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空明の再誕 - 生きる理由を取り戻すために  作者: 日和秋彦
第2章 - 光

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第十二話 【閉ざされた扉の向こう側】

 目を覚ますと、大量のクッションが置かれたハンモックの上でシーツに包まれていた。


(いつの間に眠ってしまったんだ……?)


 周囲を見渡し、自分がどこにいるのかを理解する。

 あのビーチは現実で、あの声は確かに語りかけてきていた。


 そう願ったとしても、夢ではない。はっきりと覚えている。

 前世の記憶について考察していた時、その声は唐突に蘇った。


 あの声……。

 あの声こそが、かつて俺を機械に変えた元凶だ。そして今でも、すべての事象の変数を絶えず分析し、パターンを見つけようとしては失敗を繰り返すだけの、ちっぽけな存在に縛り付けている。


 先ほど骨の髄まで響き渡った奇妙な声の正体は、結局のところ前世の古い記憶だった。

 元素と融合した、第二の意識とでも呼ぶべきものだ。


 端的に言えば、精神的な問題を処理し、常に最前線に立たせていたAIのようなもの。

 そのシステムのおかげで、人間性を完全に捨て去ることができた。


(いや、言葉数が多すぎる)


 簡潔にしよう。あれは人生を支配したAIだ。


 唯一残る疑問は……。

 なぜ今になって話し始め、名前を呼べるようになったのか、ということだ。


 ---


 声の件は頭の片隅に追いやり、ビーチのそばに建てられた大きな家へと歩き出す。

 中では、涼しげな夏服を着た父と母が、笑いながらカードゲームをしていた。


 こちらの姿を見ると、母が話しかけてくる。


「坊や、もう気分はいいの? 水辺のあんな近くで眠ってしまうのは、あまり良くないと思うわ……」


 単に寝ていただけだと思っているらしい。


「ごめん、ママ……波の音がすごく落ち着くから、つい流されちゃって」


 古代の声が話しかけてきたなんて言っても、何の説得力もないだろう。

 それに、王都の郊外には高い壁に囲まれた対呪い支援施設があり、多くの人がそこで暮らしている。真実を話せば、間違いなくそこへ送られる。


【私は……理性的だ】


(さっさと消えてくれないか?)


【私はただの記憶……】


「ダリアン・セラフェル! 話している時はちゃんと聞いてちょうだい、壁に話しかけてるわけじゃないのよ!」

「あ、ごめん、ママ……その、ちょっと考え事をしていて」


 いつもこうだ。

 どうやっているのかは分からないが、たった一言でこちらの最も深い思考を落ち着かせたり、吹き飛ばしたりできる。


「ママ、ビーチで寝てるのを見つけた時、どう思った?」


 母は頬に指を当て、天井を見上げる。


「お水がすごく好きなんだなって思ったわ。当たってるかしら?」

「うん、それは……当たってる。水は好きだ」


 雨を見るたび、自分の中の何かが反応する。

 夕焼けが雲に覆われた空を染める時も同じだ。

 赤、オレンジ、マゼンタ、ピンク、紫が混ざり合うあの瞬間。


 温かく、強烈な色彩。しかし、なぜ急にそんなものに惹かれるようになったのか。

 おそらく、この体のせいだろう。ここに宿っている以上、遺伝子そのものの影響を避けることはできない。


「お水が好きなの、私の可愛い子?」

「うん、ママ」

「でも、水は病気の原因にもなるのよ」

「うん、ママ」


 このまま成長すれば、ホルモンの影響も受けることになる。

 つまり、完全に排除する方法はない。

 前世では、こんなことは一度も経験しなかった。


 父が近づいてきて、目の前に立つ。

 その顔には、誇りと心配が入り交じった笑顔が浮かんでいる。


「お前がそこらで寝転がっているのを見て、パパがどう感じたか知りたいか?」

「パパ?」

「誇らしかったよ。心の底からな。砂だらけになるのも気にせず、自然の中で眠れる息子は立派だ。だが同時に、ものすごく心配した。一体何があってあんな場所で寝ていたんだ? ここは安全な海だが、危険なカニや毒のあるサソリなんかもいる……父親としては、お前に何かあったんじゃないかと頭を抱えたし、リーダーとしては、ああして外の世界を経験させる必要があった」

「もう二度としないって約束する」

「気を付けるとだけ約束してくれ」


 また約束だ。

 なぜまた約束をしてしまったのか。

 だが、そうせずにはいられなかった。もししなければ、何て返されるか分からない。


「気を付けるって約束するよ、パパ……」

「さすが俺の息子だ」


 父は愛情を込めて髪をくしゃくしゃに撫でる。

 安全についてさらにいくつか口うるさく言うと、カードゲームに戻っていった。


 しかし、軽くテーブルを叩く音がした。


 勝ったのか?


