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第22話 リフォームしましょう!

「はぁー、なんで俺がお前にあわせてトロトロ歩かなきゃならねぇんだ!? セバスチャンで飛んで行けばいいのによぉ」

 ルシファーは不満たらたらだ。

「歩いた方が健康にいいよ。セバスチャンに乗れば、乗り物酔いを起こしちゃうもん。ね、キリーもそう思うよね」

「……セバスチャンの方が楽で、なにより迷子にならない……」

「ハンモックには揺れやGを取り除く魔法がかかっているので、問題ないとおもいましゅが……。僕はセバスチャンで飛んだ方が楽でしゅ」

 キリーとマーリンは僕に文句を言う。ちなみに、マーリンはテーブル大になったセバスチャンの上に座り、セバスチャンが複数の根っこで歩く。マーリンは飛ぼうと歩こうと、セバスチャンに乗っているので、疲れないはずだが、子供がじっとしているのも精神的に疲れるのかもしれない。

 僕は銛をついて歩き、マーリンはセバスチャンに乗っている。ちょうど四人でえっちらおっちら旅をする様子は、まるで西遊記のようだ。僕の脳内でガン●ーラが響く……、というかセバスチャンが歌っていた。

「……セバスチャン、なに歌っているの?」

『過ごしやすい環境を整えるのは執事の役目です』

 僕があきれ顔で聞くと、セバスチャンは当然のように答える。

『これがお気に召さないようでしたら、フィールド、街、城、ダンジョン、戦闘からボス戦まで多彩なバリエーションをご用意しております』

「いや、それは別に執事の役割じゃないと思うけどねぇ」

 僕はため息をつきながら歩く。これまでに何回ため息をついたのか、逃げた幸せの量は計り知れない。


◆◇◆◇


 そうやってトンノ・ロッソ国に戻って来た時には、すでに太陽が高く登り、お昼ご飯の時間になっていた。

 町に入る関門には、二人の兵士が厳しい顔つきで立っていた。

「旅の者か? この国に、どのような用事できたのだ」

「えっと、僕は昨日ギルドの依頼で外に出たワタルと申します」

「そうか、今確認する」

 兵士はそう言うと、帳簿のような物を手に取り、確認する。

「幼児はいなかったはずだが、こちらの記録ミスかな?」

「えっと、その、そうだと思います」

 僕は慌てて返事をする。こんな幼児が、魔法使いだなんて普通は信じられないだろう。

「すまんな、普段はざるのような警備だからな。今、普通に働いているように見えるだろうが、これでも警戒を強めた方なんだ」

 兵士は照れたように言う。

「なんで警戒しているんですか? 海の魔物の事ですか?」

「海の魔物の事ではないよ。本来ならそっちも必死に対応しなければならないのだろうけど、海の魔物は陸にあがって来ないからね。ちょっと危機感が足りないようだ。でも、これは別の話なんだ。なんでも、お城が襲われたらしい」

「お城が襲われた!?」

 兵士の深刻な話に、僕はすっとんきょな声を上げる。

「あぁ、城のてっぺんを破壊されたらしいぞ」

「いったい、どんな相手なのですか?」

 僕が聞くと、兵士は難しい顔をする。

「いや、多くの人が見たらしい……、いまいち、俺は信じられないが、なんでも巨大なキノコが空を飛んで襲ってきたらしいのだよ」

 なんか、これまた心当たりがあるような……。

 もう一人の兵士も食いついてきた。

「あぁ、なんでも王様も直々に見たそうだ。そのキノコの魔物は毒のような物をまき散らしたのだ。量が少なかったせいか、城の者たちは具合を悪くしただけで助かったそうだ。全く、この国はどうなるのだか。昨日だって、魔物に家を壊された人が十数人いるのだよ。本当にてんてこ舞いだよ」

