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俺と妹のただならぬワンルーム  作者: お題の人(新増レン)
終わりは、いつだって唐突だよ。
101/102

『部屋の外、白い部屋』

 


 バタン。



「――あ、あれ?」


 目が覚めて起き上がると、そこは見たことのない白い部屋。部屋の隅にはテレビがあり、俺はベッドの上からそれを眺めていた。

 窓から心地よい風が流れ込み、髪を揺らす。

 はて。俺の部屋はこんなミニマリストみたいな部屋じゃないんだけど。


「あ……」


 腕に違和感があり、見ると何本もの管がつけられていて、すぐに病院と認識できた。


 でも、どうしてここにいるのかがわからない。


 パサッ!


「うそ……」


 何か落ちる音がして、そちらに視線を移す。

 そこにいたのは、まるで死人でも見ているかのように驚く女性がいた。


 幼馴染のヒトミだ。


 あれ?

 幼馴染のはずが、断言するまでにラグが生じた。

 たぶん、かなり久しぶりの再会なのに、そんな感じがしなかった。

 長い夢を見ていて、その中で一緒にいたような……。


「ユウジ!!」


 ヒトミはようやく駆け寄ってくる。

 落とした花束を拾わず、涙を目に溢れさせながらベッドまで走ってきた。

 そして、しきりに俺の顔を見ながら、何度も顔を触ったりしてくる。


「本物だ……」


「ヒトミ、俺どうしてこんな所にいるんだ?」


「覚えてないの? ……無理もないか。ユウジは、一人の女の子を助けようとして事故に遭ったんだよ」


 まったく覚えがない。


「その女の子って、お前?」


「違うよ、名前も知らなかった女の子。私が目を離した隙に、ユウジは駆け出していたの。初めてのデートで、私がユウジの分のアイスを買いに行ってたら……ユウジが…………よかった。ほんとうに……よがっだよぉぉぉ……!!」


 話しているうちに当時の状況を思い出してしまったのだろう。

 ヒトミはベッドに顔を伏せ、すすり泣く。


 しばらく声をかけずに頭を撫でていると、ヒトミは顔をあげて赤面していた。


「あ、ありがと……」


「どういたしまして。話の流れだと、俺は少女を助けて事故に遭ったんだろ? その子は大丈夫なのか?」


「元気だよ。でも、ずっとあんたの見舞いに来てくれてたの。今度、ちゃんと御礼言いなさいよ?」


「礼を言うのは女の子だろ?」


「またそんな憎まれ口叩いて。私には無駄だからね」


「……でも、そうか。そうだったのか」


「けど、普通助ける? 相手トラックだったんだよ? 意識不明になって目を覚まさなくなるんだもん。お医者さんが助かっただけでも凄いって言ってたよ」


「さすが俺だな。トラック相手に気絶で済んだか」


「気絶じゃないって」


「ヒトミ、俺はどれくらい目を覚まさなかったんだ?」


「今日で100日目。心配かけすぎ」


「100……」


 話していると病室の扉がノックされ、か細い声が聞こえてきた。


「失礼します……」


「あ、来たみたいだね」


「来たって、例の女の子?」


「そうだよ。毎日お見舞いに来て、ずっとあんたに話しかけてくれたんだから、ちゃんと御礼言いなさいよ?」


 何故だろう。

 そう聞いても不思議と驚かなかった。

 まるで、知っていたかのように。

 まるで、本当に会話していたかのように。

 鮮明とはいかないまでも、俺は微かに覚えている。


 あの――俺と妹のただならぬワンルームを。


 扉が開き、少女が二つに括った髪を揺らしてやって来る。

 彼女は目を覚ました俺に少し驚き、笑顔を見せた。


「よかった……元気になったんだね、お兄ちゃん」


 その呼び方には一つの違和感もなく、身体に浸透する。


「ああ、お陰様だよ」


 誰も信じないかもしれないけど、俺はこの100日間を忘れていない。

 所々は曖昧でも、混沌とした部屋は記憶に刻み込まれている。

 一人っ子の俺の、いないはずの妹との、あるはずもないけれどあったかもしれない、そんな馬鹿みたいな会話を――忘れるまでは忘れないだろう。






 〇〇〇〇〇〇〇〇






「――てな感じでどうかな? 最終回」


「出てくんな。終われないだろ」


「えー、だって私、『失礼します……』と『よかった……元気になったんだね、お兄ちゃん』しか喋ってないんだよ?」


「随分と猫被ってたな。しかし充分だろ。これまで散々喋ったんだから」


「……ま、いっか。これからは普通に話せるもんね」


「まぁ、そうだな」


「お兄ちゃん、覚悟してね」


「あぁ、はいはい。わかったわかった」


「相変わらずの塩対応!」


「――けど、本当に終わるのか? これ、101話目だぞ。中途半端だろ」


「きっと煩悩の数でやめたんだね」


「煩悩は108じゃないか?」


「細かいことは気にしちゃダメだよ! 最高のフィナーレなんだから、これまで関わってくれた人達に感謝しないと!」


「そうだな。ここまで付き合ってくれて、ありがとう!」


「ワンルームは終わるけど、またいつか全国のお兄ちゃんとお姉ちゃんに会えるって信じてます!」


「……そういえば、お前って偽名だったのか?」


「え、今それ訊くの?」


「ヒトミって幼馴染の名前なんだけど」


「ま、まあね。そっちの方がいいかなって思って」


「本名、訊いてもいいか?」


「私の名前はね、もえぎだよ!」


「……」


「じ、冗談だよ! ほら、作品と関連性あった方がいいかなって思って――。え、えっと本名はね――」



 〇〇〇〇〇〇〇〇



「以上、ワンルーム最終回でした!」


「これまで読んでいただき、ありがとうございました!」


「お兄ちゃん、最後は揃えよう!」


「そうだな。妹」



「「俺(私)たちの戦いはこれからだ!!」」



「決まったね、お兄ちゃん!」


「……なんかこれ、連載が打ち切られたみたいな終わり方だな」


「最後くらい水差さないでよ」




 完。




 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

 byお題の人

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