間幕 魔王は闇で笑う、だコロン
翡翠のような色をした壮大な草原が風にざわざわとゆれる。空で止まっているかのように浮かぶ白い雲も、じっと目を凝らせば風に流れてゆくのが見え、時々眩しい程に輝く太陽が隠れたり、覗いたりする。
その草原に囲まれるように巨大な街が広がる。街路は石畳が敷き詰められ、建物はレンガが組み合わされていれ、色とりどりの屋根から伸びる煙突から、のんびりと薄い煙がちらほら覗いている。
タコ;街で一番の早起きさんは タコのパン屋さん♪
(とあるパン屋のウィンドウの中で、大きなタコが八本中六本の腕でパンを一気にこねるパフォーマンスをしている。)
犬の子供たち;今日も楽しい 学校行こう! 友達沢山だ~♪
(三人の犬の顔を持った子供達が鞄を手に持って、くるくる踊るようにして学校へ向かうっている。)
黒ヤギ;駄目だ 止まらない 手紙食べるの! 手紙 運ぶ! 私の役目なのに!♪
(黒い山羊の頭を持ったおじさんは、ポストの前でむしゃむしゃ手紙を食べながら嘆く)
牛男;奥さん! 奥さん! またたびはいかが? 今夜! 旦那と! 燃え上がる夜♪
猫の女性;あらら 嫌だわ 恥ずかしいわ~。お口 お上手 その気になっちゃう♪
(二本足で立ち、牛の頭と牛の体を持った男が、三角耳としっぽを覗かせ、猫の顔を持つ女性に香水を勧めている。)
街のみんな;今日も平和だ 楽しい一日が始まる~♪
(街の住人が踊っている)
(シーンが城の玉座の間に移る)
兵士たち;この国で一番偉い 魔王陛下 おな~り~♪
(兵士たちは胸に手を上げ、膝をついて歌う。)
(身長は三メートル近くで、神々しく輝く黄金の甲冑で身を包んだライオンの顔を持つ魔族が、玉座に悠然と歩いて向かう。歩くたびに、黄金色のたてがみが揺れる)
ライオンの魔族;陛下、お姿! ご拝見できて~ 部下は、とても! 名誉で歓喜♪
(ライオンの魔族が玉座の隣に立つ。ライオンの魔族の背が大きすぎて気が着かなかったが、身長150cm位で、黒い仮面とマントを身に付けた少年が玉座によじ登る。少年が小さいわけではなく、城の全てが大きすぎるようだ)
魔王陛下;皆の、衆よ! 出迎え御苦労~ 今日も、一日! 仕事に励め~♪
部下全員;陛下 嬉しき ありがたき御言葉~ 今日も尽くさせて下さい 貴方様の元で~♪
そう、読者の方もお気づきのように、ここは魔族たちが住む国。『キャロット平原』の中央に位置する、『アンダーギー国』である。
アンダーギー国は、巨大な街に囲まれて、天高くそびえ立つ、巨大な城が鎮座している。その城は『モン・ブラン城』と呼ばれ、魔王はここを拠点にしている。
金色の甲冑を身に付けたライオンの魔族は魔王の右腕が務まるほどの力を持ち、黒づくめの魔王を常に護衛している。二人と初対面の人であれば、ライオンの魔族を魔王と勘違いしてしまいそうである。
黒い仮面をかぶった魔王は、見た目だけは人間の少年のようであるが、その正体はごく一部の者しかしらない。
巨大な城と城下町から成り立つ、このアンダーギー国、実は歴史が36年と浅い。魔王が現れたのも、実にたったの5年前だ。何から何まで、他国にとっては謎につつまれた国である。
魔族はあらゆる獣の姿を持った、人間みたいな姿をしている。ワタルと戦った黒豚さんも同じだ。
大きすぎる玉座で足をブラブラさせている魔王陛下にフクロウの魔族が近づいてきた。
彼は魔王陛下に向かって膝をつき、頭を下げる。
「魔王陛下、ご報告したい案件が五つ程あります」
「ふむ、報告せよ、アウル宰相よ」
魔王が頷いて、報告を促す。
「は、では申し上げます。一つ目は新たな用水路の建設の予算の目途が立ちました。二つ目は、手に職を持てなかった者達に、救済処置として与えた仕事が順調です。魔導書、学術書の写本を書かせましたが、それなりの出来具合でございます。」
