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第12話 聖剣の手掛かり

キリ―が空から降ってきて、四天王の一角らしい黒豚さんを踏みつぶしてしまった。

 「現実は小説よりも奇なり」と言うが、黒豚さん達も女の子が大気圏から降ってくるとは思ってもいなかったようだ。

 「大気圏から女の子が奇襲をしかけて来る可能性がある」。今日の事を魔物たちは、今後の教訓に・・・・、まぁ、今後一生役に立たない教訓になりそうだけど・・・。

 壮大なる迷物語を語り終えたキリ―は、その無表情な顔で僕に尋ねてきた。

「ワタル・・・、目標は何処だ・・?」

 僕は頭を抱える。

「だ・か・ら!君がさっき踏みつぶしたんだよ!」

 僕とキリ―はさっきから同じような会話を繰り返している。

 ちなみに、黒豚の部下であるイノシシAとイノシシBは、僕とキリ―が食い違った会話をしている間に、トットコ逃げるよ、イノ太郎だ。僕があいつらだったとしても、こんな無茶苦茶な人間を相手にしたくなど無いだろう・・・。

「だから・・、目標は・・?」

「あぁ、もう。黒豚は死んだんだよ。圧殺だか、鈍殺だか、撲殺だか、打殺だか、ガサツだか、知らないけど。」

 僕は面倒になって、そう言い放つ。恐らく、黒豚は世界で一番ガサツな殺し方をされた。

「とにかく、目標達成、依頼達成。もう、村に戻って、ふかふかベッドで眠りたい。」

「・・・そうか、なら良い。私も、変な物を踏みつぶしてしまって、足の裏が気持ち悪い・・。」

 黒豚、憐れなり・・・。顔も合わせた事も無い少女に踏みつぶされ、殺されたあげく、気持ち悪いとの一言しかないとは・・・。

僕は憐れな敵に黙祷(もくとう)を捧げてやる。

「じゃ、村に行こうか。ルシファーは何処にいるか分からないけれど、そのうち村に戻ってくるよ。」

「・・・あいつなら、問題無い。」

 僕の提案にキリ―は頷く。

 満天の星空の下、僕とキリ―は村に向かって歩いて行った。

・・・・が、

「キリ―!そっちじゃないよ。こっちだよ。」

「そっちじゃ分からん。」

「指差しているでしょ!・・・、てっ、そっちじゃないよ。こっちだよ。」

 ドラ●エⅣのあの敵、ラ●アンじゃなくて、キリ―だったら、誘導にとても苦労するだろうな・・・・。キリ―は空●ぶ靴を手に入れられなかった。第一章 宮廷騎士;完。なんて・・・、




 僕とキリ―は大地の向こうを眺めていた。

 真っ暗だった空が白ばんで行き、星は徐々に姿を消してゆく。赤々と燃えあがる朝日がゆっくりと動いているように見えるが、意外と早く登って行き、赤く染まった空がすぐに蒼くなって行く。

 どこからか、鳥の鳴き声が響き渡り、一日の始まりを告げる。

 美しい朝の光景を見ながら、今日は清々しい天気になりそうだと思った。

だけど・・・・。

 僕は目を擦り、心臓が脈打つたびに走る頭痛に顔をしかめる。

 キリ―は相も変わらずの無表情。

 僕は美しい朝日を眺めたが、その美しい光は僕の頭痛を促進させる。まるで、僕は吸血鬼になったかのような感覚だ。

 僕は一生懸命にキリ―が迷子にならぬように先導するものも、キリ―があっちこっち向かおうとするので、僕はひっきりなしに彼女を正しい道のりに乗せなければならなかった。

 おかげで、僕達は一晩中歩いて、ようやく村に着いたのさ・・・、トホホ。

 

「はぁ、キリ―、ようやく着いたね。君のその迷子になる才能は、もうすでに、神の領域にまで達していよ。」

「・・・褒めても何も出ない・・・。」

「皮肉なんだけどね・・・。」

 僕は軽口をたたきながら、宿屋の扉を叩く。

 中には朝早くから宿のおばちゃんは働いているようだ。

 おばちゃんはテーブルを拭いていた。

「あれ、・・・おばちゃんは・・、僕がこの村に来た時、僕に箒で叩いてきた人だ。」

 そう、おばちゃんは僕が子供を泣かしたと決めつけてきて、僕を箒で叩いてきた人だった。

 おばちゃんがテーブルを拭く手を止め、僕の顔を見上げた。

「あれ、・・・坊やは・・・、誰だっけ?」

 おばちゃんは箒で叩きのめした僕を忘れているようだ。

全く、やるせない気持ちだ。きっと、キリ―に倒された黒豚も、天国で僕と同じ気持ちなのかもしれない。僕はかつての敵の気持ちに勝手に共感した。

「いや、僕は貴方に箒で・・」「あぁ!迷いの山脈の魔族を倒すと言ってた坊やか!もう2週間経ったから、魔物に食われたのかと思ったよ!」

 おばさんは僕の言葉を遮るかのように言った。

 ちなみに、僕達は迷いの山脈を丸一日しか探索していない。ほとんどが、迷いの山脈までの道のり、キリ―の迷子に付き合わされ、かなりの日数が経っただけだ。読者の方はお忘れかもしれませんが・・。

