#7 決心
いつもありがとうございます(*'ω'*)
紫陽花です
早く夕陽とチッタのいちゃらぶシーンを書きたいのですが、なかなかお話が進まない…
がんばれ私…
なんとかしなきゃ…
チッタはとてつもない恐怖心に襲われていた。
武装した冒険者が6人。
どう考えても3ツ尾である自分が適う相手だとは思えなかった。
走りながら、最後に見た彼の表情を思い出す。
ほんとに…優しいお方だったな。
族長の間…フォルクに責められていた時、自分を守ろうとしてくれた。
今まで3ツ尾という理由で仲間はずれにされてきたチッタにとって、その純粋な心遣いはとても温かく感じられた。
確かに狐人族の中にも優しく接してくれた人もいた。だが、その優しさは哀れみや同情からくる優しさだという事をチッタはわかっていた。
また…会えるかな…
満月の夜に出会った異世界からやって来た黒髪黒目の少年。
少年が目を覚まし、自分の名前を呼んでくれた時に不思議と胸のあたりが温かくなっていくのを覚えている。
別れ際、自分を止めようとしてくれた。最後まで、優しかった。
…なんとかしなきゃ。
仲間を助けるために。
そして、もう一度彼に会うために、チッタは覚悟を決めた。
「みんなを、放してっ!」
冒険者の1人に妖力で作り出した火球を放つ。
その火球は冒険者に見事命中し、ものすごい爆発音と共に燃え上がる。
「がぁぁっ!?熱い、熱いっ!!」
炎は瞬く間に冒険者を包み込み、燃やし尽す。
肉の焦げるような、鼻をつまみたくなるような臭いが立ち込める。
「おいおい、お嬢ちゃん。大人しくしてなきゃダメだ…お?なかなかべっぴんさんじゃねーか」
巨体の冒険者…ゾルがゆっくりとチッタに近づいていく。
その厭らしい視線が、チッタの足先から耳の先端まで品定めでもするかのように、もしくは舐めまわすかのように纏わりつく。チッタは不快感に顔を歪める。
「へへ、怯えなくてもいーんだぜ?優しくしてあげるからこっちにおいで」
「ち、近寄らないでください!」
チッタは再び妖力を体内で練り上げ、火球を放つ。
放たれた火球は真っ直ぐにゾルに向かっていく。そして先の例と同じように、爆発音と共に炎が…あがる事はなく、まるで火球が何かに吸い込まれるかのように消失した。
「!?」
「いやー、アレを食らってたらタダじゃ済まなかったなー」
火球が消失した場所には、ゾルが何事もなかったかのように悠然と立っている。そして、ニヤリと下品な笑みを浮かべながら首元にぶら下がっているペンダント―先端に不格好な形をした石が付いた―を見せつける。
「これはなー、妖力を吸い取る能力を持った魔法石でな。そこらの妖力をすーぐ吸い取っちまう魔道具よ」
「そんな!?」
「へへ、狐人族が妖術を使うってことは事前に調べてわかっていたからな。俺は必要ないと言ったんだが、ウチの旦那は心配性でね。まぁ、そのおかげで命拾いしたってもんか。ハハ!!」
悔しい…。
チッタは顔をしかめた。
これじゃあ太刀打ちできない。
みんなを助けるどころか、自分まで捕まってしまう。
「ゾル、何をしている。その1匹で最後だ。早くしろ」
どうしようか迷っていると、巨漢の男の後ろから細い男が現れた。
チッタにとってこの状況は絶体絶命だった。
1人でも手に余る相手だったのに、それなのにもう1人増えてしまった。
「旦那、見てくれよ!コイツはかなり高く売れるぜ!」
「…ゾル。早く仕事を終わらせろと言ったはずだ」
「堅いことを言うもんじゃないぜ旦那ー。それに俺らにはこの魔道具があるんだぜ?何の心配もすることなんざねーって!」
巨漢の男と痩身の男が言い争っているこのタイミングが、チッタには絶好のチャンスだと思えた。
たとえ妖力はあのペンダントに吸い込まれてしまい使えないとしても、速さでは勝てるかもしれない。今、目の前にいる冒険者2人は完全に油断している。ならば、目くらまし程度に一発火球を放ち、相手がひるんでいる隙に他の狐人族が囚われている檻に向かい、みんなを救出しよう。自分でも1番自信のある素早さでなら勝てる。チッタはそう考えた。
「っ!!」
体内の妖力を練り上げ、火球を出現させる。
火球により発せられる熱気に冒険者2人がこちらの動きに気付いた。
チャンスは1度きり…失敗は許されない
「おいおい、お嬢ちゃん。何を考えているんだ?」
もう通用しないとわかっているはずの妖術を再度発動させたことに、不思議に思ったのだろうか。ゾルは眉をひそめる。
「ゾル、気をつけろ。何かある」
「いやいや旦那、こっちにはこのペンダントが…」
瞬間、ゾルとルギィから少し離れた場所に、チッタが放った火球が直撃し爆炎が辺りを埋め尽くした。
体内の妖力をほぼ使い果たした、最大火力での目くらまし。
「あっちぃ!?」
「………」
狙い通り、冒険者は炎とその熱気でひるんでいる。
その隙に檻の方に全力で向かわなければならない。
いける!!みんなを助けられる!!
