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#12 わたしの王子様

 「率直に、ゆーひさん。あんさんは1度死んどるんよ」

 「…え?」


 俺が1度死んでいる?

 何を言っているんだ?


 「“何を言ってるんだ?”っちゅう顔やね。でも、実際そうなんよ。あんさんは1度死んで、そんで生き返った」

 「それは…どういう」


 どういう意味だ?

 そう言おうしたが言葉が続かない。口の中が乾き、喉が詰まる。鼓動が速くなり、額に汗がにじむ。


 「そのまんまの意味やて。あんさんは今“佐渡夕陽”として、“佐渡夕陽”の第2の人生を歩んでるって意味や」


 まったく意味が理解できない。

 俺として、俺の人生を歩む?


 「まぁ、安心しぃや。ゆーひさんはゆーひさんのままや」

 「だから…何を」

 「あんさんは、あんさんの魂は、今までの“佐渡夕陽”のままや。ほれ、記憶もちゃんとあるやろ?」


 そう言われて、この世界に迷い込む前の世界のことを思い浮かべる。

 何の変哲のない、同じことを繰り返すだけの毎日。退屈で、つまらない日々。…そして、その退屈な日々の中で、輝く1人の少女の笑顔。


 ただな、とイロリは言葉を続ける。


 「あんさんのその魂を維持し続ける媒体が変わってしまったんや」

 「…媒体?」

 「せや。今、あんさんの身体には妖力と、おそらく魔力が流れているはずや」


 あの時、夕陽の中に入り込んできた2つの何か。それが妖力と魔力なのだとすれば、イロリの話は納得がいかないこともない。だが、だからと言って1度自分が死んで生き返ったとは、夕陽は信じられないでいた。


 「普通の人間が己の命を維持し続けるのに、必要な媒体って何やと思う?」

 「……。」

 「血液や。血液は生命維持に必要なモノを身体中に行き渡らせる役割があるからの」


 イロリは煙管の煙を天井に向かって吐き出す。


 「亜人族にはそれに妖力が、魔人族…まぁ魔術師もそうなんやけど、そういった者は魔力が生命維持に関わってくる」


 魔術師は魔力がなくなっても生きていけるんだけどね。と、再び煙を吐き出し、吸い終わったのか中に入っていた灰を捨て煙管を懐にしまう。


 「そんで、あんさんには血液と妖力。そして魔力がその体を流れている」


 イロリは座っていた椅子から立ち上がり、身に着けている豪華な装飾品をシャン、シャンと鳴らしながら夕陽の前まで歩き、夕陽と目線を合わせるようにしゃがみこむ。


 「言ってる意味、わかる?」

 「…俺は、普通の人間じゃない…ってことか」

 「正解」


 イロリは夕陽の頭を優しくなでながら「…せやけど」と続ける。


 「さっきも言ったように、ゆーひさんはゆーひさんのままや。安心せい」


 にこりと笑うイロリ。

 夕陽は頭を撫でられたせいもあるからか、恥ずかしさ故に目線を反らしてしまう。


 「なんや、照れてんのかえ?」

 「う、うるせぇ」


 それは急だった。

 夕陽の身体を暖かいイロリの身体が包み込む。


 「っ!?」

 「ほんま、ありがとうな。ウチの家族…守ってくれて。ほんま、ほんまにありがとうな」


 強張っていた夕陽の身体は、イロリのその言葉に力が抜けいていく。


 「痛かったやろ。怖かったやろ。それなんに、チッタも…みんなも助けてくれて、ありがとうな」


 その言葉はわずかに震えていて、先ほどまでの統率者としての威厳や風格はなく、普通の女性であるかのようだった。

 思わず、どうしていいのかわからなかった夕陽が、恐る恐るイロリの背中に腕を回そうとした時、


 「…ゆーひさんって、案外ちょろいんやね」

 「なっ!?」


 べー、っと可愛らしく舌を出すイロリ。


 「なんやなんや、狐につままれたような顔して」

 「うるさいっ!」


 夕陽の顔が真っ赤になっていく。それは怒りなのか、照れなのか…それともどちらもか。いずれにせよ、他者との交流が乏しかった夕陽には少し刺激が強かったのだ。


 ふふ。可愛らしいとこもあるやんか。


 イロリは心の中で静かに笑う。そして、面白いことが始まりそうな予感に胸を弾ませながら言う。


 「そんでな、ゆーひさん。これからのことなんやけどな?」









 目を覚ますと見慣れた天井でした。


 「…あれ、わたし」


 重い身体を起こし、同じく重い頭をフル回転してどうしてここで寝ていたのか思い出そうとします。


 たしか…


 「ゆうひ様っ!?」


 思い出しました!

 奴隷商人が連れてきた冒険者に仲間たちが捕まってしまい、仲間を助け出そうとしたところ…わたしが失敗してしまい攻撃されそうになったところをゆうひ様が助けてくださって…


 その時です。


 ドゴンッ!!


 わたしのいる部屋が、どこか遠くから聞こえた大きな音と一緒に大きく揺れます。

 狐人族は地面に穴を掘って、地面の下での生活を基本とします。なので、地上での音や振動は感じやすいのですが、それでも大きな音と揺れに心臓の鼓動がいっきに速くなります。


 …もしかして、ゆうひ様が!?


 こうしてはいられません。身体の重さを無視して地上に向かうべく部屋を出ます。

 すると、


 「あ、チッタちゃん。おはよう。もう起きてもいいの?」

 「え?あ、はい…大丈夫です…けど」


 わたしの焦燥感が場違いかのように、ふわっとしたアマネお姉さんの声に頭の中がパラドックス状態です。


 「よかったわ。もうあれから3日かしら?」

 「3日…ですか?」

 「ええ。でも、もう身体は大丈夫なのね!安心したわ」


 そう言って、アマネお姉さんは私の頭を撫でてくれます。


 「あ、そうだ。地上(うえ)王子様(あなたのヒーロー)が特訓中よ。見に行ってみたら?」


 そういうとニコッと笑って行ってしまいました。


 「わたしの…王子様?」


 そう言われて、1人の男性が思い浮かびました。

 黒髪黒目の、異世界からこの世界にやってきた不思議な男性。


 トクン…


 さっきまでの胸の鼓動とは違う、(こころ)の鼓動。


 ゆうひ様が生きてる!無事だったんだ!


 わたしは地上に向かって走り出します。もう身体の重さは気になりません。むしろ軽いくらいです。

 地上に出る穴。そこを出たら、もう1度会える。





 「ゆうひ様っ!!」





 太陽の日差しがまぶしいくらいに、わたしの世界を照らしました。


お読みいただきありがとうございます( *´艸`)

もう少しで1章が終わります!


少しデレたイロリさんとチッタさん。いかがでしたか?

そうです。これが私が書きたかった物語なんです( ;∀;)


シリアスなんてけもみみの前には無力なのですよ!!!


…失礼、取り乱してしまいました。


評価・ブクマ・感想頂ければ嬉しいです(*^▽^*)

よろしくお願いします!

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