#4 狐人族の長
小説を書くときに、登場するキャラクターを想像しながら書いているのですが、
もうチッタが可愛すぎて可愛すぎて…
読んでくださっている方々はどのようなチッタを思い描きながら読んでいるのでしょう…
あ、主人公や他のキャラクターも忘れてませんよ!汗
俺と狐人族の少女チッタは、大きな扉の前に立っている。
この先に族長がいるらしい。
ここまで来る最中にチッタがこの世界について説明してくれた。
この世界には人種、魔人種、精霊種の3つに大きく分かれて存在しているらしい。狐人族は人種の中の獣人族に分類される。他にも長耳族や天人族()が存在しており、それらは亜人と呼ばれているのだとか。
チッタはこれ以上のことはわからないという。
何せこの草原、自分たちのテリトリーから出たことがないそうだ。理由としては、奴隷商人(奴隷と聞いて驚いたが、この世界では当然の事らしい)に捕まってしまったら取り返しのつかないことになってしまうし、そして何より尻尾が3本だからという理由があった。
狐人族は尻尾の数で群れの中での上下関係が決まる。すなわち、地位が決まる。
過去に族長を務めてきた狐人族の尻尾の数は8~9本。現在の族長も9本だそうだ。そして9本を超えた数の尻尾を持つ狐人族は今まで存在していないという。尻尾の数が少なくなってくるにつれて地位が低くなっていく。また、尻尾の数は体内の中にある不可視の力である妖力の強さも比例するらしい。
現在、この草原をテリトリーとする狐人族(他にも雪山などをテリトリーとする狐人族などもいるらしい)の尻尾の最低本数は3本。チッタただ1人らしい。なので群れの中で一番低い地位という事になり、様々な仕事やら何やらで今に至るまで自分のしたいことを満足にできなかったらしい。尻尾の数が1、2本の狐人族はそもそも数が少なく、そのほとんどがただの獣らしい(この世界にも狐はいるみたいだな…)。この世界ではすべての命ある存在は体内に魔力や妖力、中には霊力なんてものも持って生まれてくるらしい。
ただの獣である狐が齢を重ねるごとに体内の妖力が高まり、尻尾の数が2本になる。この時点で普通の獣としての狐は霊獣になる。その2本の尻尾を持つ狐の魂が天に召され、新たな魂の器に入るときに初めて狐人族としてこの世に生を受けるのだそうだ。
上下の関係はどこでも存在するのか。
話を聞いて、単純にそう感じた。また、わかったことと言えば、やはりここは俺が元いた世界ではないということだ。なかなか現実味がわかないが、チッタの話からそう判断せざるを得ない。
「それでは、扉を開きますね」
見た目とは異なり、案外すんなりと開く扉。
「イロリ様。ゆうひ様をお連れいたしました」
深々と頭を下げるチッタの向こうに、イロリと呼ばれた狐人族が座っていた。
チッタと同じく金色の、ピンッと先のとがった耳に大きな9本の尾を持つ狐人族の女性が俺を真っ直ぐ見つめている。金色の髪はどこまで伸びているのか想像もつかないほど長い。鋭く、ややつり気味の目はまさに狐のそれだ。チッタと同じく巫女服のような衣服に身を包んでいるが、見るからに装飾品が多く、自身の位の高さを如実に表しているかのようだ。
族長の右隣には、どこか知的な雰囲気の漂う狐人族が立っている。文官か何かだろうか。そして、族長が座っている場所へは、さっきまで俺が寝ていたような乾燥させた草で道が作ってあり、その両側に3人ずつ、計6人の狐人族がまるで品定めでもするかのような視線を俺に向けながら座っている。その狐人族は皆、尾の数が6本以上。群れの中で上位に存在する狐人族たちなのだろう。
「お初にお目にかかります。狐人族の族長、イロリと申します」
訛りの強い、どこか日本の古都を思わせる口調と和名のような名前だ。
「黒髪黒眼の、異世界からの迷い人さんとお見受けいたします。あんさんのお名前をお聞かせ願いますかえ?」
イロリが発する声は、大きくはないが不思議とよく通る声だ。
「…佐渡夕陽だ」
「ゆーひさん…でよろしいかえ?そんなら、ゆーひさんや、もぉ少し近こぉで顔を見せておくれ」
その瞬間、身体の自由が奪われる。何かで身体を縛られる感覚。得体のしれない緊張感に襲われる。何事にも逆らえない。そんなふうに思わせるような雰囲気を感じた。
(これが、9尾の妖力!?)
