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#8 想定外の出来事

…予定は未定にして決定にあらず

という言葉を昔通っていた塾の塾長が教えてくれました…


まさかこのような場面で使うことになろうとは(´・ω・`)


 ルギィは冷静に今の状況を見つめていた。

 狐人族の娘が高火力の妖術を放ち、自分たちの目くらましを行った。


 なかなか強い心の持ち主だな。


 ルギィは素直に感心していた。

 2対1の不利な状況。おまけに自分たちは妖術を回避するための魔道具(アーティファクト)も所持している。それなのに、彼女は諦めずに策を練り、実行に移した。

 抵抗されることは想定していた。そのための魔道具だ。だが、ここまでとは思っていなかった。何が彼女をここまで駆り立てるのだろう。仲間を救うために、そこまでして身を危険に晒せるものなのか。ルギィは興味を持った。


 だが、そういう存在ほど厄介だ。失敗に繋がる原因になりかねない。


 自分の過去の失敗が頭をよぎる。

 忘れられない。忘れてはいけない過去。


 もう同じ失敗など、俺はしない。


 炎による煙と熱気が身体を包む。


 「あっちぃ!?」


 「……」


 完全に油断していたゾルが声を上げる。

 視界が悪い。完全に煙で狐人族の姿が見えなくなる。

 だが、ルギィは感覚を研ぎ澄まし、空気中にある魔素の流れを読む。

 一般の人間には感じられない魔素の感覚。その流れが、周りとは違う場所がある。とてつもなく速い。だが、


 そこか。


 その流れが向かう先を予測し、回り込む。そして、それは予測通り目の前に現れる。


 「悪くはない。だが、良くもない」


 右の拳を正面に構える。そこにものすごい速さで狐人族の娘の腹が吸い込まれる。


 「ぐっ!?」


 勢いよく狐人族の娘が跳ばされ、地面を転がる。

 ルギィはゆっくりと近づいていく。


 「まさかそんな小さな体であれほどまでの威力の火球を生み出せるとは想定外だった。だが、想定外の出来事は想定済みだ。何の問題もない」


 素直な賞賛、そして率直な感想。

 少しでも興味を惹いた彼女には、ほんの少しだが敬意を抱いていた。


 自分があの娘の立場なら、同じように敵に立ち向かうことができるだろうか。


 答えは「NO」だ。

 自分ならその場から逃げ出し、自分の身の安全を確保しただろう。

 自分ではできない、やらないことをあの娘はやったのだ。その行動の結果がどうであれ、尊敬に値する。ルギィはいいものはいい。悪いものは悪い、とはっきりした性格だった。

 しかし、だ。


 「しかし、だ。その能力(ちから)は厄介だな。この魔道具も完璧じゃない。いつ壊れてお前の妖術が発動してしまうかもわからない。ならば、お前を捕らえて連れていくことはリスクになる。言いたいことはわかるか?」


 失敗するリスクはできるだけ無くしてしまった方がいい。

 ルギィは新たに魔術を放つために、右手を狐人族の娘に向ける。


 「ここで始末する必要がある。悪く思うな。俺の、俺らの仕事の成功のためだ」


 こんな汚れた仕事だが、ここにいるレッドネームの冒険者の生活がかかっている。中には家族がいる冒険者もいる。なぜこのような仕事をしているのか、それはお互いに聞かないのが暗黙の了解だ。ただ1つわかることは、何らかのどうしようもないような理由を個人個人抱えているという事だ。


 「ま、待ってくれ旦那!このお嬢ちゃんは高く売れるぜ!?それを殺しちまうのはもったいねーって…」


 「黙れ」


 ゾルの腕を魔法で切り落とす。

 何の躊躇もなかった。

 すべては成功のため。

 そのためには手段など選んでられない。


 この男は物事を楽観視しすぎる。何かが起こってからでは遅いのだ。


 惨めな大男の叫び声を他所に、ルギィは再び狐人族の娘に手を向ける。


 「さて、最後の仕事だ。終わりにしよう」


 魔力を右手に集中させ、黒球を出現させる。

 以前は何の意識もせずにできたことが、今ではかなり集中しなければできないという苛立ちが、常にルギィの心の中を燻っていた。


 「一瞬で楽になれる。眠れ」


 拳ほどの大きさになった黒球を狐人族の娘に向かって放つ。


 これで終わりか。


 そう思った。

 身動きのとれない狐人族。寸分違わず真っ直ぐ向かっていく黒球。

 これで仕事も終わり、闇市場に向かい、依頼者に狐人族を渡す。そして稼いだ金で、一瞬の幸福を味わうのだと。そう思っていた。

 だが、



 「チッタぁぁぁぁぁぁあああああっ!!」



 想定外のことが再び起きた。

 黒髪の、人間だ。人間の少年が狐人族を庇い、代わりに魔術を受ける。直撃だった。


 「なんだとっ!?」


 思わず声を上げる。

 狐人族の里に人間がいるわけがない。もし、いたとしても魔術を直接受けて誰かを庇うなどそのような自殺行為、想定などできるわけがない。

 魔術は国家レベルで軍の最強の武器とされる。魔術師(ウィザード)は一種の兵器といっても過言ではないのだ。その一撃を、生身で受けようなどと考えられるか!?


 「ゆうひ様!?」


 狐人族の娘がふらふらと立ち上がり、人間の少年の下に向かう。




 なぜだ…。

 なぜその身を危険に晒してまで何かを守ろうとする!?


 敬意を通り越し、ルギィは恐怖を感じていた。


 理解できん!!

 そのようなこと、理解できるわけがない!!


 自分に言い聞かせるように、心の中でルギィは叫ぶ。


 愚かだ!!

 なんて愚かな選択だ!!

 自分を犠牲に誰かを救う?

 そんなこと、愚かな行為でしかないはずだ!!


 それなのに、なぜ自分はこれほどまでに胸が張り裂けそうなのだろう。

 頭の奥が痛む。まるで忘れていた記憶を縛り付けていた鎖が、音をたてて崩れていくかのような感覚。


 ああ、ああ!!


 ふと、ルギィの頭に1人の女性の笑顔が浮かぶ。




 「……ユリナ」




 ルギィの口から零れたのは、かつて心から愛し、そして、自分の犯した過ちにより亡くした最愛の妻の名前だった。


お読みいただきありがとうございます(*'ω'*)

前回の後書きで夕陽くんが活躍~とか言った気がしますが、出番は1言だけでした!!

ごめんね夕陽くん(*´Д`)


次回はルギィさんのお話になります(予定)←フラグ



最後になりましたが、評価・ブックマーク登録してくださった方、本当にありがとうございます( ;∀;)

数字が増えているのに気づいたとき、声に出して喜んでしまいました‼


これからも頑張りますので、よろしくお願いします(*'▽')

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