『カラオケの部屋』
カラオケ:歌う場所。歌うこと。
「ついに導入されたよ!」
「いきなり大声でどうした」
「これだよこれ!」
バンバンッ!
「導入されたはいいが、そんなにぶっ叩いてたら秒で壊れるぞ」
「あ、わわ」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「カラオケセットか。得点が表示される最新型だな」
「つい最近の演歌の部屋で苦情出したから、きっとお題の人が奮発してくれたんだね。えらい! 褒めてつかわす!! ついでに妹の部屋をください!!!」
「何様だよ……いや、待てよ?」
「お兄ちゃん、どうして少し悪い顔してるの?」
「頼んで用意されるのなら、いくらでも利用可能じゃないか。そうだな、この部屋にはどうして80インチの大型テレビが無いんだ? 不思議だなぁ」
「……お兄ちゃん、せこいよ」
「すまん。俺も、言っててそう思った」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「と、とりあえず、早く使おうよ!」
「いつぞやのクレーンゲームのようにならないといいけど」
「クレーンゲーム?」
「……そんなのなかったか?」
「んー、気のせいじゃない? 第一、クレーンゲームなんて高そうなもの、どうやって部屋に運ぶの?」
「そう言われると、そんな気もしてきたな」
「ほらほら、これで歌いたい曲を入力するんだね」
「タッチパネル式とは、時代は進化したな……。ところで、最初の曲選びは肝心だぞ」
「え?」
「カラオケの最初の曲は、以降の場の雰囲気を決定する一打になりかねない。
つまり、カラオケで最初にどんな曲を歌うのか、それでリア充ポイントが設定される。俺達の様なレベル1の新参者が相応しい曲を選ぶのはかなり大変だ」
「お、お兄ちゃん……自分で非リア充であることを認めちゃうんだね。
で、でもでも、私はリア充だよ! だってお兄ちゃんと一緒なら常に充実してるもん。リアル充実より、常に充実だから……ツネ充だね!」
「変な言葉をつくるな。それにツネ充って、読み方次第で人の名前になりそうだぞ」
「そ、そうかな?」
「とにかく、最初の曲は重要だ。俺が選ぼう」
「お兄ちゃん、カラオケとか行ったことあるの?」
「ない」
「……」
「任せろ。カラオケには行ったことないけど、雰囲気を掴む曲なら知ってる。これだ」
「こ、これは!」
♪~♪~。
「童謡だ!」
「……」
「どうした、反応が鈍いぞ。さては兄の選曲センスに悩殺されたか」
「の、悩殺は常にされてるけど……この曲をどうして選ぶのか、理解に苦しむよ」
「みんな知ってなきゃ、ノリが悪いだろ? 童謡なら認知度が高い上に、盛り上がることが出来る」
「確かにそうだけど……盛り上がりそうにないよ?」
「そ、そうか?」
「本気で驚いてるところを見て、少しだけお兄ちゃんのセンスが怖くなったよ。ここは、私が見本を見せてあげる」
「……悔しいが、頼んだ」
「やっぱり最初はこれだよ」
「……は?」
♪~♪~。
「愛の歌だよ!」
「いや、重いだろ」
「えぇ~~。良い曲だよ? 歌詞も泣けるし」
「けど、バラードはどうかと思うぞ? 童謡を選曲した俺が言うのはどうかと思うが」
「でも、バラードは人の心に響くよ?」
「響かせちゃ駄目だろ。序盤で」
「どうして?」
「どうしてって……テンション、キープできないと思う」
「あ」
「それに、後ろが歌えないって」
「そ、それもそうだね」
結局、カラオケセットは役に立ちませんでした。




