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間幕3 迫りくる勇者の影!

 真っ赤な絨毯が敷き詰められた大きな広間。その奥に、巨大すぎる黄金と真紅の玉座が鎮座していて、その前に胸と肩を覆う鈍い銀色の鎧を着た様々な魔族がひざまついている。


 兵士;「おぉ、魔王陛下♪ 今日も一日、あなたの元でがんばりま〜す〜♪」


 ここはみなさんもご存知の魔族が住むアンダギー国にそびえるモンブラン城、その中にある玉座の間である。

 魔王陛下の一日は、部下たちの元気のいい朝の忠誠を聞く事から始まります。まるで合唱するかのような忠誠の誓いは、城の外にまで聞こえ、このアンダギー国に朝を告げる名物になっております。

 

 魔王陛下;「今日も忙しいぞ〜♪ 仕事は山積みだ〜♪」


 魔王陛下が玉座で部下の報告を受ける時間です。すると、フクロウの魔族、アウル宰相が魔王陛下の前にひざまずきました。


 アウル宰相;「魔王陛下、魔王陛下、大変でございます。我が国の主食であるリソが雨不足により去年の半分しか取れませんでした。それに伴い、リソの値上がりに国民が不安を覚えております」


 魔王陛下;「リソを配給制にしろ。そして、食料不足になった時にそなえて育てた芋を売り出せ。我が兵、第十三部隊の訓練を兼ねて食料となる魔物を狩らせろ」


 レオン将軍;「魔王陛下、魔王陛下、危急です。ここから西に位置する、ウーナロッタ国が兵を伴って周辺の村で略奪をしているそうです」


 魔王陛下;「第一部隊から第五部隊で編成し、ウーナロッタ兵を押し返せ!」


(兵士たちが敬礼して、それぞれ槍と剣を手に取る)


 ライオンの魔族の子供;「魔王陛下。僕、おねしょしちゃいました」


 魔王陛下;「今すぐ侍女に伝え、シミ抜きと洗濯の準備を整えよ!」


(魔王陛下が指をさすと、侍女たちがおしとやかにお辞儀して、洗濯の道具を手に取る)


 魔族みんな;「今日も魔王陛下は~♪ 朝から大忙し~♪」


 魔王陛下;「それでも我は~♪ 手を止めな~い♪」


 みんな;「この国の♪ 輝かしい♪ 未来のためー♪」


(魔王陛下と魔族みんなが両手を広げて歌う)



「ふー、今日も忙しいな。リオンもお茶にするか?」

「うん、魔王様、ありがとうございます。僕、ミートパイがいいなぁ」

 素直な回答に、思わず笑ってしまう魔王。

 父親譲りの金色の毛がふわふわの子供である、ライオンの魔族のリオン。元気いっぱいのいらずらっ子であるけれど、彼の親は堅物のレオン将軍だ。あのいかついレオンから、どうやったらこんな子が生まれるのか不思議なくらい。……ひょっとしたら、レオン将軍もこのくらいの時はいたずらっ子だったのかもしれない。