数歩、自分の脳が命令を送っていないのにも関わらずイロリの方に近づく。
「ほぉ。あんさん、綺麗な髪してはりますなぁ。それに曇りのない、美しい瞳よのぉ」
イロリは感心したように頷きながら言う。その目はどこか懐かしい何かを見ているかのようだった。
「そいで、ゆーひさん。何か聞きたいことでもあったんとちゃいます?」
小首をかしげながら、おびえる小動物をなだめるような声音で聞いてくる。こちら側の緊張感を読み取ったのだろうか…。
「…さっき、あんたは俺のことを異世界からの迷い人と言ったな。それはここが俺の住んでいた世界とは違うということだよな。なら、なぜ俺はこの世界に来た。元の世界には戻れるのか?そもそも異世界ってなんだ。この世界は何なんだ」
右隣に控えていた文官風の狐人族が何かを言おうと身を乗り出したが、イロリが「よい」と右手を上げることでそれを止めた。文官風の狐人族の眉間には皺が寄っている。夕陽に向けられている視線にもどこか敵意を感じた。
「昨夜の満月はご覧になったかえ?」
「あ、あぁ」
「うちら狐人族にはな、ある言い伝えがあんねん。『満ちた月の明かりに大地が照らされる時、異界より迷い人が訪れん。彼の者、黒髪黒眼につき偉大な力を持つ者ぞ。正なる道に導くは、我らの務めなり』とな」
「…それが何の答えになる。質問に答えてくれ」
確かに俺の髪や目は黒い。だが、偉大な力なんてそんなものには心当たりがない。
だんだんと文官風の狐人族の顔が赤くなっていく。俺の態度が気に食わないらしい。
「まぁ、待ちなはれ。うちら狐人族は占星術が得意なんよ。そいで、昨夜、迷い人が訪れると出たんや」
うちの占いでな?と自慢げに言う。
「だから、それが何だっていうんだ?」
まともに質問に答えないイロリに、だんだんと俺も苛立ち始める。
そこで、もう我慢ならないと文官風の狐人族が声を上げる。
「ええいっ小僧!己の身の程を弁えろ!先程からイロリ様になんたる無礼!」
「よい、よい。フォルク、落ち着け」
イロリがなだめるも文官風の狐人族、フォルクは肩を上下に揺らしながらシューシューと鼻息を荒げている。
「サワタリとやら、我の名はヤオと申す。イロリ様は9つの尾を持つお方。その身に宿している妖力は計り知れぬほど強大なのだ。その妖力を駆使して行う占星術の正確性は、ほぼ的中すると言っても過言 ではない。そのおかげで今までこうして我々は繁栄してこれたというものよ」
見るからに武人のような狐人族、ヤオの低い声で言う。
「そのイロリ様のお話を、どうか最後まで聞いていただけはしないだろうか。すべての出来事には何かしらの意味がある。サワタリ殿がこの世界に迷い込んだのも、迷い込んだ先が我らの里であったことも、だ」
「…わかった。すまない」
「有り難い」
「ふんっ!そんなどこぞの骨ともわからぬ無礼な小僧なぞ、その辺にほっぽとけばいいではないか!そもそもその小僧を連れてきたのは3ツ尾のチッタだそうじゃないか。きっと何かの災いの始まりに決まっとる!」
フォルクが苛立ちの矛先をチッタに向ける。
「そ、そんな!確かにゆうひ様を見つけたのはわたしでございます。ですが…」
「ええいっ、うるさいわ!3ツ尾の分際で口答えするんじゃない!」
チッタの瞳が次第に潤んでいく。
フォルクの物言いに、俺も少しイラッと来た。狐人族の上下関係がどれほどのものなのか俺は知らない。だが、発言も許されないなんてそれは間違っている。
「おいお前、いい加減に」
いい加減にしろよ。そう言おうとしたその時だった。
ドンッ!と遠くから大きな音が振動と共に聞こえてきた。今いる場所の上、草原の方からだ。
「来はりましたか」
それでも、イロリは冷静にそう言うのだった。
今でも種族の特徴や関係性は固まっていないのですが、少しづつ基盤となる設定を固めていけたらなと思っています。
今回も読んでいただきありがとうございます!
ブックマーク、評価をぜひお願い致します(*'ω'*)