第11話 迷物語(まよいものがたり)
「キリ―!!どうして君は空から降って来て、いったい今まで何をしていの?」
僕が驚いて尋ねる。
「・・・・私は、目標を探していただけだ・・。とおる、・・目標は見つけたか?」
キリ―はその目標を足で潰しながら、僕に問う。
「えっと、・・・・君の足元なんだけどなぁ?」
僕はキリ―の方を指差した。
「・・・・笑止、これはゴミだ。冗談も程々にしろ・・・」
「そう言われてもね・・・、本当なんだけど・・・。」
キリ―は自分が踏みつぶしたものが、黒豚の魔族であるどころか、それが生き物であった事にも気が付いていないらしい。
それより遥か上空から落下して、足も挫かないなんて、そっちの方が冗談みたいだ。
「お、おい、お前ら!!ボスを殺しておいて、俺達を無視すんじゃねぇ!!」
「あ、あんたたち!!ボスをゴミ扱いするなんて、絶対に許さないんだから!!」
黒豚をゴミ扱いしたのは僕じゃないよ。文句ならキリ―にだけ言ってほしい。
キリ―が無表情の瞳で二匹を見つめる。
「「ヒッゥ!!」」
二匹は自分よりも強者の視線を受けて、本能的に危険を嗅ぎ取ったようだ。
まぁ、大気圏から軽々と飛び降りてくる奴相手に、野生的本能なんてなくとも恐怖を感じられるだろう。
「・・・はぁ、・・キリ―・・今まで何をしていたの?」
「・・・・短く言うと、「お前は真面目に頑張れば、元の世界に戻れる」という事だ。」
キリ―の言葉に僕の頭は疑問符だらけになった。
「いったい、どういう事?」
「話せば長くなる、・・・・聞くか?」
キリ―が無表情な目で僕を見る。
「んん~!?ちょっと気になるかな?」
「・・・分かった。長くなるが話してやろう・・・。
私は目標を探しつつも、いつの間にか消えてしまったお前達も探していた。(まぁ、キリ―が僕たちを置いて行ったんだけどね・・・・。)
私は迷いの山脈を越え、人の石像が立ち並ぶ街にやって来た。
私が町を歩いていると、生きている人間を見つけた。
話を聞くと、この町の人間は呪いで石にされてしまい、元に戻すには聖なる泉の水を振りかけなければならないらしい。
しかし、その周りにいる魔物が手強く、自分では近づく事ができないらしい。
私がその話を聞き、倒すべき魔物の手配書を見た。
その泉にはそれらしき魔物がいないので、そのまま目標を探す事に決めた。」
「そんだけ冒険して無視するのか!!絶望している人なんて眼中に無し!?」
僕のツッコミを無視して、彼女は続ける。
「旅を続けるうちに、私は天空に浮かぶ城に、何でも知っているという悪竜の存在を知った。
私は海に沈む古代遺跡より、古代の遺物である飛空挺の存在を知った。
飛空挺はもうすでに、地底国に住むダークエルフ達に盗掘された後だった。私はダークエルフの軍団と戦い、飛空挺を手に入れた。
そして、私とジョニーは飛空挺で天空城を目指した・・・。」
「ちょっと待て、ジョニーって誰?」
「しかし、天空城を目前にして、悪竜の攻撃により飛空挺は壊れてしまった。脱出ポッドで天空城まで行けるのは一人だけだった。」
僕のツッコミはきれいにスル―された。
「ジョニーは言った、・・・・