「ふむ」
アウル宰相の報告に魔王陛下は頷く。
アウル宰相は苦い顔をして報告を続ける。
「三つ目に、魔王陛下には誠に申し上げ難いのですが、古代遺跡に眠る時空間魔法の解析は滞っているようです。」
「うむ、仕方あるまい。我も簡単に事が運ぶとは思っていない。根気良く続けるしかあるまい。優秀な研究班ならば時間の問題であろう」
「はっ、ありがたき幸せ。研究班も陛下の御言葉を励みに努力するでしょう。」
彼はさらに深く頭を下げた。
「四つ目の報告ですが、バーサーカー将軍の消息が依然と不明のままでございます。」
「ふーむ、あの者が我らを裏切るはずが無いと信じておる。きっと、任務に手こずっておるのだろう。あの者の人格と実力を信じておれば良い」
かしずくアウル宰相は「はっ」と返事をし、最も重要な案件について魔王陛下に報告する。
「五つ目の報告ですが、四天王の一角である知将が人間に殺されたそうです」
「なんだと! あいつの事はどうでもいいが、あいつを倒すほどの人間がいるのか!?」
ライオンの魔族が驚き声を上げる。
「レオン将軍、落ち着け」
魔王が偉そうに、玉座の手もたれに肘を立て、頭を手で支えている。玉座が大きいために肘かけが高く、傍から見ると、彼の腕と首が痛いたしい。足も床に着かない所為で、長時間座る時はエコノミー症候群に気を付けなければならないようだ。
「あいつは勝手な行動が目立ちすぎた。人間に殺されなければ、いずれ始末していた存在だ。その点ではその人間に感謝する事にしよう」
魔王は頭を支えていた腕を下ろした。格好をつけるのは良いが、腕が存外にしびれたらしい。
「しかし、その人間については十分に調べる必要がある。アウル宰相よ、その人間について調べよ」
「はっ、かしこまりました」
アウル宰相は頭を下げて退出した。扉が閉まるやいなや、レオン将軍が魔王陛下に話しかけた。
「魔王様、知将を倒した人間についてどうお考えですか?」
魔王は思案げに自分の顎をなでる。一番やり安い格好の付け方のようだ。
「ふむ、興味深いな。できれば殺さずに会ってみたいものだ。」
魔王は顎をなでる手を止めた。
「所で、レオン将軍」
「はっ、何でしょうか魔王陛下」
魔王は何かを思い出すような顔をしながら、彼に問いかけた。
「知将はどんな名前だったかな? 黒豚って事しか覚えていないのだが……」
彼も頭をひねって考える。
「なんでしたっけ? 通り名が『暗黒のコットン』だったような、違うような?」
「もう、あいつなんて『恥将』とか、『畜生』とかで良いんじゃねぇ?」
魔王が笑いながら言い、レオン将軍は苦笑する。
「なら、『きちしょう』とかはどうでしょう?」
「「……クックック、フッハッハッハ、ワーッハッハッハ!!」」
魔王とレオン将軍は互いに目を見合わせ、こらえきれずに大きな声で笑い出す。
あの世で黒豚さんは「ちきしょう!!」と叫んでいる事だろう。嫌われ者は裏で笑われるものだ。
「よう、心の相性よりも体の相性を大事にするルシファー様だ。まぁ、ここで第一幕は終わりって所だろうな。実際にこの小説を章分するかどうだか疑問ではあるが。実際どうよ。美男子で完全無欠な俺様をさしおいて、トオルの奴が主人公ってマジありえなくねぇ。俺が主人公でよくねぇ、って思う訳よ。さぁって、次回予告は……って、なんだよ作者。はぁ? 何プラカード持っているんだよ。何なに、まだ次話はできていない? 次回予告すんな!? 俺様に指図すんな! 次回予告をしときゃぁ、それが次話になんだよ! と言う訳で次回予告だ! 港町だよ! 港町と言えばあれだ、ポロリしかねぇだろう!? 何!? そんなの無茶だぁ? 無茶だと思う奴は、テメェの目ん玉でもポロリしとけ!」