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第7話 勇者ワタル!早くも大ピンチ!?

 僕とルシファーはスタッカート村で出会った、水色の少女ことキリ―の後を付いて行った。

 その後の数日、僕らは波乱に満ちた冒険をした。

 雪山で遭難しかけたり(僕だけ瀕死状態に陥った)、

 ジャングルで原住民に槍を突き付けられたり(僕だけ危うく神への生贄にされかけた)、

 王族暗殺計画の容疑者にされたり(僕は王が飲むはずの毒を少量飲んで倒れた)、

 『勇者よ、お前に世界の半分をくれてやろう。』と言う魔王の前から逃げ出したり(その時は二人とはぐれていて、僕一人だけだった)。

 この依頼は簡単にはいかない。

 この依頼をこなすには相当な覚悟が必要だ。

 ・・・と、彼女告げる。

「・・・、二人とも、覚悟はいいか・・・・。」

「「・・・・・・。」

 彼女の問いかけに、僕とルシファーは沈黙で答えた。

 僕らの沈黙に彼女は何かを感じたようだ。

 彼女はひとつ頷いて、前に向かった・・・・、が、僕とルシファーに呼び止められた。

「「何で、迷いの山脈に行くだけで、万丈波乱な冒険劇を繰り広げなくちゃいけないんだ!!」

 僕らは、長い道のりを経て、迷いの山脈の前にようやく辿り着いた。

 キリ―は酷いぐらいの方向音痴で、僕らもどうして迷子になったのか分からないぐらいだ。

 通常なら3時間歩けば着く距離なのに、世界を一周してこの山脈に辿りついたような感覚だった。

 さすがのルシファーもハンサムな顔に疲労の色が浮かんでいる。

 僕も依頼を始める前から、疲労困憊で倒れそうだ。

 唯一平然とした顔をしているのは、迷子になれているキリ―だけだった。

 やはり、一か月も依頼を達成できなかったのは、敵が強いからではなく、彼女が残念な程に方向音痴なせいのようだ。

「・・・過去は振り返っても何も得られない。私達は前に進むしかないんだ。」

 キリ―は遠い目をして空を眺めた。

「少しは反省しろ!!」

 僕は声の限り彼女に怒鳴った。




 迷いの山脈は見た目普通の山だった。

 山は木々で生い茂っていて、野生の動物、魔物も沢山いそうだった。

ただ、それなりに高く、とても広大で、依頼の魔物を探すのも大変そうだ。

 僕らが山に足を踏み入れようとした時、ルシファーが顔をしかめた。

「何だか、結界があるのか、空間が歪められている気配がする、いや、シマスよ。」

 ルシファー、君は胡散臭い話し方が面倒になったんだね。もう普通に喋っても良いよ。

 しかし、結界があるという話しは見過ごすことができない。

 僕はふうむと唸る。

「ルシファー、空間の歪みはこの迷いの山脈が持つものなの?誰かが作り出した物なの?」

「恐ラク、何者カガ、コの結界を作り出しているようだ。」

ルシファーは思案しながら話す。

 キリ―も自分の思考に没頭する。

「なるほど、私が迷いの山脈に近づく事すらできなかったのは、結界のせいなのか!?」

「「それは違う、お前が方向音痴なせいだ!!」

僕とルシファーはハモッて、ツッコム。

 彼女は聞こえてないのか、何も感じないのか、スル―して山へ向かった。

 

 

 僕達は山を登り続けた。

 実の所、登り始めて1時間ぐらいしか経過していないが、僕が現代っ子な上、世界を一周する程の迷子になれば疲労で歩けなくなっても正直仕方無いと思う。

 僕は王家の猟銃を杖にしながら、山道を登った。

 王家の誇りを傷つけないかって?・・、そんな物は糞くらえだ!