「ふふん、お茶にすると聞かれて、おやつをリクエストする人がいるか。ふつう、紅茶かコーヒーのどちらがいいかをリクエストするべきだろ?」

「えぇー、じゃぁ、ミートパイはないの?」

「仕方ない、それじゃぁ料理番に頼もうか。ミートパイが出来上がるまで時間があるだろうから、その間はお前の魔法の上達を確かめるか?」

「ふぇー!?」

 リオンはレオン将軍とは違い、武芸も習ってはいるが、魔法の方が得意ではあるようだ。……と言っても、勉強嫌いではあるけど。

 魔王がリオンをからかっていると、執務室の扉がノックされ、レオン将軍とアウル宰相が入ってきた。

「魔王陛下、お時間はよろしいでしょうか……。って、リオン。なんでこんな所に!?」

「あぁ、お父さん!? 魔王様の執務室をこんな所呼ばりした!」

「あ、あぁ、いや、その、そうじゃなくて……って、リオン!! 誤魔化そうたってそうは行かないぞ!? お前、魔王陛下の邪魔をしては……」

 そんな微笑ましい親子のやり取りを聞いた魔王はクックックと笑う。笑い方一つからして、動作の一つ一つから魔王の風格が現れている。低い身長を別にすればだが。

「いいのだ、レオン将軍。私も茶を一服しよいうかと思った所だ。レオン将軍とアウル宰相も一緒にどうだ?」

「は、はぁ、ありがたき幸せ」「ありがとうございます」

 レオン将軍はかしこまって、アウル宰相は柔らかく微笑んで、魔王が勧める席に腰をかける。

「うむ、にぎやかな方がおやつもおいしいというものだ。…… 昼前ではあるが、茶の用意をしてもらおうか」

 魔王はベルを鳴らして侍女を呼ぶが、入ってきたのは侍女だけではなかった。

「そういう話なら、私もご一緒してもよろしくて?」

 侍女は一人の女性を部屋に案内した。猫のようなニャヌ族のニャリー嬢だ。彼女は微笑みながら、ワゴンを押す彼女専属の侍女と一緒に入ってくる。

「ニャリー嬢。来ていただいてうれしいぞ」

「ほほほ、趣味でパイを焼いたので、魔王陛下に食べてもらおうかと思いましたの。みなさんもお集りのようで、ちょうど良かったですわ」

 彼女は自慢げに微笑み、しっぽをゆらゆらさせる。

「えっ、ニャリー様、それってミートパイ?」

 リオンが目を輝かせて、ワゴンに乗った器に目を向ける。銀のふたが覆っていて、良い香りがするものの中身は見えない。

「いいえ、釣りたて新鮮なお魚のパイですわ。魔王陛下もお魚が好きとおっしゃっていましたよね」

「うむ、ありがとう、ニャリー嬢」

 魚はニャリー嬢の大好物だし、魚のパイという珍しいお菓子に魔王も興味津々のご様子だ。

 しかし、お肉大好きなリオンは不服そうだ。

「えぇ〜、僕、ミートパイがよかった」

「なら、お前は食うな。失礼な事ばかり言いやがって」

 こめかみに青筋を浮かべたレオン将軍がリオンの頭を両の拳で挟み込む。

「いやーん。ぐりぐりはいやだ〜。僕も、た〜べ〜る〜!」

 リオンは必死で父親であるレオン将軍の手から逃れようとする様子に、ほか三人が大爆笑。

「ははは、レオン将軍、そこらへんにしてやったらどうだ?」

「.……魔王陛下がそうおっしゃられるなら」

 しぶしぶリオンを放す。

 リオンはレオン将軍の手から逃れたら、すぐさま席について食べられるように体勢を整える。

「さぁ、みなさん。召し上がれ」

 ニャリー嬢の言葉を合図に、それぞれパイを口にする。

「うむ、おいしい」

「魔王陛下に喜んでいただけて、嬉しいですわ」

 彼女ははにかみ、しっぽをゆらす。

 アウル宰相とレオン将軍にも公表で、やんちゃなリオンはさっそく自分だけおかわりする。

「ふー、おいしかった」

 パイはあっという間に消えてしまい、みんなくつろぎながら茶をすする。

 しばらくゆったりとしていたが、魔王陛下はふと疑問に思う。

「そういえば、レオン将軍とアウル宰相は私に用事があったのではないのか?」

「はっ、そういえば、そうでした」

 レオン将軍とアウル宰相が用事を思い出して、はっと姿勢を正す。

「すみません、魔王陛下、ニャリー嬢。こんな素敵なティータイムをお邪魔してしまいますが、よろしいでしょうか」

「うむ、よいぞ」

