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第9話 ダンジョンボスの居場所は?

 キリ―はどこかへ迷子になり、ルシファーも自分で蹴り飛ばしたドラゴンを追いかけて飛んで行ってしまった。

 僕は迷いの山脈という超難関な魔物の巣窟でたった一人になってしまった。

ロープレだったら仲間が死んで主人公一人になるのも分かるが、仲間が勝手に何処かへ行くなんて、どんなゲームクリエーターでも考えやしないだろう。

「現実は小説より奇なり」と言うが、そんな馬鹿な事は無いと思っていたのに。自分がそんな状況に陥るとはなおさら思っていなかった。

願わくば、僕が目にしている世界は夢や本当に小説であって欲しい。本当にこの世界が夢なら、どれだけ良かっただろうか。

異世界トリップを望む人間なんて、現実世界においての不適応者だけだと思う。あるいは、異世界トリップの過酷さを知らずにいるだけの者か。ていうか、普通はその苛酷さを知るわけない。

僕なんて、スライムとゴブリンに殺されそうになるぐらいの強さだ。ゲームの中でポコポコ倒すモンスターに殺されそうになれば、誰もが泣いて、元の世界に帰りたくなるだろう。

「はぁ・・・」

 僕はため息をついて、その場に腰をかける。今まで歩いてきて、もう足がパンパンで痛い。僕は足をもんでほぐす。靴の脱げてしまった靴下が、もうボロボロだった。

 僕が今いる所は、標高80M(メートル)ぐらいって所だろうか。我ながら、よくここまで登り詰めたものだ。運動会の徒競争で悩んでいた自分が懐かしくなる。どう頑張っても3位にしかなれなかった。

 しかし、僕にはこんな所でくよくよしている暇は無い。

 僕には魔王を倒すという使命があるんだ。

 元の世界に帰って、親友とまた馬鹿騒ぎをするんだ。

 と言うか、こんな所でくよくよしていたら、後ろから魔物に襲われてお陀仏になりそうだ。一刻も早く対策を考え、この先の方針を立てなければ!

 とりあいず、状況を整理しなくては!!

 

魚の目(アフロディテ)師匠も言っていた。

「どんな時でも、どんな困難な時でも、状況整理は大事です。ここで整理を怠ると、王家から預けられた手紙を紛失したり、お弁当を忘れてお腹を空かせたり、魔法を使おうとして、杖と埃はたき棒を間違えて振ったりしてしまうのですよ。」

 

 そう、どんな時でもきっと打開策はある。しかし、己の眼を濁らせてしまえば、見えるものも見えなくなる。心を鎮め、落ち着ける事が肝心(かんじん)だ。

 状況整理だ。

 僕は迷いの山脈で一人である。

 武器は剣と王家の猟銃と魔法のタクトである。

 持ち物は王様の餞別にくれた金貨十数枚に、王家の狩猟袋。

王家の狩猟袋は狩猟に必要な色々な物が入っているのだ。袋は両手サイズだが、中は空間拡張されていて、小さいタンスぐらいの広さがある。中には、弾丸と薬莢がたんまりあり、投げ網、ロープ、鶴の恩返しにでてきたような罠(名前は覚えていない)、それに何やらいかがわしい本(この袋は王様の隠し場所だったらしく、その題名は「タ‐へナルアナトミア」だった。杉田玄白らを愚弄するかのような代物だった。)。その本を見て、僕がどうしたかはここでは特筆するべき事ではない。健全なる男子ならば当たり前の事である・・・・・



