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第5話 勇者、初めてのお使い(戦闘)

旅行に行っていて、遅くなりました。

僕とルシファーは武器を覗きに行った。

 

「・・いらっしゃい・・・。」

やる気のない声で店主が迎えた。

 

「「・・・・・・・・。」」

僕とルシファーは沈黙している。


 店内に並ぶのは、鍬・鋤・草刈り鎌・のこぎり・斧など農具など生活に必要な物ばかりで、唯一あったのは護身用のナイフ程度だった。

 よくよく考えてみると、一般の国民が、生活に不必要な武具を買うはずがない。

武具が必要なのは、城の兵士や、傭兵、冒険者だけであり、僕達が入った店は生活に必要な物しかなく、この店で装備を整えても農民一揆になってしまい、魔王(悪徳領主)で、勇者(村の若いリーダー)みたいな構図が出来上がる。

この国にも武具を作る鍛冶家はあるが、城の方で管理されているらしい。

つまり、僕達が城でもらった物がこの国で良い武具であるという事だ。


 僕達は『謎の魔物の討伐』の依頼を受けるために、冒険者ギルトに戻った。

 ルシファーは少し大きめなギルドの建物に入り、真っ先にギルドの受付嬢とおしゃべりを始めた。


「所デ、美シキ御嬢サン。冒険者ギルドハ、ドンナ歴史ガ有ルノデスカ?」

「40年前までは『冒険者ギルド』という名前ではなく、『魔術師ギルド』だったのよ。」

ルシファーが受付嬢と仲良くなるための作戦から始まった会話に、僕は少し驚いた。

「元々は、魔術師同士の知識を共有し合い、魔法を必要とする人へ人材を派遣する組合だったの。」


 昔は、災害や生活などに魔法を必要とする人達に魔法を提供する事から始まった。

 

 東に大地震が起これば、天に祈りて、大地を鎮め

 西で干ばつが起これば、雨を祈りて、大地を潤す

 北で争う夫婦があれば、賢者の知恵をもって、平和を導き

 南で子に恵まれない夫婦があれば、癒しの力で子種を増やしてやる


 いつの世も、人類が抱える問題は似たり寄ったりである・・・。


 そんな様子で、昔は不思議な力を持つ魔物は居なく、戦争、治安維持、天変地異から他愛もない問題にも携わってきた。

しかし、40年前から力の強い魔物が発見された。

一般の人が猟銃や斧で追い払おうとしたが、軽々とやられてしまう程に強かった。

 そこで、盗賊などの悪党の討伐や、他国との戦争で戦う魔術師たちに魔物の退治を依頼が回って来た。

 いつしか、一般生活などで魔法を求められる数が減り、戦いや討伐ばかりの依頼が増えていった。

魔術師達だけでは足りなくなったために、戦いに向いている傭兵などが、一緒に依頼を受けるようになった。

魔術師でない者も参加するようになったので、名前を変更する事になったそうだ。

案の一つに『傭兵ギルド』が有ったが、殺伐としているので却下。

依頼の一部に、未知の大陸や島の発見をする仕事を国から受けたりする事もあるので、それにちなんで冒険者という事で、『冒険者ギルド』になったらしい。

これなら、色々な人が依頼をしやすい雰囲気な名前だ。


「しかし、魔物は40年ぐらい前から突然現れたのですか?」

僕は意外な過去に驚いた。

「えぇ、不思議な事にね。中には意思を伝えられる魔物もいて、それを魔族と呼ばれているわ。」

驚いている僕らに彼女は幾分得意げに話す。

「ヘェ、ソレハ凄イデスネ。魔物ガイキナリ、言葉ヲ話スナンテ。」

ルシファーが感心する。

すると、彼女はキョトンとする。

「え、何を言っているんですか?・・・あぁ、そういえばルシファー様は異世界から来て下さった勇者様ですものね。そういえば、意思を伝えるのも苦労無さっているようですし。」


・・・・勇者は僕なんですけどね・・・・。

面倒な僕と、女を口説くルシファーは彼女の感違いを訂正しない。

 

