第8話 そして、勇者の御一行様は誰もいなくなった
僕とルシファーはルシファーと二人で山を登り続けた。
僕はルシファーを盗み見る。
ルシファー、・・・どこかで聞いた事のある名前だなぁ。
そう思いつつも、僕は何処で聞いた名前なのか思い出せずにいた。
(ルシファー、君はいったい何者なのだろうか?)
彼はキリ―が居なくなってから、ますます不機嫌になった。残念な美少女も目の保養にはなっていたらしい。
僕は心を決め、彼の正体を問う決意を構えた。
「ねぇ、ルシファー・・さ、様。あ、あ、あなた、さ、様、まは。・・いったいな、何者なので、しょ、しょうか?」
僕は疲労のあまり、言葉づかいがおかしくなったようだ。けっして、緊張により、過呼吸になんてなっていない。
「えーっと、どうするかなぁ。このまま力を隠して行くのもメンドーだし。」
彼は少し迷っていた。
神との言いつけは絶対なのだ。
もちろん、彼が良い子ちゃんじゃ無いので、こうやってこの世界に堕ちたのだが。
「まぁ、いっか。メンドーだし。」
神の言いつけもどこ吹く風と、あっさり破る事にした。神様のお気に入りのくせに、罰を受けただけの事はある。
「あぁ、俺は完全無欠美男子な偉大なる天子長様だ。」
「て、天使様ですかぁ?」
僕の声が裏返る。これまでのルシファーの言動を考えても、とても天使には見えない。
唯一天使っぽい所は、ハンサムな所だけだ。
「疑っているのかぁ?はぁん!?」
「い、いえ、そんな事無いです。」
僕はあわてて否定した。
「で、でも。どうしてこの世界にいるんですか?」
僕は怒りを反らすため、話を促した。
「それはだな、恐らく嫉妬だ。」
彼は遠い目をして言った。
「し、嫉妬ですか???」
僕は頭の中がハテナマークだらけになった。
「あぁ、俺のボスであるイエスキリストは俺に嫉妬したんだ。俺は、美しい物を愛で、美味なる物を嗜み、わびさびで風情ある時間を過ごすのを愛した。」
僕は頭の中で、「美しいものを愛でる」=「女の子たちをナンパ」、「美味なるものを嗜み」=「酒池肉林」、「わびさびで風情ある時間を過ごす」=「ゴロ寝」と変換した。あながちはずれでは無いかもしれない。
ルシファーは続けた。
「神は大変忙しく、そんな心豊かな俺様に嫉妬した。俺をこの世界に墜とし、勇者であるお前と共に魔王を倒す事を命じられたのだ。」
神様はそんなルシファーに腹をたてたのかもしれない。数日間一緒にいる僕には、神様の気持ちが分かったような気がした。
そんな話を聞きながら、僕はルシファーを聞いた事のある理由が分かった。キリスト教で地獄に堕ちた、堕天使ルシファー、もしくはサタンともいう。話を聞いているうちに、僕は疑問に思った。
「神様をイエス・キリストって言ったけど、この世界にもキリスト教があるの?」
「ふむ、お前はキリスト教を知っているのか。どこの世界から来たんだ?ミラージュドリームか?アラゲ●ジア?ジュエ●ランド?それともガイアか?」
ルシファーは珍しく興味ありげに聞いてきた。
「うーん、多分ガイアだと思う。僕達は地球って呼んでいるけど。」
「そうか、あそこは厄介だなぁ。」
何が厄介なのだろうか?分からないが僕はルシファーに元の世界に戻る方法は無いか聴いてみた。
「ねぇ、ルシファーは僕を元の世界に戻す方法を知らない?」
「さぁな?俺達天使には、神の命令無しには異世界に行けない。」
僕はルシファーの足にすがり着いた。ルシファーは嫌そうな顔をするが、ここで機会を逃すわけにはいかない。
「じゃぁ、神様にお願いしてくれない。僕を元の世界に戻すように・・。」
ルシファーは面倒そうな顔をして、頭を掻いた。
「それは、無理かもな。」
「どうして?神様でも無理なの?」
ルシファーは首を振る。
「いや、神様だからこそ無理だ。」
「どういう事?」
僕は絶望した声で尋ねる。
「神や俺達神の遣いはな、信仰する者がいてこそ力を発揮できるんだ。だから、信仰者の取り合いは昔から続いているんだ。この世界は俺達の神、キリスト教が支配できた世界であるため、神は俺をこの世界に派遣できたんだ。」
ルシファーは足にすがりついていた僕を蹴り飛ばし、話を続けた。
「ワタルの住むガイアは、さまざまな神々が自分の領土だと主張している世界である。仏教、イスラム教、ギリシア神話、北欧神話。後は忘れたが、さまざまな神の一派が領地を主張しているため、硬直状態の冷戦状態にあり、下手に手出しができないんだ。俺らがお前を元の世界に戻そうとすれば、他の神々から集中攻撃をくらう。他の神々の一派もガイアに干渉すれば、どうなるかは然り。まぁ、だから、神に頼んで元の世界に戻る事はあきらめた方がいい。」
僕はショックで頭が重たく、目の前が暗くなった。なんで、神様のくせに、日中領土問題みたいなのを抱えているんだ!!
