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#11 変化

 夕陽はチッタを抱きかかえたまま狐人族が囚われていた檻に向かい、()()()で鍵を壊し狐人族を開放する。

 わぁっ!!と歓声が沸き立つ。

 夕陽は他の狐人族―イロリたちが戦っている方角に目を向ける。すると、狐人族の戦士たちが冒険者と戦っているのが見える。

 ふと、金色に輝く9ツの尾をなびかせながら、妖力を振るう狐人族を見つける。

 その狐す人族はゆっくりとこちらを向き、そして夕陽と目が合い、微笑んだ。


 …っ!?


 確かに、夕陽とその狐人族―イロリは目が合った。


 …俺の視力はこんなにも良かったか!?


 夕陽のいる場所と、イロリたちが戦っている場所はおよそ10kmは離れているように思われる。それなのにはっきりと相手の顔を、表情までも認識できてしまった。


 …何が起こっている?


 青黒の炎といい、檻をこじ開けた力といい、夕陽には自分に何が起こっているのかさっぱりわからなかった。


 「黒髪の兄ちゃん」


 物思いにふけっていると、狐人族の少年に声をかけられ、意識が現実に引き戻される。その少年は見覚えのある顔だった。


 「…アルン、だったか?」


 するとアルンはニパッと笑う。


 「うん!助けてくれてありがとう!」


 「本当にありがとうございます」


 アルンの母親が右膝を地面に着け、頭も地面に着くのではないかと思うほど深々と頭を下げる。

 いや、アルンの母親だけではない。囚われていた狐人族全員が同じような姿勢をとっている。


 「ユウヒ様、この御恩は決して忘れは致しません」

 「あ、あぁ」


 夕陽は少し戸惑ってしまう。


 「しかし、ユウヒ様も立派な尾をお持ちだったとは…。今までの非礼、お許しください」

 「…え?」


 その言葉に耳を疑う。

 慌てて自分の背後を確認する。するとそこにはうっすらとではあるが、9ツの尾が揺らめき、そして虚空へと消えていった。


 「い、いや。構わない。それに俺は狐人族じゃない。だから顔を上げてくれ」

 「…仰せのままに」


 どうしよう。困ったことになったなぁ…。









 チッタを抱え、そして狐人族を引き連れて集落に戻る。幸い、大きな怪我をした者はいなかった。ただ、チッタが目を覚まさないのが気がかりだった。自分が意識を失っている間に何があったのだろうか。不安でしかなかった。

 息はある。それだけが救いだった。


 イロリたちはすでに戦闘を終え、各自思い思いに休息をとっていた。


 「ゆーひさん。ウチの家族を助けてくれてほんまおおきに」


 イロリは戦闘の面影を一切感じさせない、大広間で初めて会った時と同じように乱れのない姿で立っている。


 「イロリ、いろいろ聞きたいことがあるんだがまずはチッタだ。目を覚まさないんだ」

 「慌てへんでええよ。ただ疲れて眠ってるだけやから」

 「…そうか」


 その言葉に夕陽は胸をなでおろす。


 「ウチも話したいことがあるんやけど、後でウチの部屋まで来てくれへんかえ?」

 「ああ、わかった」


 夕陽は頷き、チッタをイロリに渡す。


 「ほな、またな」


 イロリは周りの戦士たちに戦後処理、囚われていた狐人族のサポートを手早く指示を出す。


 「―お疲れさん、チッタ。それがあんたの出した答えなんやね」


 優しく、しかし小さな声は誰に届くことはなかった。



 自らも行動を開始したイロリの向こうに、夕陽を見つめる1人の狐人族がいた。

 フォルクだった。

 大広間で夕陽とチッタに怒声を浴びせた狐人族だ。

 フォルクは夕陽の目をじっと見つめたまま、静かに右膝を地面に着ける。囚われていた狐人族とは異なり頭は下げなかったが、夕陽はそれがフォルクなりの礼であると感じた。だが、自分がどのような返しをすればいいのかわからなかったため、フォルクの目をみつめたまま頷いた。すると、フォルクも静かに立ち上がりイロリの指示に従うべく行動を開始した。


 …これでよかったのか?