彼女はルシファーの口調のおかしさに納得したようで、話し始める。

「この世界は『神、イエスキリスト』に祝福された世界なのです。」

 元の世界で聞きなれた神の名前を聞いた僕は驚いた。ルシファーは妙に納得した顔で頷いた。

 彼女の話では、神の元で大いなる意思を一つに統一されているらしい。

 この世界に住む住人は、声を通して自らの意思を相手に伝える事ができ、紙や木に印を書く事で自分の意思を込める事ができるらしい。

内容がなんとなく分かってしまっていたが、依頼書をよく見返すと訳の分からないいたずら書きみたいなのがあっったが、それが僕の脳内で変換されているのか、どうしてか読めてしまうのだ。



「まぁ、そんな訳でこの国では意思を伝える練習はすれば、2歳になればある程度話せるのよ。動物の中にもに人と意思のチャンネルが合って、人と話をできる動物もいるのよ。王に助言する動物もいたそうよ。中には話ができる魔物がいてもおかしくないっという事よ。」

彼女の説明に便利だなぁと、僕は頷いた。ルシファーは、目線が顔とそのちょっと下の方を行来きしていたが、僕は無視した。


「所で、冒険者ギルドにどんなようかしら?」

彼女は脱線してしまった話を元に戻した。

 僕は彼女に掲示板に張り付けてあったクエストを指差した。

「この依頼をこなしたいのですが。」

「勇者様がこの依頼をこなしていただけるのですか!それは助かります。」

彼女は少し驚いたようだったが、すぐに嬉しそうな顔をした。

「実はその依頼は4チーム失敗しているんですよ。」


・・・・やっぱり、止めておけば良かったかな・・・・。

僕が勇者らしからぬ考えを巡らせていると、彼女は説明をし始めた。


「ここから東にあるスタッカート村の南には迷いの山脈があり、そこに猟へ行った者達は半分ほど帰って来なかったそうです。帰って来た者も、「ば、化け物が・・、」と言い残して気絶すると、次の日に何も覚えていなかったそうです。」


迷いの山脈って何さ!普通は迷いの森じゃないの!冒険者初日から、何で難易度が高そうな場所に行かなくちゃいけないの!

そんな僕をよそにルシファーは、

「大丈夫デス、私ガ退治シテ来マショウ!」

・・・・もう、断れそうに無いな・・・・。

 

僕はがっくり肩を落としていると、彼女は思い出したかのように付け加えた。

「この依頼は1カ月前から受けている女性がいるんです。この依頼は期限が設けられていないので、依頼を断りさえしなければ失敗にはならないのです。その方と話をつけて協力するのも一つの手かもしれません。」

 彼女の言葉に僕は思案する。

 その人が強ければ、僕は生きて帰って来られるかな?・・・でも、1カ月やって、成果が無いんじゃ、あてにならないかな?

 「・・・・その人、美人かな・・・?」

 ルシファーがボソリと呟いた。

 どちらも勇者には程遠い二人。所でルシファー、妙な片言な話し方はやはり演技だったのか?

「その冒険者の特徴は、水色の髪と瞳を持ち、バスターソードを二本、肩に背負ってます。」

「分カリマシタ!早速行キマショウ!」

ルシファーは水色の髪の女性に興味を持ったようだ。

 ルシファーに引きずられて、僕は出発した。




 僕らは東のスタッカート村を目指して歩いていた。

 村へは道なんて、洒落た物は無かった。

 草がぼうぼうに生えた平野で、虫に刺されて肌が腫れ

 胸元まで高さのある大きな川で流されそうになり

 ウサギを追って森に入るも、クマに追われて帰って来たりした


 その間ルシファーは、

 聖なる加護で虫から身を守り

 川の水面をひょいひょい歩き

 クマに追われる僕を見て、腹を抱えていた


 現代っ子な僕はへとへとになり、最初は用心して構えていた王家の猟銃も腰に差したままにした。

 ルシファー、少しは助けてほしいな・・。

 途中、角の生えたウサギの魔物を見つけたが、人を食べる種では無いらしく、僕達を襲ってきたりはしなかった。

 雨もぽつぽつと降ってきて、僕の体力をさらに奪っていく。

 平野なのに、まるで毒の沼に入っているような気分だった。

 魔物に襲われるよりも、道中でへばる僕の前に、ついに魔物が現れてしまった。


 プルンプルンと震えるゼリー状の体で、不気味な目と口を持っている。

「スライムだな。」

ルシファーがつまらなさそうに呟く。

「雑魚ダ、ワタル、一人デ頑張ッテ下サイ!コレグライ大丈夫デス!」

お願いだからルシファー、傍観しないで助けてよ!

