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第14話 港の王国 トンノ・ロッソ

「ふぁ~、ようやく着いた」

 僕は大きくあくびをした。ここまでの道のりはとても長かった。もうすでに夕日が沈みかけている。

 トンノ・ロッソ王国は大きな港を持ち、レンガ造りの町には常に潮風の匂いが漂ってくる。漁業や貿易が盛んで、街は活気に溢れている……はずなんだけど……。

「なんだか、しけた街だなぁ」

 ルシファーが眉をひそめてはっきりと言う。

 そう、夕日が沈みかけているとは言え、人が見当たらず、閑古鳥が鳴いている状態だ。

「う~ん、どうしたんだろう?」

 僕も首をかしげる。

「……道に迷って戻れないのでは……」

「「それはお前だけだ!!」」

 僕とルシファーは同時にツッコム。キリ―の迷子は僕らの中で悪夢になっている。

「まぁ、どうしてかは分からないけど……、とりあいず、冒険者ギルドで依頼の成功を報告しようか。その時に何か分かるかもしれないし」

 僕は少し悩んでから決めた。

 冒険者ギルドは互いに連携し合い、常に魔法で連絡を取り合っている。多少は手数料として依頼料から差し引かれるが、他のギルドでも報酬を受け取る事ができるのだ。

「そうだな、何よりもまずは行動だ。女を口説く時も、細かいプランを練るよりも、まずは声をかける事が大事だしな。」

「……行動する事が大事なのは認めるけど、なんでもかんでもナンパを基準にしないで欲しいな」

 僕はあきれつつも、冒険者ギルドを探す。

 僕が辺りを見渡すと、よぼよぼの老人が杖をついて歩いていた。

「すみません、冒険者ギルドはどちらでしょうか?」

 しかし、老人は僕の呼びかけに気がつかないようで、そのまま素通りしようとする。

 僕は老人に近づいて、先ほどよりも大きな声で問いかけた。

「すみません、冒険者ギルドはどちらでしょうか?」

 しかし、老人の耳には効果がいまひとつのようだ。

 僕は少しだけイラッとして、老人の耳に怒鳴るように声をかけた。

「す・い・ま・せ・ん!! 冒険者ギルドはどちらでしょうか!!」

「やかましいわ!!」

()()ッ!」

 老人はくわっと目を見開き、僕の耳を引っ張って、大声で怒鳴りこんだ。僕の耳に痛恨の一撃だ。

 僕は思わず耳を押さえた。耳鳴りがなかなか治まらない。

「全く、人に怒鳴るなんて最近の若者は礼儀を知らん。全く、嫌な世の中になったものじゃ。どうして、最近の若者は年寄りを敬おうとせんのか。わしらが若い頃では考えられんことじゃ、嘆かわしい。だいたい最近の若者は怠け者で、大の大人になっても親に面倒を見てもらうなんぞありえ話じゃ。二十も過ぎれば、親の面倒を見始めるものじゃろうに。くどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくど

………………………………………………………………………………………………………」

 老人の「最近の若者は」と始まるお説教攻撃! 勇者の精神力をガンガンと削って行く。

「ぼそぼそ(うざいな、ただ道を尋ねただけなのに)」

 僕はお説教が続く中、思わず愚痴をかすれるような小声で呟いた。

「なんじゃと!! うざいだと!! それが説教を受ける者の態度か!? 冒険者ギルドへの道を尋ねたかったのであれば、もっと礼儀正しく聞かんか!!」

 老人が鬼の形相で怒る。

「き、聞こえているくせに。どうして耳の悪い振りをするんだよ」

 僕だって腹が立ってくる。こんな老人を敬いたくは無い。

「いーや、さっきは聞こえんかったわ」

 老人は偉そうに答える。

「いや、だって、さっき冒険者ギルドへの道を尋ねているって理解していたよ」

「ふん、初めお前さんは何て声をかけたか?」

「『冒険者ギルドはどちらでしょうか』と尋ねましたよ」

「わしが聞こえなかったのはその前じゃ」

 老人は威張り、僕もさらに腹を立てる。

「『すいません、冒険者ギルドはどちらでしょうか』と、確かに尋ねました」

「馬鹿者! わしが聞こえなかったのはさらにその前じゃ!!」

「えっと……」

 僕は頭にハテナマークを浮かべる。その前は何も訊ねていないはずだが……。

「『こんにちは、素敵な御紳士様。大変申し訳ないのですが、どうか私の頼みを聞き受けてはいただけないでしょうか。』という言葉が聞こえなかったんじゃがなぁ」

「そんな事言ってねぇし、言う訳無いだろう!!」

 海より広い僕の心も、ここらが我慢の限界だ!! ぶん殴りたい!!