「あああっ!」


 いや、違う。


「それはズルだ! エピオの林檎を三つも持ってるなんて、分かるわけないだろ!」


 ジュリエットは勝ち誇った笑みを浮かべる。


「勝つしかなかったのよ、あなた。六歳の息子にお説教をしたんだから、私があなたに勝つのは義務なの。それがルール。主導権は私にあるのよ、ヴァリ」


 その愛称に父は顔を赤らめる。そして近づき、母にキスをした。


「待って、あなた……子供が見てるわ」


 目を逸らす。

 いや、逸らしてはいなかった。


「えっと……その……坊や。フレリーがご飯を用意して待っててくれてるわ。行ってきてくれるかしら? 冷めた美味しくないものを食べてほしくないの」

「ママ?」

「ねえ……」


 母の顔は真っ赤だった。

 それ以上は何も言わない。

 だが、その目の奥には「お願いだから、ご飯に行ってちょうだい」と明確に書かれている。


 軽く息を吐き出し、承諾した。


「パパ、後でヴァレリアのツリーハウスに行ってもいい? 果たさなきゃいけない小さな約束があるんだ。海に来ると、あそこによく泊まるって聞いたから」

「もちろんだとも! いっそ、そのまま泊まってきなさい!」

「あ、分かったよ、パパ」


 隠そうともしていない。


 それ以上何も言わず、食事を求めて部屋を出た。


 ---


「こんにちは、フレリー」テーブルに近づきながら声をかける。


 フレリーはお盆を持って近づいてきた。真剣な眼差しでこちらを見ると、頷いてテーブルにそれを置く。その後、ただ立ち去っていった。


「私の当番は終わりです」フレリーが言ったのはそれだけだった。


 食事は想像していたよりもずっと美味しい。あの料理人は、長年の経験を感じさせる不機嫌で妥協のない目つきをしていたが……最初から来るのが分かっていたかのように、かなり手際が良かった。


 それはさておき、今はそのツリーハウスを探しているところだ。

 ちょうどその時、木々の葉の隙間から漏れる小さな光が見えた。


 近づいてみると、登るための梯子がないことに気づいた。

 代わりに、パルクールのような動きでロープを使って登る設計になっていた。

 ロープを掴み、体を揺らして枝へと飛び移る。そこから別のロープへと飛び移り、次々と渡っていくと、ついに最後の区間である木の床へと辿り着く。


 このツリーハウス……。

 前世で住んでいたどのアパートよりも立派な造りだ。


 ヴァレリアがこちらを見て声を上げた。


「ダ、ダイくんっ!? ここで何してるのっ!?」

「君が来いって言ったんだろ……ハグをする約束があった」

「あっ、そうだねっ!」


 約束通り、近づいてヴァレリアを抱きしめる。

 完璧なハグをするとは約束していない。酷くぎこちないものだったが、彼女にとってはそれで十分だったようだ。


「えへへっ、あのね……ダイくん、お泊まりしていくっ? お願い、うんって言ってっ!」

「ああ、ここに泊まるよ」

「やったあっ! もうベッドは用意してあるんだよ。エドと一緒に寝るのっ!」

「エド?」

「うん、エドだよっ! 私の猫ちゃんっ!」

「猫なんか飼ってたのか?」

「うんっ! でもねっ? エドはずっとここに住んでるんだよっ! どうしてもここから出たくないみたい。なんでかは分からないけどっ」


 ヴァレリアは猫の方を振り向き、考え込むように唇を尖らせてから、再びこちらを見た。


「一緒に寝ても平気だよねっ?」


 手を振って否定する。


「いや、全然問題ない。エドが嫌がらなければ」

「じゃあエドと一緒に寝るんだねっ! 寝相がすっごく悪いから気を付けてねっ、でも爪はないんだよっ。狩りがすっごく下手だから、パパにお願いして専用のお世話係をつけてもらったのっ。エドに何かあったら耐えられないもん!」