「えぇ、この国の為に尽くしていらっしゃるみなさんのお邪魔をするわけにはいきませんわ」

 二人がうなずくのをみて、レオン将軍が口を開く。

「はっ、では失礼いたします。実は、マンゾー国に潜入していたアンオーカが人間にやられたようです」

 レオン将軍の報告に、魔王陛下は息をのむ。

「そんな、まさか。あいつに与えた任務は、潜入調査だけのはずだぞ。殺されるなんて事は、万に一つもありえないはずだ」

 魔王陛下の戸惑いの言葉に対して、レオン将軍は歯切れが悪い。

「それが……。あいつは勝手に先走って、マンゾー国を支配しようとしていたそうです。そこで失敗し、返り討ちに」

「……バカな奴だ。余計なことしやがって……」

 少し緊張したようにレオン将軍の後を続けたアウル宰相の言葉に魔王陛下は嘆息する。

 しかし、重要な事はこれからだった。

「その事で少し気になる事がありまして……。実は、マンゾー国でアンオーカを殺したのは、勇者だという噂があるのです」

「……勇者だと?」

 その言葉に、さすがの魔王陛下も興味をもられたご様子です。考え込んだように聞き返す。

「そうです。そして、もうひとつ気がかりなのが、セイルーン王国で半年ぐらい前に勇者召喚の儀式を行ったという噂が流れております」

「……なるほど、セイルーン王国は時空間魔法についての伝説がある。ひょっとしたら本当に勇者を召喚したという可能性がある……というわけか」

 セイルーン王国は、自分達が研究している古代遺跡にもっとも近い国。そんな難しい魔法を彼らに使えるのかが疑問ではあるが、ないとは言い切れない。

「魔王陛下。勇者が召喚されたというのに、その噂がほとんど出回っていません。人間達は勇者が召喚されたとなれば、大喜びでその噂話に花を咲かせるでしょうが……」

「……切り札を我らに隠すため、民へその情報を徹底的に秘匿している可能性がある、か……」

 アウル宰相の言葉に、魔王が重々しく続ける。暗い表情を見せる彼らは、ただ単に勇者が目立たないだけで噂に上らないという事実は知らなかった。

「……勇者ですか。……いったいどんな方でしょうか? これから私たちは……」

「大丈夫だ、ニャリー嬢。我々は、絶対に負けない」

「魔王陛下……」

 魔王陛下は両手でニャリー嬢の柔らかい肉球を包み込む。

「うおっほん。……それで魔王陛下、今後はどういたしましょうか?」

 レオン将軍のわざとらしい咳払いで我に帰る二人。

「う、うむ。そうだな……、まずはその勇者とやらの情報を探るか」

「……そうですね、魔王陛下……」

 なんとか魔王らしい貫禄を出そうとするけど、レオン将軍とアウル宰相の目が冷たいような気配を感じたらしい。バツが悪くなって、眉をひそめる。

 ずっとボケッと聞いていたレオン将軍の息子であるリオンは、勇者の話を聞いてから何かを思い出すかのように頭をかいて言った。

「勇者……、僕、会った事があるかも?」

「「「なんだって!?」」」

 みんな驚きで唖然とする。

「おい、リオン。ずっとこの城で暮らしているお前が、どうやって勇者に出くわすんだ!?」

 レオン将軍の質問攻めに、リオンは目をそらす。

「じつはね、……魔王陛下の玉座の間で会ったの」

「あ、ありえない」

 アウル宰相もまん丸な目をさらにまん丸にする。最初に魔王陛下が落ち着きを取り戻す。

「……して、どうやって会ったのだ?」

 リオンは「てへへ」と、照れくさそうに笑う。

「……実は、魔王様が城を留守した時、僕は魔王様っぽい姿に魔法で変身していたずらをした事があったでしょ。みんなを混乱させた時に魔王様の玉座でくつろいでいると、勇者を名乗る人間のお兄さんが僕の前に来たの」

「なんと!? それで、リオンは無事だったのか?」

「無事だから今こうしてお茶しているんじゃない、父さん」

 リオンはおかしそうに笑うけど、レオン将軍達はちっとも笑えない。

「その時はてっきり、僕のいたずらに混ざりたいお兄さんだと思ったんだ。それで勇者と魔王様っぽいノリで会話したんだけど、その勇者のお兄さんはどっか行っちゃったんだよね。まさか、本物の勇者だとは思わなかったんだよ」