炎と黒煙が立ち込める中を全力で走り抜ける。
風を切る音が耳を支配する。
狐人族が囚われている檻が近づいてくる。
もう少し、もう少しで!!
しかし、
「悪くはない。だが、良くもない」
不意に、不気味なほどに低い声が聞こえ、時間が止まったかのような錯覚を覚える。
風を切るあの音は、もう聞こえない。
「ぐっ!?」
急に腹部への鋭い痛み。そして、自分が後方に数m飛ばされていることに気付いたのは、地面に転がり落ちた後だった。
激しい衝撃が全身を襲う。
痛い。苦しい。
何があったのか正確に把握できない。
「まさかそんな小さな身体であれほどまでの威力の火球を生み出せるとは想定外の出来事は想定済みだ。何の問題もない」
その低く落ち着いた、何か物語でも読み聞かせているかのような口調の男―ルギィがゆっくりとチッタの方に近づいていく。
「しかし、だ。その能力は厄介だな。この魔道具も完璧じゃない。いつ壊れてお前の妖術が発動してしまうかもわからない。ならば、お前を捕らえて連れていくことはリスクになる。言いたいことはわかるか?」
するとルギィはゆっくりと右手をチッタに向ける。
「ここで始末する必要がある。悪く思うな。俺の、俺らの仕事の成功のためだ」
チッタは痛みで声が出せないでいた。
衝撃で脳にもダメージが及んだのか、意識も朦朧としている。
「ま、待ってくれ旦那!このお嬢ちゃんは高く売れるぜ!?それを殺しちまうなんてのはもったいねーって…」
「黙れ」
チッタに向けられていた右手がゾルに向けられる。
そして、
「がっ!?がぁぁぁぁぁぁぁああ!?腕が!?俺の腕がぁっ!?」
ゾルの左腕が肩から綺麗に切断され、勢いよく鮮血が噴出している。切断された腕は、地面に落ちていた。
「お前は少し学んだ方がいい。全ての失敗はちょっとした油断から引き起こされるのだという事を。お前は物事を楽観視しすぎる」
仲間の腕を切り落としたというのにも関わらず、ルギィの声のトーンは変わらない。依然、落ち着いたままだった。
―魔術。
人間の中には体内に魔力を補填し、循環させる回路、いわゆる魔力回路を持つ者が稀に存在していた。
その人間は、魔力回路に流れる不可視である魔力も生命維持に欠かせない要素の1つだ。魔力回路は身体中を網のように張り巡らされている構造をしている事を除いて、個人個人で異なった構造をしている。だが、その多くは血管が集中している部分に魔力回路も集中していると考えられている。
魔力回路を持つ人間は、空気中にあるとされている(不可視ゆえに確実にそこに存在しているという証拠が掴めない)魔素を酸素と共に体内に取り込み魔力に変換させ、補填し、魔術として発現させる。魔素の取り込み、変換、補填、魔術の発現は全て魔力回路が担っている。
魔術の発現は、体内の魔力を空気中の魔素に干渉させ、“その空間にはない何かを生み出す”か“その空間にある何かを増強させる”という説が現代の研究では1番有効であるとされている。この説からすると、体内と空気中のどちらにも魔素が必要不可欠ということになる。
現代における魔術の研究に不可解な点が多いのは、そもそも研究の対象となる魔術師の人口があまりにも少ないからである。魔人や魔獣といった、同じく魔術を使う存在もいるが、それらに関わるのは自殺行為だ。
ルギィがゾルに放ったのも魔術である。
ルギィは冒険者の中ではかなり腕の立つ魔術師だった。
だが、ある事故が原因で体内の魔力回路がズタズタに崩壊し、以前のような魔術は使えなくなってしまったのだ。そのことがルギィをレッドネームにする理由だったりするのだが、それはまた別の話だ。
「さて」
ルギィの右手が再びチッタに向けられる。
「最後の仕事だ。終わりにしよう」
右手に魔力が集められ、黒い球が出現する。
「一瞬で楽になれる。眠れ」
そして、拳ほどの黒い球がチッタに向かって放たれる。
距離はおおよそ10m程だろうか。
チッタの意識ははっきりしてきてはいたが、未だに身動きがとれずにいた。
ああ、失敗してしまいました。
黒い球は真っ直ぐ、一寸の狂いもなくこちらに向かってくる。
今までの出来事が走馬灯のように脳裏に蘇る。
ほとんど、つらく、苦しい記憶。
その中で、1人の顔が思い出されたとき、不思議な暖かさが胸に広がり、視界が霞んだ。
もう一度お会いしたかった。
満月の夜に出会った異世界からやって来た黒髪黒目の少年。
もう一度名前を呼んでほしかった…。
チッタは目を閉じた。
またどこかで、あの少年と出会えることを祈って。
「チッタぁぁぁぁぁあああああっ!!」
全てを諦めたその時、あの少年が自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
お読みいただきありがとうごいます!!
気を付けてはいるのですが、誤字等ございましたら教えてください(^◇^)
それではまたお会いしましょう!!
次回は夕陽くんの大活躍(予定)する回になります!!
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