#5 戦場
着々と改稿が進み、最後の部分になりました…
長かった…とは言ってもまだまだ力不足な文章ですが(;´・ω・)
「来はりましたか」
呟くようにイロリは言う。
いったい何が来たのか俺には想像もできない。
ドンッ!ドンッ!と大きな音が立て続けに響く。爆発音であろうか、地上で何かが起こっているのは間違いない。
「チッタ、ゆーひさんをお守りしなはれ。絶対に怪我やらなんやらさせてはならへんよ?もうこん場所はもたへんやろう。そん前に西の離れに逃げよし」
「はい。この命に代えてでも、ゆうひ様をお守りいたします」
チッタが深々と頭を下げる。それに満足げにイロリが頷く。
「さぁあんたら、戦えるもんは表に出るんや。せやあらへんもんはチッタと一緒に逃げよし」
今まで座っていた狐人族が立ち上がり、俺が入ってきた扉から早足で外へ出ていく。今までの空気が嘘のように、イロリの指示で素早く行動に移る狐人族。それほどイロリの存在が偉大であるという事が感じられた。
この部屋の外からも他の狐人族が動き回っている物音がする。
「なぁ、いったい何が来たんだよ」
依然、爆発音は続いている。弱まるどころかだんだんと近く、大きくなっていく。
「奴隷商人かと思われます。数日前、何人かの冒険者にこの場所が知られてしまい、そう遅くない時期にわたし達を捕らえに来ると予想していたのですが、イロリ様の占星術によりそれが今日だとわかっておりました」
チッタが答える。声はやや強張っており、緊張しているのがわかる。
冒険者という聞き慣れない単語が少し引っかかったが、それよりも奴隷商人という単語に驚きを隠せないでいた。本当にそんなものが存在しているのか…日本では考えられない事実である。
奴隷商人。
人間が、人間もしくは他の種族を捕らえ奴隷として労働を課すか、もしくは自らの趣味や嗜好、性欲の処理に利用することはこの世界では珍しい事ではないらしい。その奴隷を調達・販売する役割を果たしているのが奴隷商人だ。
「うちらは滅多に人里には降りんから、珍しい存在なんやろね。高い金の値がつくんやと」
イロリはなぜかニコニコしている。その表情には恐怖や怒り、焦りといった感情は見て取れない。
「あんたは…どうするんだ?」
「うちか?うちはこん群れん長としての責任を果たすまで。ゆーひさん、あんさんは自覚が無いかもしれへんけど、この世界に迷い込んだんは何か意味がある。これから先、エライことがぎょうさんそん身に訪れるんやけど、おきばりおくれやす」
そう言って他の狐人族と同じように扉から出て行ってしまう。
俺がこの世界に来た理由?そんなものわかるわけがない。ここがどんな所なのかもはからない、何の力もない俺にいったい何ができるんだ。
未だに俺の思考は混乱したままだった。
「こちらです、ゆうひ様」
チッタの案内で離れに向かう。俺ら以外にも、女性や子どもの狐人族も一緒だ。数はおよそ20人くらいだろうか。そのどの表情にも不安が滲み出ている。
イロリと話をした部屋を出て数分のところで、地上に続く穴があった。外からは何かが燃える臭いと、狐人族か冒険者だと思われる怒声が爆発音と共に聞こえてくる。
「地上に出たら西側へ走ってください。そこに離れがあります」
先に狐人族を地上に送り、その後に夕陽とチッタが続く。
外はまさしく戦場だった。
燃える草々に立ち上る黒煙が、星がきらめく空に昇っていく。
そっと頬を撫でる風は熱を帯びており、今まで嗅いだことがない臭いを運んでくる。
爆発音のする方に目をやると、剣を持って武装をしている数名の人間と、狐人族が戦闘を繰り広げている。相手は冒険者なのだろうか。
遠くの方にも人影が見える。黒いローブを身にまとっている人間の周りが輝いたかと思うと、狐人族がいた場所が大きな音をたてて爆ぜる。
「っ!?」
「ゆうひ様、あれが魔術です」
「…魔術」
戸惑いを隠せない俺にチッタが言う。
「人間は生まれながらにして、体内で魔力を生成する器官を持つ者がごくわずかですがいるそうです。その魔力を体内から外界に干渉させて何かを爆発させたり、風を起こしたり、傷を癒したりするそうですよ。そして、そのように魔力を自在に操る人間を魔術師と呼ぶそうです」
「じゃあ、あいつらが奴隷商人なのか?」
「いいえ、おそらく奴隷商人に雇われた冒険者でしょう」
「その冒険者って…」
なんなんだ?
そう聞こうとした時、他の狐人族が離れに逃げている方向…西の方角から大きな爆破音と悲鳴が聞こえてきた。
「っ!?ゆうひ様、わたしたちも行きましょう」
そう言ってチッタが走り出す。
とても嫌な予感がする。込み上げてくる不安を抑え込み、チッタの後を追いかける。
そして、目に飛び込んできた景色に、俺は思わず声を失った。
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