「あ、あのう。もう行ってもよろしいでしょうか? 僕達、急いでいるもので」

「あぁ、いいよ。こんな時勢だが、本当ならこの国は良い所なのだよ。この国の良い所をお見せできなくて、残念だよ」

 兵士は困ったように笑う。

「そうですか、ではお元気で」

 僕らは……、いや、僕は急いで門を通過した。三人はゆっくりと歩き、特にマーリンがセバスチャンに乗っている様子が憎たらしい。セバスチャンを小さくしてしまってほしい。

「あれ? キノコ? まさかな、ただの偶然だ。あんな小さなキノコが空を飛んで城を壊せるわけがないしなぁ。うんうん。あれ? でも、魔物に家を壊された時期と……」

 何かを呟き続ける兵士を後にし、僕らは宿屋に向かった。



 部屋をとった僕らは、森の魔術師であるマーリンを連れて来た事を報告しに行く。もちろん、ルシファーは美女と遊びに行った。キリーとマーリンが付いてきてくれたのは運が良かったが、マーリンはセバスチャンをしまう事に駄々をこね、説得するのに大変だった。セバスチャンがいたら、ギルド長に城を壊したのが僕達だとばれてしまう。これ以上、あのじじーに強請られるネタを提供したくない。

 僕が恐る恐る冒険者ギルドの扉を開くと、がらんとした空間が僕らを出迎えた。

「うわー。広いでしゅ~! 部屋の中でおいかけっこが出来そうでしゅね」

 マーリンが目を輝かせて走り回る。歩いて移動するのは嫌でも、走って遊び回るのは好きらしい。

 マーリンがはしゃいでいると、不機嫌なギルド長が出てきた。

「こりゃ! 部屋の中で走り回るな! たっく、この子の保護者は誰だ……って、お前か!?」

 ギルド長が僕を見て、驚いた声を出す。

「お前、昨日迷いの森に行ったばかりなのに、もう帰って来たのか?」

 どうやら、僕らが戻ってくるのに数日はかかると、ギルド長は考えていたらしい。まぁ、勇者として召喚された僕は、近衛兵と同等の実力でしかないし、ルシファーも武器らしいものを持っていない。彼はあくまでもキリーの実力を買って依頼してきたわけで、そのキリーとはぐれたと報告したのだから、戻って来られるかどうか怪しく思っていたに違いない。

「いや、運良く魔法使いに会えまして。報告しに来ました」

「そうか、早いに越した事は無い。……で、魔法使いはどこだ?」

 ギルド長は僕らに視線を向ける。

「僕でしゅよ」

 マーリンがギルド長のズボンのすそを引っ張る。

「……この子供が? 冗談も程々にしろ!」

 ギルド長は、きょとんとした顔をじょじょに赤らめていき、怒りを爆発させた。

「嘘じゃないでしゅよ」

 マーリンも疑われ、不機嫌になる。

「あの、こちらのマーリンは優れた魔法使いですよ」

「じゃぁ、その証拠を見せて見ろ! 魔法使いなら、魔法の一つでも使ってみろ!」

 僕が口を出したら、ギルド長に罵倒された。マーリンもむきになって、腕を回す。

「いいでしゅよ。どんな魔法がいいでしゅかねぇ……。そうだ、流れ星の魔法はどうでしょう!」

 僕は首をかしげ、ギルド長は馬鹿にしたように笑う。

「はっ! 流れ星の魔法? 昼間に使えるのか?」

「ふん、使えましゅよ」

 マーリンが小さな腕を組んで、ギルド長を見上げる。

「ほう、なら頼もうではないか! お願い事を三つ言えそうだ」

「ふふん、見て驚くがいいでしゅ!」

 マーリンは椅子によじ登って、テーブルの上に登った。彼はテーブルを踏みつけると、小さな腕を大きく動かして、サッカーボール大の円を描く。

「ここに、これぐらいの大きさの流れ星を落とちてみせましょう!」

「ちょっと待った!!」

 僕は慌てて待ったをかける。

「なんでしゅか? せっかく気分がのってきたのに」

 僕は両手でマーリンの顔を挟み、彼の目を覗きこんだ。

「お前は、空に流れ星を流すのでなく、流れ星をここ(・・)に落とすつもりなのか!?」

「もちろんでしゅ。願い事をいくつでも言えるでしゅ」

「なんじゃと!」

マーリンはあたりまえのように頷き、ギルド長は驚きでカバみたいに口を開けている。

僕はてっきり、空に流れ星を流す魔法だと思っていたが、どうやら隕石を堕とす魔法だったらしい。いくら堕ちて来る流れ星がサッカーボール大だとしても、冒険者ギルドの壊滅は確実であり、この国にどれくらいの被害を与えるかはかりしれない。