 息継ぎのために立ち止まるまで、ヴァレリアは話し続ける。


「それから……えっと、エドは元気な猫ちゃんだよっ!」

「なるほどな……なあ、そのお世話係についてだが、彼もあのロープを登らなきゃならないのか?」

「何のことっ?」

「ここまで登るのに使ったロープだよ」

「ええっ、ダイくん、ロープを使ったのっ……?」

「ああ。それが何か?」

「あっ、分かったっ! 上り下りするための梯子があるの、下にスライドさせるだけのやつっ。そっか、見えなかったんだねっ! 隠れるようになってるからっ」

「そうか……俺はロープで登ってきた」

「うんっ、ロープは万が一のためにあるだけなんだけど、私は一度も使ったことないもん……」


 その時、ヴァレリアの中で点と点が繋がる。


「待って、ダイ、ほんとにロープで登ったのっ!? こんな暗闇の中でっ!? それって……」

「大したことじゃない。アレクシオとの訓練は、木登りなんかよりよっぽど厳しいからな」


 はっきりとそう告げた。


「うーん、そっかあ」


 ヴァレリアはベッドを整え、最後にもう一度ハグをしてから自分のベッドに潜り込む。

 異様に距離が近かった。


「ダイくん、私って良い従姉妹かなっ?」

「どうして急にそんなことを聞くんだ?」


 横を向く。

 ヴァレリアも同じように向き直り、視線を合わせてきた。


「だって、いつも迷惑かけてるもん。もしかしたら、すっごくイライラさせちゃってるのかなって……」


 ああ、そういうことか。

 何て答えるべきか。

 ……いや、あまり深く考えない方がいい。


「迷惑? 俺が一番イライラするのは、魔法をうまく制御できずに倒れる時であって、君のことじゃない。あれは本当に苛立つ。俺から言えるのはそれだけだ、ヴァレリア」


 その言葉を待っていたかのように、ヴァレリアは微笑む。


「よかったあ。じゃあ……私は良い従姉妹だねっ! これからもずっと、そういられるように頑張るねっ!」


 その声のトーンは、いつもの溢れんばかりの元気なものとは少し違っていた。


「それじゃ、おやすみなさーいっ!……」


 欠伸をしながら目を閉じる。


「ああ、おやすみ、ヴァレリア」

「おやすみ、ダイくん……」


 毛布を掛け直し、眠りに身を委ねる。


 ---


 時が経ち、夏が終わる。


 ルビー先生の授業はまだ始まっていなかったが、アレクシオの要求は日に日に厳しさを増していた。


 剣の握りはより確固たるものになり、少しずつアレクシオのフェイントにもついていけるようになっている。しかし案の定、実戦で決定的な一撃を当てることはまだできない。


 ここ数ヶ月で、氷柱の魔法も完璧に習得し、魔法陣を描く速度も飛躍的に向上していた。


 ある時、それを実戦で試してみる。

 何もない空間に仮想の敵を見立て、高速で動き回りながら回避行動をとりつつ、チョークを取り出して極限の速度で円を描いた。

 手を近づけると、計算していたよりも高い氷柱が形成される。


(完璧だ。これこそ求めていたものだ)


 これを戦闘中や防御の盾として展開できれば、ただ剣で受けるよりも遥かに効率が良い。

 アレクシオから勝利をもぎ取るのも、もはや不可能ではない。それが、この数ヶ月で到達したレベルだった。

 勝つための、あるいは少なくとも決定打を与えるための戦術を模索していた。

 アレクシオのルールでは、勝利条件は腕に一太刀を浴びせることだ。


「ああああっ!」

「その調子だ、ダリアン!」


 内部魔力を使用する際、剣士が集中力を高めるために行う行動の一つが、叫ぶことだ。それは比喩でも儀式でもない。実際に身体能力を向上させる効果がある。

 単に大声を出せば勝てるという意味ではない。大声を上げずとも、揺るぎなく、真っ直ぐで力強い、静かなる叫びを放てる者が勝つのだ。


 必須のプロセスではないが、より精密な制御が求められる時や難易度が高い時には、声を上げることが助けになる。だがこれには欠点もある。敵に動きを読まれ、隙を突かれるリスクを伴うのだ。理想は、そんなものすら必要としないレベルに到達することだ。