 普段は温和な小市民の僕も、疲労で気が立っているようだ。

 ルシファーも、自分の周りにいるのが残念な美少女だけだとやる気が出ないらしい。

 キリ―は黙々と登り続けている。

 彼女は強そうだが、戦い以外の事はからきしだめらしい。

 美少女なのにお色気がゼロなのは珍しい。

 彼女も暇になったのか、僕に話しかけてきた。

「・・・ワタル、何してる・・・。」

「え、そりゃ、道しるべのため、道に印を付けているんだよ。こうすれば帰り道が分かるんだよ。」

 僕はナイフで木にぺけ印を書きながら答えた。

「なるほど、・・・・私も・・・。」

 僕は嫌な予感がした。

 彼女はシャラ―ンといい音を立てて、優雅にバスターソードを二本抜いた。

「ちょっ、ちょっと待って!!」

 僕はあわてて彼女を静止するも、わずかに遅かった。

 彼女は樹齢100年を越えた樹木にペケ印の軌跡を描いて切断した。

 樹齢100年の木を切られて大地が怒ったのか?

 巨木は天罰と言わんばかりに倒れ込んできた!!

 何故か、善良で小市民な僕の頭上に!!

「✿★5●k■▽$%“#m¥@*!!!」

 僕は声にならない悲鳴を上げて、横に飛び退いた。

 ズドーン

僕が慌てたために脱げてしまった靴が、僕の目の前で巨木につぶされる。

 

「・・・・・・」

 僕は無言で彼女を睨みつける。

 彼女は頭をかいて、口を開く。

「・・・・気にするな・・・・。」

「君が気にする立場だ!!」

 僕はとても泣きたかった。

 魔物よりも先に仲間に殺されるような気がした。




 僕達はひたすら登り続ける。靴が片方脱げてしまい、歩きづらいし、足の裏が痛い。

 もし、山の頂上に魔物がいるのであれば、頑張って上を目指せるだろう。

 しかし、魔物は何処にいるのか分からないのだ。

 ゴールの見えない山登りなど、やっていて気が萎えてくる。

この広い山脈の中から魔物を探せと言われても、数日はかかってしまうだろう。

「あぁー、メンド癖ー。やってらんねぇよ。」

ルシファーがボヤク。演技をする気力が無いようだ。

「おい、ワタル。こんな依頼ふけちまって、とっとと魔王の城へ行こうぜ。」

「困っている人がいるみたいだし、もう少しだけ頑張ってみようよ。だいたい、元々はルシファーが勝手に受けた依頼じゃないか。」

 ルシファーが今まで猫かぶっていた事に気づいていた僕は、ルシファーの地の話し方に疑問なく返す。

 ルシファーは僕の答えに舌打ちする。

 僕とルシファーの会話を聞いて、キリ―が尋ねるかのように僕の目を見た。

 勇者だって知られたらどんな反応をするんだろう?

 僕は少し考え込んだ。

 キリ―の人柄は、強くて、方向音痴で、馬鹿である事が分かった。

(別に言っても、たいして興味を持たないか、すぐに忘れてしまうかな?)

「うん、僕達は魔王の城を目指しているんだよ。」

「・・・そうか。」

 キリ―は何かを考え込むように黙っていた。

 


 僕達は山を登っていると、3匹のゴブリンが現れた。

 キリ―は小物に興味ない様子で無視した。

「ワタル、今の内に経験積んどけ。」

 ルシファーもゴブリンを無視して登り続けた。

「ちょっ、ちょっと待ってよ。」

 ゴブリンは強者の二人には近づかずに、弱者な僕にだけ襲いかかって来た。

 僕は恐怖に身をすくめながらも、王家の猟銃を構えた。

 ゴブリンは僕の膝ぐらいまでの大きさで、茶色い不気味で細い体で、まるでミイラみたいだ。頭からはちょこんと小さい角があり、手の爪は小さくも鋭く、黄色い瞳がぎらぎら光っている。

「キシャ―!!」

ゴブリンが奇声をあげながら飛びかかってくる。

 僕は恐怖していたが、スライムの時とは違って落ち着いていた。

 スライムは得体のしれない化け物で、ゴブリンは得体のしれない獣に見えたからかもしれない。

 人間、理解できず、見た目が気持ち悪いものを怖がるものだ。

 実際に僕は沖縄のなまこを怖がって触れなかったし・・・。

 見た目もひとつの大きな要素だと思う。

 僕はゴブリンに狙いを一瞬で付けた。

 僕の頭の中に獅子王(ライオン)師匠の教えが思い出される。


『ワタルよ、恐怖を飼い慣らせ。恐怖で身がすくんでしまっては命を落とし、恐怖を感じずに強敵と立ち向かえば殺される。しかし、恐怖を飼いならす事で、恐怖を敵からの攻撃を察知する第六感に昇華するのだ。・・・、でも無理は禁物。危なかったら迷わずにげろ。』