『キリ―!こいつはもう駄目だ!脱出ポッドでお前だけでも天空城へ行け!』
ジョニーは操縦桿を握りながら叫ぶ。
『(キリ―)・・・・』
キリ―は沈黙したまま、ジョニーを見つめる・・。
『いいから、俺にかまわずに行け!俺は、俺は、この大空を眺められただけで満足だ。全てに絶望した俺にこの大空を見せてくれたのはお前だ、キリ―!だから俺に構わずに行け!!』
『分かった・・・』
キリ―は脱出ポッドに入り、操作した。
『えっと、そんなにあっさり行くの?ねぇ、俺が良いって言ったけど、それって無いよ。少しぐらい戸惑ってよ。おい、ちょっと待…』
・・・・そして、私はジョニーの尊い犠牲により、天空城で悪竜と対峙する事ができた。」
「ジョニー、憐れ。同じ男として同情する・・・。けど、キリ―。君って上空から落ちても大丈夫じゃん。脱出ポッドをジョニーに譲ってやれ!」
僕は男として声の限り叫んだ。
「私は悪竜を相手に苦戦し、倒すのに30秒もかかってしまった・・・。」
もちろんクールに無視。
「短っ、苦戦した割には短っ!悪竜の扱い雑!!キリ―は大抵の相手を瞬殺するだろうから、まぁ苦戦したんだろうけど・・・。」
キリ―は遠い目をして続けた。
「悪竜は息を引き取る前に言った・・・・
『グフ、この我が負けるとは・・・。我は地上の者達を散々苦しめた。しかし、それも必要な事だった。』
『・・・・』
キリ―は黙ったまま聞き続ける。
『この星は危機に瀕している。化学という技術を発展させた奴ら、マールミエ星の奴らはこの星を征服しようと企んでいる。我は、奴らに対抗するため、奴らには無い、魔力という武器を貯めるために地上の者たちを喰らい続け、強大な魔力を手に入れた。』
悪竜はゴホッと、咳をする。
『奴らは何でも予測し、あらゆる事を知る事ができる技術を持っている。奴らを倒すには小細工など意味が無い!圧倒的な力で正面から叩き潰すしかないのだ!!』
キリ―は考え込む。
『・・・・なる程、それがあれば目標を探す事ができるのか・・・。』
『ん?何を言っておる?』
『・・・・そいつらを倒す・・・』
悪竜は驚く。
『そ、そんな馬鹿な。・・・いや、我を倒したお主なら、できるやもしれぬ。』
悪竜は考え込み、決心したようだ。
『ならば、我が今まで蓄えてきた力、我が全てを汝に託そう!!最後の希望よ!この星を頼むぞ!!』
悪竜が光の粒子となり、キリ―の胸に吸い込まれて行く。
・・・・そして、私は悪竜の力を使い、宇宙へと羽ばたき、マールミエ星人と争った。」
「・・・なんだか、ファンタジー世界を羽ばたいて、SF世界にまで手を伸ばしてるよ、この人・・・。」
僕は額に手を当てる。理解するのにも限界が近づいてきた。
「私は、マールミエ星人の大将と戦いになった・・・
『ハハハ、美しく屈強なる戦士よ!何故、人は争い合う・・・ぶくぅ!!』
キリ―は二本のバスターソードで敵の大将を細切れにした。
キリ―は宇宙船内を見渡す。
『・・・どれが何でも分かるという物なのだろうか・・・。』
目の前にはピカピカ光る物が沢山あり、押すことができそうな小さな出っ張りが無数にあった。
キリ―は適当に押してみた。ポチっとな!