「悪くないぞ、ダリアン……」


 剣は手首をかすめ、頬をかすめ、最後には数本の髪を切り落とすことに成功した。


「おや、少しずつ近づいているな。大きな進歩だ。才能があるぞ、ダリアン」

「お世辞はいらない。ついていくのがやっとだ。朝からずっと相手をしているんだから、疲れているはずだろ」

「いや、疲れてはいない。人がよく考えるのとは逆に、じっとしている方が絶えず動いているよりもずっと疲れるものなんだ」

「ふむ……理にかなっているな」

「やっと分かったか! さて、少し休憩にしないか? ああ、そういえば、君のお母様が温かいチョコレートを用意したと言っていた。冷める前に行くといい」


 その味を想像せずにはいられない……。


 ---


 キッチンのテーブルで、温かいチョコレートとファクトゥーラスと呼ばれるお菓子を味わっている。基本的には、柔らかくふんわりと焼き上げられた甘いパン生地で、中にクリームやジャムが詰まっていたり、表面が砂糖やグレーズで覆われていたりするものだ。


「美味しいかしら、私の天使? 今回はファクトゥーラスをできるだけ美味しくしようってすごく頑張ったんだけど、もう少しうまくできたんじゃないかって気もするのよね……」

「逆だよ。すごく美味しい。味は……焼きたての甘いパンの味がする。うん、まさにそれだ」


 危うく、懐かしい味がすると言いそうになった。


「ママ、ちょっと聞いてもいいか?」

「もちろんよ、私の可愛い赤ちゃん」

「俺は……良い息子なのかなって。ほら、本には、子供は素直でいつも笑っているものだって書いてある。俺は前者は満たしてるけど、後者は違う。それで嫌な気分になったりはしないのか?」


 母は長い間、考え込む。


「どうして嫌な気分になるの、坊や? それがあなたなんだもの。もしそれが嫌だなんて思ったら、私にはあなたの母親になる資格がないわ。あなたを否定するのは、女神様の御力を無視するようなもの。あなたは賢くて、信じられないほど素晴らしい子よ。生真面目な子だろうと、世界一陽気な子だろうと、あなたは私の息子で、一番の宝物であることに変わりはないの。そして私が生きている限り、全身全霊であなたを愛している母親がいるってことを知りながら、あなたは育っていくのよ」


 母の言葉に、完全に固まってしまう。


「ありがとう……ママ、答えてくれてありがとう」


 そもそも、ただお菓子を食べながら話していただけだ。なぜ突然そんな質問をしたのか、自分でも分からない。ただ、口から言葉がこぼれ出ただけだ。


「ふふ、さあ食べて、可愛い子」


 これを失いたくなかった。


 ---


 なぜかは分からないが、自分でお金を稼ぎ始めるべきだという決意を固めた。このままでは、常に小遣いに頼ることになる。プライドがそれを許さなかった。


 それに、いつか世界を旅したいと思った時、この世界の労働システムがどう機能しているのか、前世とどう違うのか、そして独立した時にどう立ち回ればいいのかを知っておく必要があった。


 静かに父の執務室に入り、机の向かいにある椅子に座って待つことにした。


「コービン、送った金属の件でレオフル家に連絡を取ってくれ。ああ、それから新しい水路の建設に協力してくれたことへの礼も伝えておいてくれ」


 父だった。


「カネリア、誰かに湯を用意させてくれ」


 そう言いながら執務室に入ってきた父は、本棚の本へと視線を移し、視界の隅にこちらの姿を捉えるまで、人が座っていることに気づかなかった。


「ダリアン? そんなふうに驚かせないでくれ。そこで何をしているんだ?」


 椅子に座り、ペンを手に取る。


「パパは今忙しいんだが、いたければそのまま座っていてもいいぞ」


 何も言わず、書類に素早く書き込んでいくのをただ見つめていた。


「ああ、この書類仕事の山ときたら……誤解しないでくれよ、書くのは好きだが、時々本当にこんなに量が必要なのかと疑問に思うんだ……。だが、売らなければならない商品の量なんかを確認すると、そんな考えはすぐに吹き飛んでしまう」