 ルシファーは僕の様子を面白がって見物しているだけだが、どうやらキリ―は僕と老人のやりとりに見るに見かねたようだ。

「……冒険者ギルドは?」

「あっちじゃ」

 キリ―の問いに老人はあっさり答えた。

 老人はキリ―の顔を見て、だらしなく鼻の下を伸ばしている。

「この通りにそって行くんじゃよ、御嬢さん」

「…………」

 僕は怒りのあまり、何も言えなくなった。何か話そうとすれば爆発しそうだ。これ以上この老人と関わりたくない。

「所で御嬢さん、わしの家でお茶でもせんかのう」

 僕達はいやらしい顔の老人をがん無視して、すぐさま冒険者ギルドに向かった。

 通りは緩やかなカーブを描いていて、僕達はその通りに沿って進むが……

 ドゴーン!!

 キリ―が民家の壁を蹴り破った。

「な、何してんの、キリ―さん」

 僕はあわててキリ―に声をかける。

「……通りを真っすぐに進んだら、目の前に壁があったから蹴り飛ばした……」

「じじ―は通りに沿って進めって言ったんだよ。直進しろって言わなかったよ。人の家の壁を金輪際蹴り飛ばさないで!」

 僕はキリ―の手を握り、走り出した。美少女の手を引いて走るのは映画のワンシーンのようである。

「なんじゃこりゃー!!」

 怒りを爆発させた雄叫びがなければ、映画のワンシーンのようだったかもしれない。

 パッパラ、パッパパーン! 勇者の逃げ足スキルが上がった。勇者は「とんずら」を覚えた。


~勇者絶賛逃走中~



 僕らは冒険者ギルドのトンノ・ロッソ国支部に逃げ込……じゃなくて、辿り着いた。大きな港を持つ国なだけあって、冒険者ギルドもセイルーン王国よりも一回り大きい。

 僕達はギルドの扉を開くと、建物の大きさとは対照的に、人が少なかった。

「全く、だらしない若者ばかりじゃ。ここはわしがなんとかせねば」

 何やら息巻いている御老人が一人、優男風の青年が一人、おばちゃんが一人いるだけだった。

「なんじゃこれ、冒険者っぽい人が全然居無いじゃん……」

「誰一人居ないとは……」

 唖然とする僕と、嘆くルシファー。僕は茫然としながらも、ルシファーの嘆きに聞き返した。

「ルシファー、戦士はいないけれど、一応人は居るみたいだけど?」

「ふん、俺は美女以外を人として認めねぇんだよ」

 それはかなり酷い発言だよ、ルシファー。ひょっとしたら、神の言いつけで僕に付いて来ているだけで、僕の事も人として認めてないって事は無いよね?

 僕はルシファーに肯定されるのが怖くて、その疑問は口にしなかった。

 僕はそんな恐ろしい考えを振り払ってから、報酬を受け取るために、誰もいない受付に近寄った。

「すいません、誰かギルドの方はいらっしゃいませんか?」

「なんじゃ!」

「うわっ!」

 すぐ近くで息巻いていた老人が返事をして、僕は少しビックリした。

「わしは、ここのギルド長のサルモーネじゃ」

 またもや不機嫌そうな老人と会話する事になってしまった。射て座の人は老人に近づいてはいけないという占いでも出されたのかな? 万年不幸な僕は、見てもいない星座占いに難癖をつけた。

 僕はギルド長におずおずと声をかけた。

「あの、スタッカート村の南にある迷いの山脈に出没する謎の魔族を退治しました……」

 ギルド長は僕とルシファーとキリ―に目をやる。

「ふん、優男と少女とガキにこんな事ができるはず無いだろう。嘘もたいがいにしろ!」

 ギルド長は頭ごなしに否定する。

 僕がタジタジになっていると、ルシファーも参戦してきた。

「はん、盲録したジジ―になにが分かるんだ。ジジ―は大人しく寝ていればいいんだよ」

 ルシファーが冷ややかに言う。どうやら、優男扱いされた事に腹を立てたようだ。

「なんじゃとぉ!」

 ギルド長が顔を真っ赤にさせ、手をプルプル震わせている。

「あ、あのぅ……」

 ギルド長もルシファーもお互いに怒りを納める気はないようだ。僕は弱弱しく声をかけるも、二人を止める事はできなさそうだ。

 僕は助けを求めるべく、キリ―の姿を探した。しかし、キリ―はギルドに用意されているテーブルの上で居眠りしている。こんな喧騒の中で居眠りするなんて、とんでもない程の昼寝スキルだ。