 彼の無邪気な話を聞いて、一同は考え込む。

「ふむ、リオンがいたずらしていた時の話か……。たしか、近衛兵がバーサーカー将軍を最後に見た日ではないか?」

 魔王陛下の呟きに、他の大人三人は心臓をわしづかみにされたような気分になる。

「ま、まさか、……あのバーサーカー将軍が勇者にやられたと言うのか!?」

 レオン将軍は思わず椅子を倒しながら立ち上がり、テーブルを思いっきり叩く。並べられたお茶はこぼれ、白いテーブルクロスの上に茶色いシミを広げる。

「落ち着きなされ、レオン将軍。まだそうと決まった訳ではない。そうですよね? 魔王様」

 バーサーカー将軍はレオン将軍と同等の力を持っていて、この国一位を争う程である。アウル宰相はバーサーカー将軍を信じているかのような事を言うが、その声にはそうあって欲しいという思いもこもっていた。

 みんなに見つめられた魔王陛下は容量が減ってしまった残りのお茶をすする。

「そうだ、アウル宰相、レオン将軍。リオンとあった人間が本当に勇者であったなら、なぜ何もしないで立ち去ったのかが謎だ。誰にも気づかれずに城に忍び込むなんて、相当な暗殺技術を習得していなければ無理だろうし、私の寝首をかく事も容易なはずだ。……ひょっとすると、リオンの言う通り、誰かが変身魔法でいたずらに混ざっただけかもしれない。それが勇者だと決めつけるのは早計だ。まぁ、あり得ないとは思うが、この城に迷い込んだ旅人かもしれないしな」

 以前、キリーのせいで道に迷ってこの城に乗り込んでしまった事のあるトオル。魔王は自分でも気がつかないうちに真相に近い事を言い当ててしまったが、「迷い込んだ旅人」を「迷い込んだ勇者」に変えれば百点満点の正解だ。

 そんな魔王陛下の言葉にレオン将軍も落ち着きを取り戻す。

「そ、そうですね……。それで、リオン。そのお前が会った勇者らしき人物というのは、どのような姿だったのか?」

 父親にそう聞かれて、リオンはホッペに生えているフワフワな毛をいじくりまわして思い出そうとする。

「うーん、髪は黒だったような、緑だったようなぁ。年は僕より上で、お父さんより下だったようなぁ。……だめ、思い出せないよ」

「それでは何も分からないではないか、リオン」

 レオン将軍にせかされ、コロコロとした丸い目を半分閉じて悩むリオンを、アウル宰相はじっと観察する。

「ここまで記憶があいまいとは……。魔法の痕跡は感じられませんが……、ひょっとしたら、何か忘却の魔法をかけられているのかもしれませんな」

「リオンに忘却の魔法だと!? そうなると、リオンが会ったのは、やはり勇者なのか?」

 レオン将軍もさすがに忘却の魔法をかけられたとは思っていなかったので驚くのも無理もない。なにせ、ワタルの目立たないスキルのせいで記憶から抜け落ちただけであり、本当にそんなものをかけられてはいないのだから。

 しかし、そのせいで魔王陛下達の未知なる人物への評価が高まる。

「そうか……、この城へやすやすと潜入し、リオンに忘却魔法をかけるとなると、相当な手慣れである事がうかがえる。勇者かどうかまでは分からないが、十二分に注意しないとならないな」

 魔王陛下はため息をついて立ちあがる。

「さてと、お茶の時間も終わりだ。アウル宰相、リオンにかけられた可能性のある忘却魔法を調査せよ。レオン将軍は、勇者の噂についてもっと集めよ。……ニャリー嬢、楽しいお茶になるはずが重々しい話になってしまってすまない」

「いいえ、魔王陛下。こうして陛下と少しでも一緒にいられるだけで、私は幸せです」

 ニャリー嬢は目を細めて微笑む。そのままピンク色の空気を放ちそうになるが、興味深そうに二人をじっと見つめるリオンの視線と、レオン将軍とアウル宰相の咳払いによって阻止される。