「それで、あんた達。迷いの山脈の魔族を倒したのかね?」

 おばさんは目を輝かせて尋ねる。

「えっと、一応倒しました。」

「・・・倒したらしい・・・。」

 僕は口ごもる。キリ―は未だによく分かっていないらしい。

「一応倒したって、どういう事だい?」

 おばさんがいぶしげに聞き返した。

「えっと、その、・・・彼女が踏みつぶした・・。」

 おばさんは、見た目は普通の体格の女の子であるキリ―を上から下までジト目で眺めた。

「それ、何かの冗談かい?」

「いえ、そういう訳じゃないです・・・。」

 僕もその出来事を目の前にしなければ信じないだろう。

「ふーん、そうかい。・・・まぁ、特殊な魔術を秘匿する人はいるからね。余計な詮索はしないよ。」

 おばさんは、僕らが貴重な魔術を隠したがっていると解釈したようだ。

「でも、あの魔族を倒してくれて、本当に助かったよ。」

 おばさんは詮索する目を引っ込めて、感謝の言葉を表した。

「おばさん、あの魔族にはとっても困っていたんですか?」

 おばさんは憤慨したように話をまくしたてた。

「もう、聞いてよ!あの魔物が来てからもう散々な目に会わせられたよ。それ以前はさ、普通にのんびり暮らしていたのに。私達が考える事なんて、作物を作ったり、猟にでかけた男達が獲物を持って来られるかとか、いい男がこの村に来たりしないかとか、そんな事しか考えなかったんだよ。全く、困っちゃうよ!あの魔族が来てから、もう滅茶苦茶!豚の新しい料理方法を考えたり、夫がビビっちゃって、夫婦の営みも上手くいかなくなったり。全く、嫌になっちゃう!あぁ、そういえば、マッカ―王国で半年に一度の商売フェスティバルがやる時期よね。村の心配ごとも減ったし、今度行こうかしら?でも、遠いのよね。マッカ―王国に行くだけの賃金を支払うだけで、何も買えなくなっちゃうしね。etc・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

etc・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




一時間程、おばさんのマシンガントークが炸裂!勇者の精神力をガンガンと削ってゆく。まるで猛毒に犯されたようだ。

 ちなみにキリ―は勝手に空いている部屋に入り、ベッドの上で熟睡中だ。・・・ずるい。



・・・・・ところでね、ここの村の出身のエミリーはね、マッカ―王国の学者の所に嫁いだのよね。羨ましいわ、あそこで買い物できるなんて。その学者は8年前まで、聖剣の研究をしていたらしいわよ、まぁ盗まれたらしいけど・・。あの夫婦には4人の子供がいて、長男はイケメンだそうよ。下の子も将来イケメンになりそうね。全く、エミリーの旦那さんはどれだけ強靭な物を持っているのかしら。うちの旦那にも分けて欲しいわ。」

「えっ!聖剣!?」

 聖剣の話に、僕は闇に沈みそうになった意識を取り戻した。意識が闇に沈みそうになる程、おばちゃんのマシンガントークは凄まじい威力だった。

「あら、嫌だ。あなたはまだ子供だけど、そんな事に興味があるのね。えぇ、エミリーの旦那さんは強靭な剣を一振り持っているわ。一発で2度斬る事ができるらしいわよ。」

 ・・・一発で2度斬るって、どういう話だ・・・。秘剣!ツバメ返しでハッスル!なんてね。

良く分からん、・・・まぁ、分かりたくないけど・・・・。

「いや、そういう話じゃなくて・・。その旦那さんは聖剣の研究をしていたって、どういう話なの?」

 おばちゃんのマシンガントークには超重要なキーワードが隠されていた。もし、これがゲームならば、僕はおばちゃんのマシンガントークを読み飛ばして、キーワードを見落としていただろう。

