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婚約者の不倫で捨てられた悪役令嬢ですが、隣国の冷酷皇太子に拾われたら異常なほど溺愛され復讐が加速しました

作者: 結城斎太郎
掲載日:2026/05/06

「――よって、エルシア・ヴァルディスとの婚約はここに破棄する」

乾いた拍手。ざわめき。嘲笑。

全部、全部、全部――耳障りでしかなかった。

私はただ、静かにその言葉を受け止めるしかなかった。

「……理由を、お聞きしても?」

声は震えていない。よし、まだ壊れてない。

玉座の前に立つ男――かつての婚約者、アルトレイ・バルザークは、露骨に嫌悪を浮かべていた。

「理由だと? 決まっているだろう。お前は陰湿で、冷酷で、そして――」

彼は隣に寄り添う女の肩を抱いた。

「彼女をいじめたからだ」

その女――リシェル・ノーラは、わざとらしく震えてみせる。

「わ、私は……ただ、アルトレイ様とお話ししていただけなのに……エルシア様に……っ」

――嘘だ。

全部、嘘。

私は何もしていない。

むしろ、知っていた。

この二人が、裏で身体を重ねていたことも。

「……それで?」

私は問い返した。

アルトレイは一瞬だけ顔を歪めたが、すぐに笑う。

「それで、とは?」

「私を捨てる理由としては、弱いのでは?」

一瞬、空気が凍った。

リシェルが焦る。アルトレイが苛立つ。

「な、何を――!」

「だってそうでしょう? 本当の理由は――」

私は一歩、踏み出した。

「あなたが、その女と不倫していたからでしょう?」

ざわり、と会場が揺れる。

貴族たちの視線が一斉に集まる。

アルトレイの顔が赤く染まる。

「ふざけるな!!」

怒声が響いた。

でも、その声はどこか焦っていた。

「証拠はあるのか!?」

「ありますわよ」

私は微笑んだ。

ずっと、耐えてきた。

この瞬間のために。

「使用人たちの証言、密会の記録、そして――寝室の出入りの記録も」

「っ……!」

リシェルが青ざめる。

アルトレイが言葉を失う。

「ですが、もうどうでもいいのです」

私は軽く首を傾げた。

「婚約破棄は受け入れます」

ざわめき。

驚愕。

嘲笑。

でも、構わない。

「ただし――覚えておいてくださいませ」

私は彼らを見据えた。

「この屈辱、必ずお返しします」

その瞬間、扉が開いた。

重厚な音と共に、現れたのは――

「面白い女だな」

低く、よく通る声。

黒髪の男。

冷たい黄金の瞳。

隣国アークレイド帝国の皇太子――レオンハルト・アークレイド。

「な、なぜここに……!」

王が動揺する。

だが彼は気にもしない。

ただ、まっすぐに――私を見ていた。

「エルシア・ヴァルディス」

名を呼ばれる。

それだけで、何かが変わる。

「お前、行く場所はあるか?」

「……ありませんわ」

正直に答える。

全部、失った。

家も、婚約も、立場も。

「なら来い」

彼は迷いなく言った。

「俺が拾ってやる」

――拾う?

普通なら侮辱だ。

だけど。

「条件は?」

私は問う。

レオンハルトは、僅かに口元を歪めた。

「俺に従え。代わりに――」

その瞳が、妖しく光る。

「お前の復讐、全部叶えてやる」

心臓が、大きく跳ねた。

甘い言葉。

危険な誘い。

でも。

「……いいでしょう」

私は手を差し出した。

「契約、成立です」

彼はその手を取った。

強く、逃がさないように。

「決まりだな」

その瞬間。

私の運命は、大きく変わった。

それからの私は――別人だった。

帝国に渡り、力を与えられた。

権力、財力、情報。

そして――異常なほどの溺愛。

「エルシア、寒くないか?」

「……平気です」

「そうか。だが念のためだ」

そう言ってマントをかけてくる。

近い。

距離感がおかしい。

「……殿下」

「なんだ?」

「近いです」

「問題ない」

問題しかない。

だが――嫌ではなかった。

むしろ、安心する。

彼は決して裏切らない。

それが分かるから。

「復讐の準備は整ったか?」

彼が問う。

「ええ、完璧に」

私は微笑む。

もう、震えない。

もう、壊れない。

「では行くぞ」

彼は手を差し出す。

「お前の舞台だ」

その手を、迷いなく取る。

そして――

「さあ、始めましょう」

私は笑った。

「復讐劇を」

数日後。

王国は崩壊した。

アルトレイは不正と不倫の証拠により失脚。

リシェルは国外追放。

すべて、計画通り。

「終わったな」

レオンハルトが言う。

「ええ」

私は空を見上げた。

何もかも、終わった。

――なのに。

「虚しいか?」

「少しだけ」

正直に答える。

彼はしばらく黙っていたが。

「なら――」

不意に、抱き寄せられた。

「これからは、俺の隣で満たされろ」

心臓が跳ねる。

「お前はもう、一人じゃない」

その言葉は、ずるい。

「……殿下」

「レオンでいい」

逃げ場はない。

でも――

「……では、レオン様」

私は彼を見上げた。

「これから、よろしくお願いします」

彼は笑った。

珍しく、柔らかく。

「ああ。死ぬまでな」

その言葉は、重くて――

でも、どこまでも甘かった。

復讐は終わった。

でも。

私の物語は、ここから始まる。


幸せに満ち満ちた、新しい人生の序章が。

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