「それは困る、それは困る! マーリン、もっと安全で、何も壊さない魔法にしてよ」

「うーむ、そうでしゅねぇ。どんな魔法がいいでしゅかねぇ。色々あって、迷うでしゅ」

 マーリンは少し迷うようなそぶりを見せた後、何かを思いついたかのように明るい笑顔を見せる。

「そうでしゅ、このしみったれた建物をリフォームちましょう! きっと、人が集まる事、間違いなしでしゅ!」

 マーリンの失礼な発言に、ギルド長の顔が険しくなる一方だ。

「では、いきましゅよ!」

 マーリンは目を閉じ、精神を集中させる。

『母なる大地の恵み、それを受け取り巡る命! このしみったれな建物を素敵にちて!』

 マーリンが振った人差し指から、光が溢れ、建物全部を包み込む。

「うわっ! 眩しい!」

 僕が手で目を覆っていると、光が薄れていったので、恐る恐る目を開けてみた。

「あれ、なんだか甘い匂いが……って、なんじゃこりゃ!?」

 僕が立っている床は板チョコ、壁はホワイトチョコに変わり、マシュマロや色々なお菓子が飾り付けされている。テーブルは細長いクッキーで支えられた様々な種類のケーキになり、椅子も細長いクッキーをチョコで接着して作られている。天井はチョコ、ホワイトチョコ、イチゴ味のウエハースがびっしりと敷き詰められ、そこから飴細工のランプが下がっている。

「すごいでしょ! 僕は天才魔法使いでしゅ!」

 マーリンは笑って喜びながら、テーブルのケーキに飛びつく。ケーキは少しも壊れずに、マーリンをふんわりと受け止める。

「……こっちの掲示板の文字も、チョコで描かれている……」

 キリーは掲示板をかじりだす。

「この窓は飴で出来ている……甘い」

 僕も飴の窓をペロペロ舐める。空色の窓はソーダ味だった。

「こら! わしのギルドを食うな! 最近のギルドの経営が悪いから、他人に奪われる事も覚悟していたが、こんな奪われ方は想像しとらんかったわあぁぁ!!」

 ギルド長のサルモーネさんは、まるで焼いた鮭のように顔を赤くて怒鳴った。僕は思わず口を止めるが、もちろんキリーとマーリンは口を止めない。

「うーん、このギルドは最高でしゅ!」

「ガツガツ、もぐもぐ、バリバリ、もぐもぐ」

 マーリンは腕を振り回して喜び、キリーは一心不乱に食べる。

 ギルド長はなんとかして二人を止めようとしていると、玄関の扉が開いた。扉はビスケットとチョコでできていた。

「おぉ、ここが最近できたデートスポットか!」

「「「キャァー! かわいい! 美味しそうねぇ!」」」

 ルシファーが美女三人を連れてきた。

 最近出来たと言うか、今出来たばかりなのだが、いったいどういう情報のまわり方をしているのだろうか。

 ルシファーは甘い物がそんなに好きではないらしく、連れてきた美女達がお菓子を食べ始めた。

「あら、美味しすぎるわ。食べ過ぎて太っちゃたらどうしいよう!」

「なら食うな!!」

 お菓子を食べる美女に、ギルド長は怒鳴る。怒鳴りすぎて、血管がはち切れてしまいそうだ。

「これ美味しいわよ。ルーちゃんも一緒に食べればいいのに」

「ルーちゃんは甘い物が嫌いなのよ」

「ふふ、何言っているのよ。ルーちゃんの御馳走は……」

「「「わ・た・し・達! キャー!!」」」

 三人の美女は声をそろえて騒ぐ。

「はは、そうだな。俺はわる~い、悪い魔法使いだぁ。お菓子を食べた子供をぺろりと食べちゃうぞ~! Trick or treat! 犯しが良いか? それとも、いたずらがいいか?」