 ただなんとなく、思わぬ方向に状況が動いているように夕陽は感じていた。









 大広間。

 そこには狐人族の長であるイロリと、異世界かこの世界に迷い込んできた佐渡夕陽が向かい合って座っていた。


 「さて、ゆーひさん。ウチが話したいことっちゅうのは、たぶんあんさんが聞きたいことと同じやと思うねんけど?」


 イロリは静かに懐から煙管(キセル)のような物を取り出し口に咥える。しかし、火は付けずに、ただ咥えただけだ。


 「俺が聞きたいことはこの世界のことと、今の俺の身体に起こっていることだ」


 せやろね。と、イロリは目をつむり頷く。


 「ほな、まずはこの世界のことについて話そか」





 ――この世界のことを、人間どもは『アルムダルム』と呼んどる。まぁ、狐人族のウチらからすれば、どう呼ばれようとも関係あらへんことなんやけども。


 そんで、アルムダルムは5つの大陸国と2つの島国から成り立っとるんや。

 大陸国は東西南北とその中央の5つ。


 まず、ウチらのいる東ノ国『アイデン魔導国』。西ノ国『ユースティリア帝国』。南ノ国『イリノール共和国』。北ノ国『ミュニスリア連邦』。最後に、中央に位置して、全ての国と接している『王都ベルン』。


 島国の2つは『モルド』と『倭国(わこく)』。どちらもイリノール共和国よりも西に位置していて、大陸に住んどるウチらからはどんな国なのか想像もつかへん。



 アイデン魔導国は、名前からも想像がつくように魔術に長けた国や。国王のゴルディア・アイデンはこの世界で右に出る者はいないと言われている最強の魔術師(ウィザード)よ他国からは「魔王」とも呼ばれておる。

 そう呼ばれるには他にも理由があるんや。ゴルディアは初代国王にして現国王。言っている意味がわかるかえ?

 ちなみにやけど、アイデン魔導国は160年の歴史がある国やで。考えられへんやろ。



 ユースティリア帝国は、アイデン魔導国と違って魔術はそこまで進歩してへんのや。その代り、武術に長けておる。

 この国の帝王、アイリス・ディネーゼ・ユースティリアは脳みそまで筋肉か思うほど脳筋バカやから、「力こそ正義」っちゅう思想で国が成り立ってるらしいんよ。そんなお国柄か、最強の戦士であるアイリスに、国民全員が服従しているんやて。



 イリノール共和国は魔術にも武力にも長けておらん。むしろ戦力を持ってない言うたほうがええかもしれん。この国は戦争をはじめとした武力での争いを放棄しとる唯一の国や。

 そん代わり、最新の芸術の発信地として名を轟かしとる。商いも活発やし、何より暖かい気候を生かした農業も有名や。各国の店に並んどる野菜や果物のやく半分はイリノール産と言っても過言ではないんやと。



 ミュニスリア連邦は…ようわからん国なんよ。わかってることは、最初はいくつかの国に分かれていて、それを今の国王アイズベルトが1人でまとめ上げたらしいんよ。どの国よりも1番若い国っちゅうのも、情報が少ない理由の1つかもしれへんね。



 そして、王都ベルン。

 この国は絶対王政を敷いている独裁国家や。1番危険な国でもある。各国のお偉いさんの近い人を国に招待して、1年間ベルンに住まわせるんやと。表面上は「国と国の繋がりを強くして仲良おしようや」っちゅうことらしいんやけど、実際は違う。人質やろな。おかしなことせえへんように、な。

 危険な理由がもう1つ。

 この国の戦力はどの国よりも強い。なぜなら「ユウシャ」と呼ばれる存在が4人もおるんやて。…それがどうしたみたいな顔してはるな。もし、この「ユウシャ」が本物の「勇者」ならどえらい大変なことなんや。

 本来、勇者は数10年に1度。もしくは数100年に1度この世界に生み出されるか否かの存在なんよ。その力は“神”に相当する言われとる。

 …“神”がどれだけ強いかって?それは…どえらい強いんやろね。唯一無二の存在にして絶対的存在。なんせこの世界を創造(つく)ったのは原初4柱の神々やからね。








――「と、まぁ簡単に説明させてもろたけど、質問は?」

 「いや、頭がついていけていない」


 せやろね。と、微笑みながら妖力で生み出した火で煙管に火をつける。

 ふぅ…と煙が勢いよくイロリの口元から天井に向かって吐き出される。


 「次に、ゆーひさんの身体のことなんやけど」


 来たか。夕陽は息をのむ。


 「率直に、ゆーひさん。あんさんは1度死んどるんよ」

 「…え?」


 夕陽の思考はそこで停止した。


お読みいただきありがとうございます( *´艸`)

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