1 村に到着しました。
「それにしても、色んな素材があるな。」
数分歩き続けて、道を発見した零人が道なりに歩きながらそう呟く。
道の左右にも、素材の説明文が浮いている場所があり、そこに目をやっていた。
最初に見たキュアグラスを初め、同じく回復薬の材料になるらしいグリングラス、薬の効果を高めるらしいブーストフラワーという名前の赤い花などだ。
他にも、低級品質の鉄鉱石である赤色鉱石という物も発見できた。
「というかこれ、合成できないだろうか。」
と休憩所と書かれた看板(見事に日本語だった)の横にあるベンチに腰掛けながら、零人は思った。
手元にあるのは、回復薬の材料になる、と説明があったキュアグラス、グリングラス。そして数は少ないがリカバーグラスと呼ばれる白っぽい草。というか全部草なんだけどねこれ。
結局、ビームが出そうな程力を手から放出させようとしたり、重ねたりと色々やってはみたがダメだった。
MMORPGの世界なら、スキルウィンドウの合成で一発なんだけどな。
それと、もう一つ問題がある。
ゲームの世界なら、アイテムインベントリで、アイテムの一括管理と保存が簡単なのだが、俺は何も持ってないしそういう機能もない。
一応、少数のアイテムをポケットに入れているが、そう多くは持っていけない。
この世界にも、そういう道具箱みたいなアイテムはあるのだろうか。あっても、俺が入手できるのかはすこし疑問だ。
俺は生産職らしいし、そういうアイテムを持っていないと死活問題なんだけど・・・。
休憩を終えて、道なりに進んでいくと小さな村にたどり着いた。
村の入り口には『ゼルノ村』と書かれている看板がある。
おお、異世界で初めて見る村だ!と零人は感激していると、一人の兵士っぽい人が近寄ってきた。
「すまない。君は旅の者か?」
おお!こいつ兵士だ!・・・いや、まんまなんだけど、本物の鎧を着て、腰に剣を携えてるんだぜ、コスプレとか劇で使うレプリカじゃないんだぞ。
「ああ、まあそんな所だ。」
と零人が返事をすると、少し兵士の視線が訝し気な目線へと変わる。
「すまないが、旅人なら道具袋を初め、旅に必要な物くらい持ってるはずだが?」
道具袋?またファンタジーっぽい物だな。
この兵士は、自分が何も持たずに旅をしてる事に疑問を覚えたんだろう。
まあそりゃな。だって俺は私服だけでここに飛ばされたんだ、当たり前だろ。
「・・・あ、ああ。盗賊に奪われてな。残された荷物も置いてきたんだ。」
適当な理由をつけた。盗賊に奪われて~は、俺の中では結構ありきたりな理由なんだけど、どうなんだろう。
だが、これを聞いた兵士は驚いた顔をしてさらに詰め寄ってきた。
「何!?盗賊だと!それはどの辺りだ!?」
うげっ、やべえ。何でこの人こんなに怒ってるの?
いや、怒っては無いけど、この村自体が盗賊と何かトラブルでも起こしてるのか?
「向こうに草原があって、そのさらに向こうかな?道なりにずっと行った辺り?」
と適当に言ったが、兵士は何かを考え込むようにして顔に手をやった。
俺自身も、よくここまでその場しのぎの嘘が言えたな、と思った。第一、草原の向こう側なんて知らんし。
「草原の向こう側・・・となると、フォレン大森林地帯か。なるほど、あそこなら隠れるのにうってつけだな・・・」
あるのか。大森林地帯ねえ。知らなかったぞ。
隠れやすそうで、隠れ家も簡単に作れそうだけど。盗賊がいるとは分からんぞ。
「分かった。情報提供感謝する。この事は、王国警備隊に報告して、近々大規模な討伐が行われるだろうな。」
盗賊がいるかも分からないのに、そんな事になっちまったよ。
やばいな、まあなっちゃった物はしょうがないけど・・・。
兵士との会話を終えて、俺はあたりを見渡す。
村は300人くらいが住むくらいの規模らしい。中央に集会場があり、北に村長の家があり、そこから南に向けて民家が並んでいる。
所々に、衛兵や自警団の詰所が存在し、村の守りを担当しているようだ。
集会所に入ると、人は誰も居ないようだ。
俺はゆっくりとあたりを見渡して・・・本棚に目を付けた。
いや、正確には本棚に仕舞ってある一冊―――『合成術』という本だ。
俺の持つ生産職としてのスキルは、多分合成術だろう。それなら、この本を読めば何かわかるかもしれない。
小一時間後。本を読み終えた俺は、かなりの事が分かった。
まず、合成術は扱える人が極僅からしい。
この世界では、魔法と呼ばれる物が存在しており、攻撃魔法、回復魔法、補助魔法、生産魔法の4つに分けられる。合成術は生産魔法にカテゴリされる。
素材同士を掛け合わせて道具を作る事が目的の合成術だが、難易度の高さにに魔力注入の問題がある。
例えば、低級回復薬を作るレシピはキュアグラスとグリーングラスを一定量煮込んで作られるらしいが、その動作一つ一つに少しずつ魔力を注がなければならない。
少しでもそれを怠れば、作成するのに失敗するか、効果がダウンした物が出来上がってしまうという。
「なるほどな。それにしても、低級回復薬か・・・。」
この本を読んで、少しだがアイテムの作り方が分かったが・・・
低級回復薬のレシピは、キュアグラスとグリングラス。それを取り出すと、以前とは違う文字が浮き出ていた。
キュアグラスとグリングラスで低級回復薬を合成しますか?
え?合成できんの?だって、本には煮込むとかどうとか書いてあるけど?
と思いつつ、頭の中で合成する、と思い浮かべる。
すると、目の前の素材が光に包まれたかと思えば、数秒後には緑色の液体は入った小さなビンが出てきた。
低級回復薬《道具》
自然治癒力を高めて、傷の治りを早くする回復薬。
おおっ、成功だ!・・・俺の能力が分かってきた。
俺は、よく小説にあるようなステータスがチート!とかいう事は無いが、面倒な工程を省いてアイテムを作る能力と、アイテムの情報が一発で分かる能力を持ってるらしい。
村に着く前の道端の休憩所での時は、合成しますか?の文字は無かったな。
多分、さっきの本で作り方が分かったからだろう。
とあるゲームで、レシピを入手すればアイテムを作れるようになる、というのがあったが、多分そんな感じだろう。
レシピに該当する情報を、一回でも頭に入れとけば、すぐに一発で合成できるようになる訳だ。
そういえば、俺はこの世界の通貨持ってないよな・・・。
なら、適当に回復薬作りまくって、道具屋で売ってみるか。いくらくらいになるのやら。
それからまた小一時間ほど、いろんな本を読んでいた零人は席を立ちあがると、本を元の場所に戻して集会所を出た。