 二人を止める事はできなさそうだ。老人はルシファーに殺され、僕達は逃亡しなければならなくなる。勇者のくせに逃亡ばかりなのも情けないけど……。

 しかし、女神は僕らを見捨ててはいなかった。

「こら、お父さん。せっかく来てくれた冒険者の方々に失礼でしょ!」

 スパン! ギルドに居たおばちゃんがギルド長の頭を殴る。

「痛いな……、急に何をするんじゃ!」

「いつも、いつも、「若者は礼儀がなっとらん」と言ってるくせに、ちょっとは自分も礼儀作法を学んだらどうなの!?」

 おばちゃんはどうやらギルド長の娘のようだった。

「本当にごめんなさいね、冒険者の方々。……アリーチェ! 冒険者の相手をして!」

 おばちゃんは階段に向かって呼びかけた。

「はーい、ただいま!」

 どたどた足音がした後、「きゃっ!」という声と大きな音が響いた。ギルド全体が揺れたような気がした。

 しばらくすると、半ベソをかいた金髪美少女が姿を現した。ギルド長の孫でおばちゃんの娘らしいが、この血筋でどうやったら美少女が生まれるのかが、とても不思議だ・

「イタタタ……、えっと、冒険者の方。今日はどのような御用時でしょうか?」

 腰をさすりながら尋ねる彼女に、僕は心配する。

「あの、大丈夫ですか?」

「はい? 何の事でしょうか?」

 彼女は笑みを作っている。

「だから、その腰……」

「はい? 何の事でしょうか?」

 どうやら今の事を無かった事にして欲しいらしい。

 僕は意識を自分の用事の方に向けた。

「えっと、迷いの山脈の依頼の報酬を受け取りに来ました」

「分かりました。これより確認を行います。まずはギルドカードを見せて下さい。」

 僕はしぶしぶギルドカードを渡す。

「いつの間にギルドカードなんて持っているんだ」との疑問をお抱えのみなさん。僕とルシファーはセイルーン王国の冒険者ギルドでギルドカードをもらっていたのです。しかし、僕の名前と冒険者番号、そして、「レディーの見方」という恥ずかしいチーム名が書かれていれば、その存在を忘れたくて仕方ないのも御理解して下さい。

 彼女はギルドカードに書かれたチーム名を見て噴いた後、別の部屋に入った。すると、何やら物凄い物音や、「きゃっ」という叫び声が聞こえて来たり、剣と剣がぶつかり合うような音が聞こえてくる。

 しばらくすると、彼女は水晶玉を持って受付に来た。

 彼女は乱れた髪を整えながら、説明を始める。

「この水晶玉は触れた方の記憶を映しだす事のできる魔道具です。こちらに手を触れて頂き、依頼達成の確認と魔物についてのデータを取らせて頂きます」

「へぇ、凄い魔法だね」

「えぇ、昔は魔道士ギルドでしたから」

僕は感心する。確かに、これでデータを集めれば、魔物の対策とかに困らないかもしれない。

「でもさ、これで人の記憶を覗いたりとかって、できちゃうの?」

 彼女は首を振る。

「いえ、これは触れた方が思い浮かべた記憶を映しだすだけです。触れた方が拒否すれば、記憶を映しだす事もできないですよ。おまけに、経験していない事を想像しても、それを映しだす事はできません」

 どうやら、プライバシーは守られ、虚偽の報告もできないようだ。

「では、どちら様がご報告をなされますか?」

「あ、じゃぁ、僕が」

 僕は黒豚の魔族と戦った時の事を思い浮かべて、水晶玉に触れた。

 僕は黒豚と戦い、逆転して、逆転され……、最後に黒豚がキリ―に踏みつぶされる所が水晶玉に映し出された。

「…………」

 ギルド長とおばちゃんは驚いて黙りこむ。

「…………」

 アリーチェも黙りこむ。

「…………」

 さすがのルシファーも目を丸くしている。

「Zzz………」

 当事者のキリ―は眠り続けている。

 祖父、子、孫の三人は眠るキリ―を見つめる。

「……とても、お強いんですね……」

 なんとなく、話をするような雰囲気ではなくなってしまった。



港の国、トンノ・ロッソ国に辿り着いた勇者御一行。この国を脅かす影はいかに!?

万丈波乱、奇奇怪怪。わたる達を襲いかかる敵は?



わたる;「やぁ、贅沢な外食と言えば、サイゼリアが思い浮かんじゃう(わたる)です。しかし、前回のルシファーの会話は酷かったよね。この「最弱勇者とチートな勇者の御一行様」の主人公の僕の名前を間違えるなんて……。「偉大なる賢者」の主人公の名前と間違えて欲しくないよ。全く、読者の方はとっくに気づいていたよね?」

読者;「……………………」

わたる;「……あれれぇ? 読者の方の三点リーダーが多すぎるなぁ、なんて。……ひょっとして、気づいてもらえなかった? な、な訳無いよね?……さてと、今日はここまで、さよなら~」

(泣きながら走り去る)


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