0 異世界転移は唐突に。
―あれ?ここはどこだ?
気づいたら、見渡す限りの大草原。
いや、間違いなくそうだ。さっきまであったソファーやテレビは跡形もない。
「・・・は?」
いや待て、よく思い返してみよう。
俺は確か、家に帰ってゲームをしようとして、まずは二階にあるベッドの上に学生鞄を投げた。
そしてリビングに行って、電気を付けようとスイッチを押そうとしたが、そこで金縛りにあったのは覚えている。
そこからはよく覚えてないが、意識が戻りある程度落ち着いて辺りを見渡したら、見渡す限りの綺麗な草の絨毯が広がっている訳で。
「いや、おかしいだろ!?」
これあれか。夢だ。うん。
思えば確かに、六時間目に行われた抜き打ちテストで、俺は34点という成績をたたき出した。
そして先生に説教を受け、追試を3回程度やらされた。疲労はかなり溜まってる。
きっと、疲れてリビングで寝てしまったんだ、そうだ。なら、ほっぺたを引っ張ればなんとか。
なりませんでした。
痛かっただけです。はい。
俺はふと思い出した。
確か、こういうシチュエーションは何回か見た事があるぞ。
――そう、小説で読んだ事がある。異世界転移とか転生とかじゃないか?
もしそうなら、俺にはチートじみた能力があるんじゃないか!?
そう思って、近くにあった岩を殴りつけてみたが。
「手が!手が死ぬ!」
俺は腫れた手を押さえながら泣く羽目になった。勿論だが岩は無傷だ。
ゲームにあるようなステータスウィンドウもログアウトもないし。
こうなると、俺自身(元の世界と全く同じ)がここに転移されたという事だろうか。
だが、そうなると・・・俺はどうやって生きていけばいいんだ?
特別な力は無さそう。ここはどこかも分からない。異世界なら何が居るか分からない。
「・・・俺は何でこんな事に・・・って、ん?」
俺は突然の出来事に落ち込んでいたが、離れた場所に文字が浮かんでいる事に気付いた。
何かあるかも、という事で、俺はそこへ向かう事にした。
俺の名前は高宮零人。高校2年生だ。
ついさっきまでは、ごく普通の高校に通う、いたって普通の高校生だった。
成績?聞くなよそんなもん。泣くぞ。
それでな、聞いてくれ。俺、異世界に転移したっぽいんだよ。
ゲーム世界からの転移とか、死んで転生しました、とかじゃなくて、家に居たら、だぜ?
しかも、チートな能力も無さそうで。
俺、誰に向かって話してるんだろうな。
現実世界でも、喧嘩は弱くはないが強くもない程度、頭は最低限あるレベル。
ゲームをしてもセンスが無いと言われて、そのくせ読書好きで、男らしく無いと言われてるような男だよ俺は。
おっと、話がそれたな。
俺は文字通り、異世界っぽい場所に転移して、何もない草原のど真ん中に居る。
俺は何をすればいいのか分からなかったんだが、面白そうな物を見つけたんだ。
「なんだこりゃ?いや、雑草だよな。」
零人が見るのはただの草だ。よく道路脇に生えてるようなあんな草だ。
だが、その草の真上に文字が浮かんでいる。
キュアグラス《素材》
主に回復薬の材料となる草。様々なアイテムの基礎となる。
ん?回復アイテム?素材?
と考えて、ふっと思い浮かべたのは、ゲームをやっていた時の事だ。
俺はさっきも言ったが、ゲームのセンスが無いと言われた事がある。
自分でも理解していたので、MMORPGでも剣士や魔法使いといった戦闘職はできる限り避けて、生産職―アルケミストやスミス(鍛冶屋)をやっていた。
もちろん、それで薬草から回復薬とかを作っていたのだが、それに似ている、と思ったのだ。
「うーん、もしかしたら、俺は戦闘技術じゃなくて、生産職としての技術が備わってるのか?」
と推測してみる。
さっきまで落胆していて気づかなかったが、遠くを見れば同じような文字が見える。
恐らくだが、これと同じような素材アイテムの説明文だろうか。
「そして、俺には一目見ただけで素材の名前と用途が分かる。」
この説明文は空中に浮いており、俺も触ろうとしたがスカッと手が素通りした。
元の世界で言うホログラムみたいな物のようだ。
よし。俺は全くの無能じゃないようだ。
とりあえずそれが分かっただけでも安心だ。
「・・・次に考えるのはこの世界でどうやって過ごすか、だが・・・。」
もしこの世界がRPGとかの世界なら、魔物・・・モンスターも居る可能性が高い。
そうなれば、武器:無し。 防具:私服 特殊能力:なし な俺なんてただの餌だ。間違いない。
何としてでも、夜になる前に村か街に到着しないと、俺に命はない。
そして、もう一つ、俺は絶対的な目標を掲げる。
「いつか、絶対に元の世界に帰るぞ!」
そう叫ぶと、零人は見知らぬ土地を歩き出した。
どういう世界かは知らないが、できる限り早く帰ってやる!と強く思いながら、異世界転移からの脱却を目指すのであった。