「何!一発で二度斬る、だと!くそ、世の中にはそこまで極めた男がいるのか。俺も、「胃の中の蛙」という事か。」

 いつの間にか、ルシファーがマシンガントークに介入していた。

「ルシファー、その蛙は死んでいそうだけどね。ちなみにルシファーはどこに居たの?」

「あら、そちらのイケメンさんは昨日の昼に来て、ここで仲間を待っているんだって。仲間って、そういえばあなたの事だったのね。」

 おばちゃんの言った衝撃の事実に僕は腹を立てた。

 全く、ルシファー・・。君はあんな危険きわまりない所に僕を置いて行って、自分はノホホンと宿に泊まっていたのか・・・。

自分だってルシファーの事を気にかけないで村へ向かった事を忘れて、僕はルシファーを恨めしいと思った。例え、同じ事をしても、不幸な人間は他人を恨めしく思うものだ。

「一発で二度斬る技かぁ・・、いったいどうすれば習得できるのだろうか?」

「さぁ、マシムのスープでも飲んでみたらぁ、効くらしいわよ。あんたいい男だし、彼女が喜ぶんじゃないかしら?」

「いや、あのさ!そろそろ聖剣の話に戻して欲しいんだけど・・・。」

 僕は眠気で頭痛のする頭を抱えて言った。どれだけ、その話を引っ張るんだ!早く話を聞いて、すぐに寝たい!

「いや、私も詳しい話は知らないのよ。エミリーと旦那さんはマッカ―王国に住んでいるってぐらい。ちなみに、マッカ―王国の特産のマシムが怪しいと思うわ。」

「もう、その話はいいって!それより聖剣の事を教えて!せ・い・け・ん!!」

 僕が大声を出すも、おばちゃんはうるさそうに顔をしかめ、耳を押さえる。

「それ以上は知らないわよ。マッカ―王国に行ってきたら?」

「そうするよ。」

 おばちゃんから重要な情報が聞き出せただけで、とても満足だ。

「ところで、迷いの山脈にいた黒豚の魔族はどんなようすだったのかしら?」

 僕が部屋を借りて寝ようと思ったが、おばちゃんがまた話し始めた。

「あぁ、なんとか倒しましたよ。」

 僕は一刻も早く寝たいが、おばちゃんはまだ話を続けるつもりらしい。

「実はね、あの黒豚の魔族が村に食べ物をよこせって言って暴れるのね。それで、毒を盛った豚肉を「人間の子供の生贄です。」と言って食べさせてきたわけなの。もう2カ月近くの間、毒を盛っていたんだけど、なかなか死ななくてね。私達が盛った毒は効果あったかしら?」

 人間の子供と騙されて、ブタを食べさせられて共食いさせられ、毒を盛られるとは・・・。

 あいつ相当なバカだったらしい。

 しかし、なるほど、僕があの黒豚の魔族相手に善戦できたのは、その毒のお陰かもしれない。結局はキリ―が倒したけど・・。

 さすがにあの情けない戦いぶりで、四天王の一角を名乗れやしないだろう。

 あれ、でも・・・、あの黒豚が馬鹿な真似をしなければ、僕に余裕で勝っていたような気もするけど・・・。

 それはきっと、僕が弱すぎるのか、あの黒豚が馬鹿すぎるかのどちらかだろう。

 僕はそんな事を考えているうちに大あくびをだした。もう限界だ。

「おばちゃん、僕、一泊するね。」

 僕がおばちゃんにそう言って、適当な部屋に入ろうとした・・が、ルシファーに襟首を掴まれた。

「ワタル、もう太陽が十分に登っているぞ。こんな時間になっても寝るなんて、グータラがする事だ。時間は待ってくれやしない。世界平和のため、俺が天界に戻るため、時間を一刻も無駄にはできない!」

 ルシファーが熱血に、なにやら自分勝手な事も言っている。

「あの、僕、一睡もしていないんだけど・・。ほら、キリ―も寝ているし、今日はここで・・・。」

 すると僕達の後ろで足音がした。振り返ってみると、寝ていたはずのキリ―の姿があった。

「問題無い・・・。私は先ほどもベッドの上で寝て、ここの村に辿り着くまでも眠りながら歩いたから大丈夫だ。」

「キリ―!この村まで歩くのに、君はとんでもない方向に歩いてゆくから、おかしいなとは思った。どうして、そんな眠りながら歩いていたなんて器用なまねをするんだ。おかげで僕は村に向かうのに苦労したんだぞ!」

 僕は悲痛な叫び声を上げた。

「・・・というわけで、次の町を目指して出発だな!」

 ルシファーが僕の襟首をつかみながら言った。

「僕ってば、一睡もしていないのに、出かけないといけないの!ルシファーの鬼!」

 僕は目を赤くしながら言った。

「さぁ、出発!」

 ルシファーが僕を引きずりながら歩き出し、キリ―が後ろをついてくる。

 僕は仲間に振り回される星の元に生まれたらしかった・・・。



 無事に四天王の一角を倒したワタル達。

 彼らを待ち構える試練とは?

 聖剣とはいったい、どこにあるのか?

 勇者ワタルについてくるキリ―の目的とは一体何か?

 万乱繫盛、奇奇怪怪。

 勇者ワタルの冒険はいかに!?


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