 ゴブリンを相手にして本気で逃げようかと悩んだ。

 しかし、ここで逃げていては何もできやしない。

 ゴブリンに勝てない奴が魔王に勝てるはずが無い!!(正論)

 そんな考えをほんの一瞬で思考した。

 狙いを定めた王家の猟銃が火を噴いた。

 一発はゴブリンの腹に命中。

 二発目は二人目のゴブリンの頭に命中。

 3発目は外れてしまった。

 3匹目のゴブリンは仲間がやられてしまって、逃げ腰になっているようだ。

 僕は二匹を倒した事に油断してしまい、装弾しようとした弾を落としてしまった。

 それを見た3匹目はチャンスとばかりに飛びかかって来た。

 僕は再び恐怖を感じながら、銃をあきらめて後ろに飛び退いて攻撃を避けた。

すると、『ゴン!!』と大きな音が鳴り響いた。

「痛い!」

僕は頭を太い木の枝にぶつけてしまい、頭を抱えて(うずくま)った。

 僕は窮地に立たされた。

 ゴブリンは勝利を確信し、こちらに飛びかかってくる。

 くそ、ゴブリン。ここまで手強いとは!!

 僕は歯を食いしばって後悔するも、他人が見たら「お前が馬鹿だから。」と口をそろえて言う事だろう。

 頭がぼんやりした僕は、ゴブリンが襲いかかってくるのを他人事のように見る。

 そんな中、さまざまな事が走馬灯のように脳内を流れた。

 

 この世界に来なければ、迎えるはずだった誕生日のケーキ

 両親と一緒に行ったレストラン(母の料理は期待できない代物(しろもの)だった。)

まだやりかけの、ドラ●エⅨとF●Ⅳ

 好きなアニメ・マンガと小説の続き etc…


 ・・・・どうでもいい事が思い浮かんでくるな・・・・・。

 

 僕が脱力しかけている時、親友の真央の姿が思い浮かんだ。

 彼は笑いながら「馬鹿な奴」と言っている気がした。

 

 そうだ

 僕は死ぬわけにはいかない

 もう一度真央に会うんだ!(彼とは親友であって、決して変な関係ではない)

 

 僕の意識が覚醒する。

 ゴブリンは目の前に迫っていて、剣を抜くのは間に合わない。

 僕は手も使い、蹲った状態から飛び上がり、木の枝をつかんでぶら下がった。

 ゴブリンは僕を見失って、ドンと、そのまま正面の木にぶつかった。

 僕はゴブリンの上に飛び降りで、足で潰す。

「ピギャァァ!!」

 悲鳴を上げるゴブリンに、僕は素早く剣を抜いて貫いた。

 ゴブリンから緑の血が出てきて、ゴブリンは痙攣してから動かなくなった。

「はぁ、はぁ、はぁ。」

 僕は激しい戦いと緊張で息が切れる。

 ぱちぱちと拍手が聞こえる。

「おめでとう、ワタル。少しは強くなったのかな?」

 僕はルシファーを睨む。

 ルシファーも僕の睨みに慣れたのか、にやにやしている。

「はぁぁ・・。」

僕はため息をついた。もう散々だ。

 僕はまた山を登ろうとして、キリ―がいない事に気が付いた。

「あれ、キリ―は?」

僕が尋ねると、ルシファーは首を振った。

「ワタルが戦っている間にどこかへ行った。」

ルシファーもため息をついた。

 キリ―とはぐれてしまった以上、彼女と合流する事はもう不可能だろう。

 今頃、海底の古代遺跡や、天界で迷子になっているのかな?


 ゴブリンと死闘を繰り広げた勇者ワタル、彼とルシファーはキリ―とはぐれてしまう。

 彼らは・・、いや、ワタルは無事に迷いの山脈から帰る事ができるのか!?

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