状況整理をしている間に、もう日が暮れてしまった。世の中、罠とは思えない物が罠だったりするものだ。

僕は気を取り直して、考え直した。

「うーん、何か忘れているような気がするな?」

 僕が悩んでいると、「グー!!」と僕のお腹が自己主張した。どうやら僕は、困難な状況に陥ったせいで、自分の体の状態が分かっていなかったようだ。

「そうか!!何かを忘れていると思っていたら、僕は食料を持っていなかったんだ!!」

 ナルホドと、僕は手をポンと叩いた。

 もう一度、「グー!!」とお腹が鳴って、僕は(むな)しくなった。

「王様もエロ本なんかじゃなくて、お菓子でも隠してくれたら良かったのに・・・」

 僕はうな垂れる。さっきまで夢中になっていたくせに、人は苦境に陥ると誰かのせいにしたくなるものだ。

 僕は再考する。

 すると獅子王(ライオン)師匠の言葉が頭の中に思いだされた。


「ワタルよ。世の中死んだらそこで終わりだ。それは誰もが知る事。ミミズだって、オケラだって、アメンボだって、死んでしまえばそこで終わりなのだ! 勇者ワタルよ、汝が少しでも苦境に陥ったのであれば、とりあいず逃げておけ。この世の平和の為に、何を為すべきか、逃げた後でゆるりと考えれば良いのだ!!」


獅子王(ライオン)師匠。あなたはライオンではなく、ウサギっぽい考えをしていますが、弱者な僕にはそれが正しいと思います。だから、僕は貴方の教えに従います!!

 僕は獅子王師匠に感謝の念を胸に秘め、決意を固めた。

僕は迷いの山脈から下山し、ふもとの村で宿泊する事に決めた。どうせキリ―には、宇宙戦争の最前線や海底の古代遺跡に行かねば会えないだろうし、ルシファーもこんな広い山の中で再会できるとは思えない。

 つまり、僕が今とれる最善策は、魔物に殺されないように下山して、ふもとの村でルシファーと合流する事だ!