《警告!警告!これよりオーバードライブモードに入ります。これより超加速、急上昇、急降下をしますので、心臓の弱い方、妊婦中の方、気分の悪い方はご了承下さい。》
キリ―の乗る宇宙船は、どんどん加速していき、ワープした状態で、ブラックホールに突っ込んだ。
・・・・・・・・・・。
私は長い時間気絶していたようだ。
私はゆっくりと目を開くと、5人の少年少女が私の様子を見ていた。
『あ、よかった。気がついたのね。』
少女が微笑みながら、私に声をかける。
『・・・・ここは?』
一人の少年がうなずく。
『ここは、地球って所だよ。翻訳の魔法も上手くいったようだね。』
私は彼らの顔を眺めた。
すると、驚いた事に一人だけ顔を知っている者がいた。少し、大きくなっているようだが、・・・・
『・・・・ワタル・・・?』
『キリ―、久しぶり、なのかな?そうだよ、僕はワタルだよ。まぁ、君の知っているワタルとは時間軸が違うけどね。僕は君が知る僕より、未来の僕なんだ。』
私は考え込む。
『・・・・よく分からない・・・。』
ワタルはクスクス笑う。
『まぁ、そうだろうね。昔、君から未来の僕の話を聞いた時、「なんじゃぁ、そりゃっ」て、僕も思ったもん。』
先ほどの少年が話しかけてくる。
『君は、宇宙船で光速の100倍のスピードでブラックホールに突っ込んだ事により、3次元世界に時間軸、世界軸を加えた5次元世界から飛び出したんだ。それで君は時間の制約、世界の制約を超え、この異世界である地球に辿り着いたんだ。』
ワタルは真顔になって話しかけてきた。
『それでね、キリ―。過去の僕には、「真面目に頑張れば、元の世界に戻れる」って伝えて欲しいんだ。それで、元の世界に戻るには・・・・』
『駄目だよ、ワタル。過去に君は、未来の君からそれ以上の情報を得ていない。下手に教えすぎて、過去に、未来にどんな影響を与えるかは未知数だ。どんなバタフライエフェクトを引き起こすか分からない。』
『全く、ケチだな、真央。』
一人の少年の制止に文句を言う。
ちなみに、バタフライエフェクトとは。簡単に言うと、過去のわずかな誤差が未来に影響をもたらす恐れがある事という事である。(※作者の勝手な解釈です。詳しく知りたい方はご自分でお調べ下さい)
『ハハハ、過去に、未来のお前が伝えようとしなかった事が悪い。まぁ、つまり自業自得だな。』
『全く、清水までそんな事、言わなくたって良いじゃないか。』
ワタルが口を尖らせる。
他のみんながクスクス笑い、ワタルが咳払いして、キリ―に顔を向けた。
『と、言う訳で。過去の僕。恨むなら、お前に何も伝えなかった、未来の僕を恨め。』
『フフフ。それって、あんたの事じゃない。』
『うるさいな、渡辺さん。僕にとっては、僕よりも未来の僕が悪いんだよ。』
キリ―を除いて、みんなが笑う。
一人の少年が話しかけてくる。
『さてと、キリ―さんも、ここに長く居ない方が良い。異世界の住人である君は、この世界にも、君自身にも悪い影響があると困るから。』
『そうだね。偉大なる賢者のとおる、頼んだよ。』
『うん、任せて!』
とおると呼ばれた少年は頷くと、目を閉じて歌いだした。
とても優しい歌だった。
優しい眠りに包まれたようだった。
そして、気がつくと、
・・・・上空から落下していて、過去のワタルと再会していた。して、今に至る。」
僕の顔が変に歪む。
「なんじゃ、そりゃぁ~!!」
未来の僕が言ったとおりに、過去である僕が叫んだ。
10分経過
僕は必死に頭の中を整理した。
「えっと、つまり・・。キリ―が迷子のすえ、未来の地球で未来の僕に出会ったという事か?」
壮大なる迷子の物語だ!たかだか黒豚を探すのにどれだけの冒険をしているんだ。
全く・・・、これを迷物語と名付けよう。パクリっぽい名前だが・・・。
ていうか、すごいなぁ、キリ―。僕とルシファーは、海底の古代遺跡、地下帝国、天空城、宇宙戦争の最前線で迷子になると予想していた。しかし、キリ―はその全てを実践して、さらにその斜め上を行っている。未来の地球に行って、未来の僕に会うなんて・・・。
「・・・私もよく分からないが・・・、恐らくそうだ・・・。」
ナルホド、僕は頑張れば元の世界に戻れるのか。これで、これからも頑張っていける気がする。でも・・、
「未来の僕!もっと教えてくれたって良いじゃないか!」
僕は未来の僕を恨んだ。
偉大なる賢者とのコラボです。そのうち、一つのシリーズにして、ラストの小説で4人の主人公が戦う物語にしたいです。(注意;作者も今のところどうなるかは分りません!)