僕は怯えつつも、初めて見る不気味なスライムと対峙した。

 形は崩れたゼリーみたいだ。今思うと、ゲームみたいに涙型の形を保つのは難しそうで、目の前にいるスライムの形の方がリアリティーはある。

 

・・・・スライムが可愛いなんて、あのゲームの中だけだ!・・・・


 僕は鳥肌を立てながら、王家の猟銃を3発撃った。

 スライムはあっけなく四散する。

「はぁー、良かった。本当に弱くて・・・。」

僕は安堵して、銃の弾丸を装弾して、腰に差した。

「さて、先を行こう!」

僕はルシファーに初めて勇者らしいリーダーシップを取った。

 するとルシファーはにやにや笑っている。

「マダダゾ、ワタル。」

ぽつぽつと雨が降る中、四散したゼリー状の物は一か所に集まってきて、元のスライムの形を取り戻した。

「Noooooo!」

僕は悲鳴を上げる。

 スライム、お前は最弱モンスターじゃなかったのか。

 僕の方に向かってきたスライムを僕は素早く抜いた剣で切りつけた。

 スライムが真っ二つになるも、つかのま、すぐに再生して僕に飛びかかって来た。

 慌てて避けようとして無様に転ぶ僕の顔面をスライムが覆い、僕は息ができずに呼吸困難になる。

 僕は必死の形相になり、両手でスライムを引き剥がす。

 投げ飛ばしたスライムにタクトの様な魔法の杖を抜いた。

 僕はスライムによりベタベタになった顔を無視して、杖を四拍子で振った。

 

 火の精霊たちよ、我が呼びかけに答えて悪しき物達をその炎をもって浄化せよ!


 杖の先に拳サイズの炎が灯り、それをピッチャーホームでスライムに投げつける。

 魚の目(アフロディテ)師匠の教えによると、この世には様々な精霊が満ち溢れ、自らの魔力を精霊に捧げる事により、精霊の力を引き出す事が魔法らしい。

 僕は火の精霊の力を借りて、火の球を生み出し、投げつけた。

 スライムからジュワッと、蒸発する音が聞こえて、その体は半分程になった。

「遂にやったか!」

 僕は喜びながら弱りきったスライムを眺めた。

 ここで僕は気を抜き、痛恨のミスを犯す。

 僕はもっと火の魔法をかけるべきだった。

 ポツポツと雨を受けるスライムは、塩で縮んだナメクジの如く、徐々に膨らんでいき、動けるほどに回復してしまった。

 僕はあんぐり口を開けて固まった。

 しばらくして沸々といら立ちが湧いてきた。

 「どおぉぉぉりゃぁぁぁ!」

 僕は剣で地面の土をザックザクとスライムにかけ、剣の腹でスライムを上からどんどん叩いた。

 スライムを軽く地面に埋めた僕は、林の方に走った。

 剣で枝をバッサバサと切り、枝を集め、スライムの上に置いた。

 僕はまた炎の魔法をかけて枝を燃やして、これでもかっと、言うぐらいに炎の魔法を連発した。

 ようやくスライムは蒸発して、僕は膝をついた。

「ヨウヤク倒シマシタネ、勇者殿。見事デス。」

 にやにや笑いながら話しかけてくるルシファーに、僕はギラつく視線を向けた。

 ルシファーはビックリした。視線で人を殺せそうな勢いだった。

「・・・・先を行くよ・・・・。」

 ルシファーはコクコク頷く。

 普段は大人しい人程、怒ると怖い。それは事実のようだ。

 

 初めての戦闘でスライムと死闘を繰り広げた勇者ワタル。

 その険しい旅に果てに、勇者は魔王を倒す事ができるのか。

 がんばれ勇者ワタル!

世界の平和のために

 彼が元の世界に戻るために!


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