に話すうちに脚色が加えられてきて、とっても怖い怪談話になったとか」
「成程。その考え方だと、本来はどうでもいいような体験でも、伝言ゲームの要領で元々の話とはかけ離れた怪談が作られた場合もあるんだな」
「盛り上がってきたね! 私達でやってみようよ!」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「そうだなぁ、妹がストーカーから始まって」
「ちょっと、お兄ちゃん? 始まり方から既に別方向の意味を感じるんだけど」
「妹がストーカーで、兄の結婚をねたんで、皿を投げつけてくる……考えただけでもブルッとくるぞ」
「……ありえるかも」
「……」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「お前の狂気を一瞬だけでも感じたのはいいが、怪談の部屋といわれても、怪談って雰囲気から入るものだろ?」
「そうだね。蝋燭とか、あとは――なんだろ」
「怪談に必要なものといったらあれだ。人数」
「人数?」
「二人で怖い話を始めても、ネタが尽きるだろう? それならいっそのこと他にも数人集めて、行灯を百個近く用意し、怪談を一つ話すごとに行灯の灯を消して――」
「それ駄目なやつだよ!」
「いいと思ったんだけどなぁ」
「お兄ちゃんがいいと思っても、現れてからじゃ――やってみる?」
「おい、今何考えたんだ?」
「べ、別に? 怪物が現れたら、わざと捕まって、お姫様気分でお兄ちゃんが助けに来るのを待とうなんて――」
「ひとつ教えてやろうか?」
「え?」
「本物の怪物はきっと、悠長に女を攫って待ってないし、食うと思うぞ」
「それは駄目だよ! 私を食べていいのは、お兄ちゃんだけだもん!」
「誰が食うか……」
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「でも、RPGとかの王道だと、姫が捕らわれて云々かんぬんって展開がベターだよ?」
「あれは正直、ずっと俺も疑問だったんだ。そもそも、なぜ攫う?」
「可愛いからだよ、お兄ちゃん!」
「……」
「な、何で頷かないの?」
「ここで頷けば、妹を可愛いと言う馬鹿兄になってしまうからな」
「なろうよ! そこは馬鹿になっていこうよ!」
「俺にとっては、お前のその懲りない設定が怪談ものなんだが」
「とにかく! 私は攫われて――」
ガタガタッ!
「「―――!」」
「な、なんだ今の音」
「お兄ちゃん、こわぁ~い」
「……俺はお前の方が怖いんだが。とにかく、部屋の外から聞こえたよな」
「行ってみようよ」
「ああ……」
二人は扉に近づき、ノブを――。
ガシッ。
『そっちは、駄目だよ』
「「ぎゃあああああああああああああ!」」