 その時、口を開く。


「パパ、俺に何か仕事をくれないか? 何でもいい。小さい頃から簡単な仕事を始めた子供は、大人になってから有能になるって本で読んだんだ。大人のようにフルタイムで働きたいなんて言わない。ただ、自分のお金を稼げるような、小さな仕事がしたい」


 ペンが紙の数ミリ手前でピタリと止まり、父はじっとこちらを見つめる。


「本気で言っているのか? 子供の気まぐれか、いとこたちに吹き込まれたことじゃないのか?」

「うん、パパ。本気だ。自分で決めたことだよ。やりたいんだ」

「ふむ……そういえば、お前にぴったりの仕事があるかもしれない。お前はたくさん本を読むから、きっとそれが役に立つはずだ」

「孤児院の子供たちに本を読んであげるのか?」

「え? それは間違いなく素晴らしいアイデアだが、そういう意味ではないんだ」


 引き出しに手を伸ばして一通の手紙を取り出すと、読み始める。


「エミリア・レオフル。十二歳。

 何が起きているのか正確には分からないが、何らかの呪いの被害に遭ったのではないかと疑っている。もし状態が良くならないなら、対呪い支援施設に送るしかなくなる。

 エミリアはいつも可愛らしく、優しくて、とてもおしゃべりな子だった。しかし、学院でのあの事件以来、部屋に引きこもって出てこようとしない。

 一日の大半を本を読んで過ごし、少し太ってしまった。あの施設に送る決断を下す前に、まだ彼女を救う方法があると信じたい。

 頼む、ヴァレリウス。もし彼女を助け、心を明るくする方法を知っているなら、我々は一生お前に感謝する。

 敬具、ネレアス・レオフル」


 差し出された手紙を受け取るが、何と言えばいいか分からない。

 本に囲まれて引きこもることが呪いだとでも思っているのか……?


 そんなものは呪いでも何でもない。


 つまり、あの保護施設は心理的な問題の治療を目的としたものではなく、呪いに対処するためのものだと考えているのか? まあ、この世界においては、ある程度の論理的な筋は通っているのだろう。それにしても、大げさすぎるとは思わずにはいられない。


「俺の倍の年齢の女の子の相手をしろって言うのか? 相手にされない可能性が高いぞ」

「なあ。お前は年の割に背も高いし、堂々としている。無視されるなんてことはないだろう。それに、レオフル家にはいつも助けられている。彼らへの恩返しとして、我が家の最も価値ある宝を送りたいんだ……つまり、お前のことだよ」


 父は微笑み、再び椅子に座り直す。

 六歳の息子の初仕事が本当にこれなのか?

 なぜか、そのことに妙な嬉しさを感じている。


「それで、どうするんだ?」


 仕事を探しに来たのはこちらだ。

 今ここで断れば、弱みを見せることになる。

 だが。

 そんな状況にいる相手と、どう接すればいいんだ? こういうことは昔から苦手だった。いつも誰かを救出するか、戦うことで問題を解決してきた。深く傷ついた誰かの心の支えになろうとしたことなんて、一度もない。


 極端に冷酷な人間だった。命を救って、それで終わり。トラウマに苦しむ生存者がその後どう感じるかなんて、気にしたこともなかった。


 数え切れないほどの事柄。救っては、離れる。命令を出す以外に言葉を交わすことはなかった。


【これは私たちのチャンスだ……】


 初めて、あの声の意見に同意する。


「分かった、パパ。その仕事、引き受けるよ」


 こうして、自分の理解を完全に超えた領域に踏み込む決意をした。しかし、胸の奥には否定できない感情がある……。


 共感だろうか?


 俺もエミリアと同じだ。自らの意志で、自分自身の深淵に引きこもっていた。

 もし彼女を救うことができたら、もしかすると……自分自身をも救うことができるかもしれない。


 何の保証もない。だが……やってみる価値はある。


 そして一つだけ確かなのは、試してみるべきだということだ。


 ずっと壊れていると思っていた自分の一部を、癒やすためにも。

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