「「「キャー!」」」

 ルシファーと美女達はわざとらしく追いかけっこをする。

 僕が茫然とその様子を見ていると、外から子供達の声が聞こえてきた。

「うぉー! すげー! ギルドがお菓子の家になっているよ!」

「うまいぞ! マシュマロもある!」

お菓子を食べる音が聞こえて来る。どうやら、外もステキな造りになっているようだ。

「やめてくれー! というか、お前達も食うな!」

 ギルドのおばちゃんと娘もお菓子を食べていた。

 さすがにギルド長が憐れになって、僕はマーリンのフードを引っ張った。

「ねぇ、元に戻してあげたら。ギルド長はちっとも喜んでないよ」

「……ちえっ! 分かりまちた。さてと、『元に戻れ!』でしゅ」

 マーリンが指を鳴らそうとして、失敗したが、光は溢れて魔法が解けた。どうやら、指を鳴らす事にあまり意味はないようだ。

 しかし、魔法を解いたと言っても、お菓子の魔法を解いただけだ。冒険者ギルドは荒れ果てた廃墟みたいになっている。

「えー、お菓子じゃなくなっちゃった。ムードが出てこないわね」

「はぁー、お菓子プレイは諦めるしかないわね」

 魔法が解けて、がっかりする美女たち。しかし、いったいお菓子の家に何を期待していたのやら……。

「よし、続きは宿でするか」

「「「はーい!」」」

 ルシファーは僕らを無視し、美女達と共に出て行った。

「……ルシファー、相変わらずの堕天使っぷりだな……」

 人(※美女限定)が道を外していく様がありありと見える。よく、ナンパで女性を落とすと言うけど、ルシファーは本当に女性を堕としている。まっとうな社会から堕ちてゆくよ。

 僕は深くため息をつく。

「じゃぁ、マーリン、キリー。僕達も帰ろうか」

 僕が扉に向かうと、ギルド長に強く肩を掴まれた。

「待て、このありさまを、なんとかしてもらおうか」

「……やっぱりそうですよね、分かりましたよ。なんとか考えますよ」

 僕は両手を上げて降参する。

「あたりまえじゃ!」

 ギルド長もかんかんだ。まぁ、自分の家を壊されれば、誰だって怒るだろう。

「ねぇ、マーリン。これ、元通りに戻せる?」

「うーん、難ちいでしゅね」

 マーリンが困った顔で腕を組む。どうやら、彼の魔法の力を持ってしても、元に戻す事は難しいらしい。

「なんたって、このギルドがどうなろうと、僕には興味がありましぇんからね。興味の無い魔法を成功させるのは難しいのでしゅよ」

「なんじゃと! 父から受けついだギルドをどうでもいいと!」

 マーリンがさらりと酷い事を言う。

 僕が必死に考えていると、一つだけ名案が浮かんだ。

「そうだ、マーリン、後であれをしてほしいな」

 僕がマーリンに名案を伝えると、彼は頷いた。

「ギルド長、こちらの魔法使いマーリンが新しくギルドの建物を作ってくれるそうです」

「ほう、では今すぐお願いしたいな」

 ギルド長は疑うようにこちらを見る。

「じゃぁ、マーリン、頼んだよ」

「分かったでしゅ。任せなしゃい!」

 マーリンはエッヘンと偉そうに言う。

 そして、トンノ・ロッソ国の冒険者ギルドの建物は、青の水玉と、緑色の水玉模様の人面キノコハウスが仲良く並ぶ事になった。セバスチャン二号と三号だ。


「はーい。お菓子の家を食べてみたい、ワタルです。お菓子の家の元と言えば、ヘンゼルとグレーテルですね。しかし、不思議です。家をお菓子にすれば、虫や動物に食べられたり、雨でふやけたり、腐ったりするはずです。保存するのに、大変な苦労をしそうですが、そこは魔法を使っているのでしょうか? 悪い魔女が不思議な力を持っているのであれば、普通に子供をさらって食べたほうが早いのでは? 第一、お菓子の家は子供たちを罠にかけるためのものでしょう? 森の奥深くでお菓子の家を発見するのであれば、それはその子供たちが森の奥深くに迷い込んでいるのです。別に、お菓子の家でなくたって、普通の家を建てれば、子供たちはその家に助けを求めに行くはずです。魔女はお菓子の家を保存する必要もなく、子供たちを捕まえられるはずですよね。まぁ、童話ですから、あまり深く突っ込まない事にしましょう。

 では、波乱万丈、奇奇怪怪! 次回をお楽しみに!

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