「何とかならないのー!!!」
「こら、やめろ!!鼻水たらして、俺に近づくな!!殺すぞ!!」
再びすがり着く僕を蹴り飛ばした。
僕はしくしく泣くが、それはかなり控えめな表現かもしれない。
「はぁ、最初の目標通りに古代遺跡を調査したらどうだ。俺も魔王を倒したら、神に頼んでみるわ。だめで元々なんだから期待はするな。」
「はぁ、僕は元の世界に戻れるのかなぁ?」
僕は涙ぐみながら、かすれた声で嘆く。
「誰か、助けてー!!」と叫んで、都合よく助けてくれるヒーローを呼びたい。しかしながら、僕こそが、不運にも助けを求める声に引きずり込まれてしまった勇者なのだ。勇者は助ける側の立場なのだ。
僕とルシファーはまた歩き出した。
僕は未だに涙ぐんでいる。
しかし、いつまでも泣いたって、誰も助けてくれやしない。
ルシファーは可愛い女の子しか慰めないのだ。別に、ルシファーに慰めて欲しいわけではないけど。
僕とルシファーが歩いていると、突如、緑色のドラゴンが空から現れた!!
大きさは像3頭分以上はある。めちゃくちゃ大きい。
「ようし、ワタル。今度はあれで特訓だ!」
「無理無理、絶対無理!!!」
犬歯をむき出しにして笑うルシファーに鳴き叫ぶ僕は引っ張られた。
なんで、こんなに大きなドラゴンが現れるのさ!ゴブリンの次にドラゴン?ここの山脈はモンスターのレベルに波がありすぎるよ!!
ドラゴンが何かを吐こうとしている。炎かレーザーか、ギ●フレアかどうかは知らないけど。
僕はルシファーの手から逃れて、木の裏に隠れた。ルシファーは引っ張っていた僕の手ごたえが急に無くなったため、転びはしないが、少し態勢が崩れた。
緑のドラゴンが緑色の粘液を出した。
緑色の粘液はあちらこちらに散らばった。僕の目の前の木にも飛び散り、一瞬で目の前の木を溶かした。どうやら、毒攻撃だったらしい。
僕はその猛烈な毒にビビった。
果たして、直撃したルシファーは無事だったのだろうか?
毒により溶けた時に白い煙が大量に発生した。
白い煙の中に一つの人影が立っている。
彼の鎧はめちゃくちゃに溶け、服装も乱れている。しかし、彼には一つの傷も無く、皮膚も少しの赤みも帯びていない。
しかし、決して毒の影響が無かったわけではなかった。
それは・・・・
「この、毒、くさい。」
僕は鼻をつまみながら、呟いた。それはとてつもなく臭かったのだ。
俯くルシファーの表情は分からない。
彼が顔を上げた時、僕は後ずさりした。とても表情が分かりにくい顔をしているドラゴンですら、恐怖しているのが僕にも分かった。
「てめぇ、殺してやる!!完全無欠美男子天使な俺様をこけにしやがって!!」
ルシファーは一瞬で間合いを詰め、巨大なドラゴンを天空の遥かかなたまで蹴り飛ばした。まるで、ア●パンチを喰らったバイ●ンマンみたいだ。
「待ちやがれ、てめぇ、逃げるつもりかぁ、はぁああん!?」
「いえ、ルシファーに蹴り飛ばされただけですよ。」
僕のツッコミも彼は聞いていなかった。
「はぁぁああああ!!」
彼は大きな叫び声を出し、背中から金色の大きな一対の翼を出した。頭の上には金色の輪っかが浮かぶ。
彼は一筋の閃光となって、空高く舞い上がった。
彼は流星となったドラゴンを地の果てまで追いかけてゆく。
僕は一人だけポツンとその場に残された。
そして、勇者の仲間は誰もいなくなった。
「僕、どうしたらいいんだろうか?」
その疑問に答えてくれる人はいない。
仲間とはぐれてしまった勇者ワタル。彼はこの困難をどうやって乗り越えるのか!?
奇想天外万丈波乱!!彼の冒険はいかに!?