4.悪役令嬢とお花畑
レベルを上げよう!
決意したはいいものの、フェリシアは悩んでいた。
FQではモンスターを倒すと、経験値を得てレベルが上がる仕様になっている。しかしながらフェリシアは5歳の侯爵令嬢。布の服と棍棒を装備して、草原にスライムを倒しに行く訳にはいかないし、警備の行き届いた侯爵家の敷地内に盗賊が現れるはずもない。そもそも、棍棒を得ることすらできないでいる。
現在のフェリシアの装備は「絹のドレス」で、効果は「すばやさ:-2」だ。レベル1でマイナス補正、最悪である。せめて男だったら剣の練習と称して武器を入手できただろうに。
持久力の熟練度を上げようと庭を走ったところ「侯爵家の令嬢がはしたない!」お母様に嘆かれた。今は某ジョン・コナーのお母さんが刑務所でやっていたトレーニングを参考に、自室でこっそりと腹筋・背筋、踏み台昇降やスクワット等を行っている。あまりやると汗臭くなって怪しまれるので、そんなに回数を重ねることもできないがHPが微妙に減るので少しは熟練度が入っているはず、だ。
「ああ、レベル上げないといけないのに」
ぼんやりと外を眺めながら、侯爵令嬢として怪しまれないレベル上げの方法を今日もフェリシアは模索していた。
「フェリシア、何を見ているんだい?」
プラドは窓辺にたたずむ愛娘に話しかけた。5歳とは思えない憂いを帯びた眼差しが心配になったのだ。
「お父様、お庭を眺めているのよ」
「庭に何かあったかね?」
「お庭にね、お花畑があったらいいなって思ったの。いつでもお花が摘めるのになって」
「なんだ、フェリシア。そんなことか。よしよし、庭に大きなお花畑を作ろう」
「本当?お父様、ありがとう。大好き!」
フェリシアは今泣いたカラスもかくや、という満面の笑みを見せた。
5歳児なのだ、憂いといってもそんなものだ。自分が心配し過ぎた、とプラドは安心した。
「それで何のお花がいいんだい? バラかな?」
「日光草と月光草と星光草、あと弟切草がいいの!」
「フェリシアは大輪の花よりも、野に咲く素朴な花が好きなんだね」
「絵本で見て、可愛らしい花だと思って」
「そうだな、可愛らしい花だね。ではお父様が庭師に頼んでおくから少し待っていておくれ」
「楽しみにしているわ、お父様」
にっこり笑うフェリシアに目じりが下がる。我が娘ながらなんと可愛らしいのか。輝く金の髪に青空のような瞳。まるで地上に降りた天使のようではないか。日光草の花冠を作るフェリシアを思い描きながら、プラドは書斎へと戻っていった。
そんなプラドの背中を見送りながら、フェリシアは込み上げる笑いを抑える。
-計画通り! 薬草畑ゲットォー!
草原に薬草採取には行けない。だったら庭に薬草畑を作ればいいのだ。庭師が人為的に植えて育てた薬草でも、摘めば採取の熟練度になるだろう。接待プレイもいいところだが手段を選んではいられない。何せレベル1なのだから。
「あとは『おままごと道具』とかなんとかいって、薬草作りの道具を買って貰えば
薬作成の熟練度も稼げるわね!」
将来の現金収入の道がささやかに開けたことに満足感を覚えるフェリシアだった。