「お、おっほん。……では、今日も忙しくなるぞ」

 魔王陛下は今日も忙しく働く。


◆◇◆◇


 真っ白い壁に、上等だけど必要最低限しか置かれていない家具のある部屋。そこで金髪の美青年が水晶玉を覗きこんでいた。

「…………ひどいありさまだ」

 ルシファーと瓜二つの顔を持つ天使ミカエルは、ルシファーは絶対にしないような難しい顔でワタル達の様子を眺めている。

 美しい顔をしかめてしまうのも無理もない。なんせ、ルシファーのせいで勇者ワタルにエロ本を送ってしまうし、授けたスキルも料理の役にまったくもって役に立たない、おまけに美食大会の勝因が怪しげな毒を持った薬草だ。これで彼らの活躍に拍手を送るなんてできっこない。

 それと、ミカエルが不機嫌なのにもう一つ理由がある。

 天界で行われた剣術大会で情けない負け方をしたのだ。

 というものの、ルシファーに自分の剣を奪われてしまったので、代わりのレプリカで挑んだ。ミカエルが彼らの主から授かった剣は最強の一振りであり、それは絶対に折れる事がないのだ。それゆえ、大会でレプリカを折られれば、それが本物でない事がばれてしまう。それを恐れて、ミカエルはレプリカをかばいながら戦ったため、大会は無残な結果に終わってしまった。

「もう、勇者ワタルの成長なんてどうでもいいから、早く聖剣を手に入れて、とっとと冒険を終わりにしてほしいですね。ルシファーが帰ってきたら、とっちめてやりますよ」

 彼は脳裏にルシファーが舌を出して馬鹿にしている顔を幻視してしまう。それに向かってジャブを繰り出すけど、余計に腹が立つだけだ。

「……仕方ありませんね、こういう時は聖書でも読んで気を落ちつけましょう」

 ミカエルは本棚にある十数冊の聖書の中から一冊を取り出す。内容のほとんどは同じだけれど、本の作り、カバー、微妙な表現の違いがおもしろい。これも様々な世界、国から集めたものであり、聖書の数だけ自分達の主の偉大さを改めて感じ取れるのだ。

「ふむ、あまり見た事がないカバーで…………、って、なんですか、これ!?」

 ミカエルの目の中に、美女達の裸体の数々が飛び込んできた。思わず茫然と立ちすくんだ彼は、それがギリシャ神話にゆかりある一品だという事が分かる。

「ル、ルシファー……。我ら主の偉大さを示す聖書のカバーをすりかえて、いかがわしい本、しかもあの破廉恥なギリシャ神話一派のものとすり替えるなんて!!」

 怒りにわななくミカエルがふと顔をあげると、扉がわずかに開き、そこからガブリエルが顔を半分覗かせているのが見えた。

「「…………」」

 お互いの間にしばらくの沈黙が流れる。

 気まずくなったミカエルはあたふたと弁明を試みる。

「……あ、あの、私は……」「私、何も見ていませんわ」

 それだけで会話が途切れる。普段、必要最低限の言葉しか口にしないミカエルにとって、ガブリエルの誤解を解くのは大変困難極まりないものだった。

「い、いえ、その、ミカエルが……」「大丈夫です。私、口が堅いですから」

 そうぽつりと呟いたガブリエルは、そっと扉を閉じたけれど、その金具の音が沈黙の中で大きく響いて、ミカエルは一人部屋の中で取り残される。

「…………ルシファー、後でお説教をしないとならないようですね……」

 怒りのあまり、暗い笑みを浮かべるミカエルは、悪魔どころか、同じ天使さえ裸足で逃げ出したくなるほど凄まじかった。


「おい! すまんが例の案件の用紙を持ってきてくれ……。おい! 聞こえていないのか…………。おっと、これは後書きではないか!? 

 おっほん、私はアンダギー国の魔王である。というより、魔王に後書きをやらせるとはいったいどういう了見だ、おろか者め! 魔王は冒険の最後で勇者を待ち構えているのが基本であろう? なんで私が後書きをせねばならんのだ! 

 衛兵だ! 衛兵を呼べ! このおろかな作者を八つ裂きにするのだ!

 ふむ、私は忙しいのだ。これ以上邪魔をしてくれるなよ!?

 波乱万丈、奇奇怪怪!! はたして、次回までゆるりとセーブでもして待っておれ!」

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