 まぁ、ルシファーなら気がつかないうちに黒豚の魔物を倒しているかもしれないけど。黒豚よりもドラゴンの方が強そうだった。

 そうと決まれば、「善は急げ」だ。

 僕は登って来た山道を下って行った。登って来た時よりも足が軽い。依頼の魔物と戦う事を一時的に放棄したせいだろうか。

「ふん、ふん、ふーん♪ふ、ふん、ふん、フーン♪」

 僕はカルメンの鼻歌を歌いながら、スキップして下って行った。

 油断していたら、足が木の根に引っ掛かって転んだ。

 少しベソをかいた事は誰にも内緒だ。



僕は下山している最中、何か動物を狩って食事でもしようとも思った。しかし、僕が動物達を見つける前に、動物達が僕を見つけて逃げられてしまった。

どうやら狙撃士の才だけでは、優秀な猟師にはなれないらしい。

帰り道は木にペケ印を刻んできたため、迷いの山脈でも迷わずに帰れそうだ。途中、キリ―が切り倒した木を見て、よく生きていたなと実感した。


僕はようやく迷いの山脈を抜けられそうだ。

もう夜は更け、空には満天の星が輝き、二つの月が空高く登っている。

「ようやく、こんな恐ろしい所から出れる。あ~あぁ。村でおいしいご飯に、温かいお風呂、ふかふかのベッドが待っているんだろなぁ♪」

 僕は迷いの山脈から抜ける事ができた安心感ですっかり油断をしていた。

 弱者である僕は、どんな時でも周りに満ちる危険に気を払わなければならなかったのに・・・。

「イタッ!!」

 僕は小走りをしていると、足元の石に(つまづ)いて、盛大に転んでしまった。

「痛たたたた・・・」

 僕が起き上がろうとすると、僕の背の上を熱気が通り過ぎた。

「へっ!?」

 すると、僕の左の方でドカーンと何かが爆発する音が聞こえた。

「ナ、ナ、何?こんな所で魔物の襲撃か?」

 僕はあたりを見渡しが、暗くてよく見えない。

「フン、運の良い奴め!」

 遠くから誰かの声が聞こえてきた。

「だ、誰?」

 僕の声が上ずる。

 僕は声が聞こえてきた方向に目を向ける。

 暗いから見えづらいが、その人物はこちらに歩んでくる。

 声からして、恐らく彼らしき人物は2m位の背丈であり、肌は黒いようだ。

 彼は、武骨な黒い鎧と兜を身につけ、巨大な斧を片手に持っている。僕では持ち上げるのが精一杯だろう。

 彼は不気味に笑いながら、こちらに足を進める。彼は僕を格好の獲物だと思っているようだ。

 僕と彼との距離が50mに縮まった時、月と星しかない空の下、ようやく彼の姿がはっきりと見えた。

「・・・・な、なんで、こんな所に!?」

 僕は声を上ずらせて聞く。

 そう、それは意外な人物だった。

 彼はニ足歩行をする黒豚だった。

 と言うか、キリ―が持っていた手配書とまったく同じ姿であり、僕らが探していた依頼の魔物であった。

 なんで、ダンジョンボスがこんなダンジョンの入り口に居るんだよう!!

「フフフ、なんでお前達が探していた黒豚(こくとん)一族最強の俺様がこんな所にいるのかだって?冥土の土産に教えてやってもいいぞ!?」

 黒豚(くろぶた)は偉そうに語る。

「ハハハハ!我こそが、魔族最強の4人のうちの一人!四天王の一角、知将「暗黒(あんこく)混豚(こんとん)とは我の事だ。ワハハハハ!!!」

 最初の冒険でいきなり四天王の一角が現れたようです。僕ってかなり、大ピンチ!?

 僕はぶるぶる震えて、声も出ない。

「それで、何で俺様がこんな所にいるか?だっけな?」

 黒豚(くろぶた)は聞いてもいないのに、もったいぶって話しだす。どうやら自慢したいらしい。

「俺様は結界を張り、俺様の城を隠していたのだ!!」

 黒豚(くろぶた)は自分の後ろの方を指、じゃなくてヒズメを差した。

 小さな崖の下に、小さなログハウスが建っている。大草原の小さな小屋なのだろうか?

「えっ?な、なんで迷いの山脈の中ではなく、ふもとに小屋を建てているんですか?」

「小屋ではなく、城だ!間違えるな!!」

 僕の問いに対して怒る。自尊心はとても高いみたいだ。

 豚は心を落ち着けて、話を続けた。

「まぁ、良い。先ほどの問いに答えてやろう。お前は俺様を見つけるためには何処を探す?」

 クルンと丸まった尻尾がゆれる。

「えっと、迷いの山脈?ですよね?」

「そうだ、愚かなる人間どもはあんなに高くて、登るのが面倒な迷いの山脈を探すだろう。そうして何日間か俺様を探しても見つからなければ、ついにあきらめて下山してくるだろう?」

「えっと、そうですね。」

 黒豚の言う事に僕は頷く。

「ならば下山してきた時は当然ヘロヘロだろう?」

「そうですね。」

「下山した奴は、当然気が緩んでいるだろう?」

「そうですね。」

「ならば、超強い俺様がそんな奴らと戦っても、もちろん瞬殺だろう?」

「そうですね。」

「もちろん、俺様だって、毎度毎度、下山して村を襲い、登山して帰るなんて面倒でかったるいだろう?」

「そうですね。」

「山で食糧を得なくたって、村で食い物を奪えば楽だろう?」

「そうですね。」

「フフフ、だから俺様は迷いの山脈のふもとに我が城を建てたのだ。」

「(小声)せこい。」

「はぁ?何か言ったか?そのせこい策略に引っ掛かった馬鹿は何処のどいつだ?はぁん?」

 黒豚(くろぶた)さんは耳ざとく僕の呟きを捉えた。その言葉は正論で僕は耳が痛い。

 えっちら、おっちら、一生懸命に山を登ったのに。迷いの山脈で3度も死にそうな目に合ったのに!(その内一回は仲間のせいで・・)目標がすぐ目の前にあったなんて、かなり気が萎えてくる。

 チルチル達は自分の家で青い鳥を見つけて幸せを得たようだが、僕が山のふもとで見つけたのは僕を殺そうとする黒豚さんでした★なんちって。

って、全然笑えないし!?どうししたらいいの?助けてルシファー。



勇者ワタル、またまた大ピンチ!?

いったい彼の運命はいかに!?


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