連邦総局武装警察部突撃課
その出来事は、予兆すらなく訪れた。
東京、ロンドン、ニューヨーク、ヨハネスブルグ、デリーの5つの都市は、向こう側からみれば厳正な調査の元に、こちらからみれば無作為に選ばれた土地だ。
これらの都市の一部分が突如として別世界のものと入れ替わり、こちらの土地と入れ替わった。
その時から、世界は大きく変わり始めた。
向こうの世界の土地は、こちらの基準ではひどく汚れている。
それは、高濃度汚染物質や土壌汚染が極めて深刻であり、まさにゴミ捨て場の様相だった。
そして、まさにそのとおりだった。
連邦総局という、世界のすべての武装集団を束ねる公的組織は、世界が統一されてから作られたものであり、警察、消防、救急といったものから、公的に設置されている軍まで、さまざまなものを支配していた。
その結果、きわめて巨大な組織となっているが、だれもそのことを指摘する者はいない。
その連邦総局に、新しく、武装警察部が設置され、さきほどの5つの都市に支部を置いた。
その都市内での警察業務は、すべて彼ら武装警察が行うことになる。
武装警察部は、特殊部隊出身者で大まかにしめられているが、警察部内より試験によりそちらへ異動する者もいる。
警察部出身の者は、特殊部隊と同程度の技能を身につけているということになり、優遇された立場にいた。
もっとも、それは特殊部隊出身の者も同様である。
「いくぞ」
静かにフルアーマーで指示を飛ばすのは、武装警察部突撃課といわれるところであり、人質救出作戦による突入、爆発物処理、有毒地帯への救出等が主な任務である。
別名、特攻部隊ともいわれる、武装警察部の中でも際立って危険な課である。
その課長も、第一線で活躍しており、今回の作戦のリーダーも、彼がしていた。
4階建ての建物の3階の部屋の前、この中に、人質となった4歳の女児と9歳の男児がいる。
犯人は18歳から22歳の、ストリートギャング5名。
いずれも武装しており、通常の機動隊では対応することができないため、突撃課が呼ばれたのだ。
「突入!」
煙幕弾を外から室内へ入れ、5秒してから課長が叫ぶ。
その声に呼応するように、部屋の両隣とドアのところから、勢いよく隊員たちが室内へなだれ込む。
それぞれは、暗視ゴーグルをして、さらにはサーモグラフィー装置も付けているため、どのような状況であっても、見ることができた。
「捕獲!」
「こっちも完了!」
「安全確保はじめ!」
安全確保とは、犯人が逃げていないかを確認し、煙幕を外へ逃がし、裸眼であっても室内を確認することをいう。
さらに言えば、それぞれの犯人を縛り上げ、武装警察部刑事課へ引き渡すことも広義ではいう。
「安全確保終了。逃走者無し、負傷者無し。あと少しすれば、刑事課の連中が来ます」
「わかった」
リーダーが、煙幕を逃がし終わったことを、センサーで確認すると、顔を露出させた。
「人質は」
「押し入れにいて縮こまっていたところを隊員が発見し、保護しました。犯人グループは全員逮捕完了。引き渡し準備中です」
隊員が次々とリーダーへ報告を入れる。
「隊長、刑事課が来ました。ID確認終了、DNAも正常です。入れますか」
「ああ、そうしよう。俺たちがするのは、引き渡すまでが仕事だ」
開けっ放しのドアから、スーツで身を包んだ3人の人が、制圧された部屋に入ってくる。
そこへ、犯人たちが正座して座らされていた。
「武装解除完了、あとは、好きにしてください」
「さすが特攻部隊。どんなことにも恐れずに対処してくれて、こちらはありがたいよ」
「お褒めの言葉結構。人質となっていた兄妹はどうするつもりで?」
「児童福祉局が両親へ引き合わせることになっている。彼らが来るまでは、君たちが保護をしておいてくれ」
アーマーのすべてを脱ぎ終わった隊員の一人が、すでになつかれているようで、子供たちを背中に引っ付けながら、犯人たちのところのわきを通った。
「隊長、下で待ってますんで」
「わかった。あとで行く」
子供たちは、下の武装警察が用意した車で隊員とともに待つことになる。
「では、引き渡してもらおう」
「ええ、書類はあとで」
3人であっという間に手錠をし、ひもでそれぞれをつないでから、歩かせながら部屋から出て行った。
「ふう…」
「隊長、次の指令が来てます。高高度汚染区域にて、有毒ガスの放出事例が観測されたようなので、その実地検証を行うようにとのことです」
「わかった、行こう。車を回しておけ。子供になつかれた隊員は、子供が引き渡されてから追いつくようにと伝えろ」
こうして、彼らが次々としていくおかげで、これらの町の治安は、維持をされている。
だれもが、空気と同じような感じで、安全を享受していた。