表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

テンプレを許されなかった幼女の話

作者: 夜昊
掲載日:2026/03/19

 

 やったぁ! わたし、美幼女に転生してる! 家は裕福な貴族だし、これだけでもう勝ち組じゃん。


 前世なんか親どころかジジババもビンボーで、親戚にだって金持ちなんかいなかったし。

 わたしが住んでたのも、この部屋とは比べ物にならないくらいボロいアパートだった。

 2DKなのに、ジジィ゙が死んだらひとりだからって、ババァが同居するとか、三人だって狭かったのに頭おかしんじゃないのって感じだ。


『そうだ! あの日、ババァからわたしの部屋を取られたんだった』


 これからのことを家族で話し合おうなんて言ってたけど、結局はわたしにひとり立ちしろっていう、しょうもないことだった。

 お金を出すなら、もっと便利で広いとこに引っ越すって言ってんのに、逆ギレされて話になんなかったんだよね。

 そのうち死んじゃう年寄りよりも、親ならわたしにお金をかけるのは当然なのに、両親ともバカだからわかんなかったか。


『メンドーになって家を出て、そっから覚えてないや』


 終わったことはどうでもいいか。

 転生したら実家が太いとか、一生働かなくてもいいからサイコーだわ。


『ふふふっ。今度は親ガチャに失敗しなかったんだ』


 あとは、将来有望な彼氏がいたら完璧だわ。親が死んだら旦那に養ってもらわないとだし。

 財力があって、面倒な親とか余計な親戚がいない人が理想だけど。まあ心配しなくても、その時になったらたくさんいる候補者から、一番条件が合ってる人を選べばいいんだもんね。


 きっと学園に入る頃に、当て馬の悪役令嬢が妨害してくるはず。そいつを返り討ちにできれば、勝確かちかくだよね。

 そしたら一生お金にも困らないし、みんながうらやましがる夫が手に入るわけだ。

 ざまぁ回避にはチートがあればカンペキだから、ライバルが油断してる、いまのうちに鍛えなきゃ。ても、ライバルも転生者って可能性はゼロじゃないから、はやく能力に目覚めないと。

 ヒロインなら絶対に、聖魔法とかの珍しい魔法を持ってるよね。




「おとうさま! わたくしを、しんでんにつれていってくださいませ」


 夜遅く、ようやく帰ってきたお父様に、わたしを神殿に連れて行くよう話をする。

 わたしはまだ小さいから、こんな時間まで起きているのはキツいのに、父親はマトモに話を聞いてくれない。


『はやくしなきゃダメなのに!』


 聖女に認定されたら王宮に招かれて、王子様と婚約するに決まってる。

 そうなったら、何からつくったらいいかな。スマホは絶対に欲しいし、コンビニもないと困るよね。

 もっと遊べる場所も必要だし、マンガも読みたい。

 王妃ってバカみたいに大変らしいけど、優秀な部下さえ揃えときゃ、たぶん大丈夫でしょ。面倒ごとは、できる奴が片づけた方が速いのよ。

 わたしが王族になったら、命令するだけで望みがかなうんだ。


「ピェーナは儀式のことを、どこで覚えたのかな? 君はまだ小さいんだ。判定の儀を受けられるのは、もっとお姉さんになってからだよ」


 そんなのわかってるの! みんなと一緒じゃ遅いから、いまのうちに手を打つんじゃない。


「わたくし、もうおねえさんだもん。おとうさまがおどろくちからを、かみさまからもらえるはずだわ」


 モブでしかないお母様だって、水魔法を使えるんだから、わたしが使えないわけないでしょ。

 お母様の瞳が薄茶色じゃなければ、私の目も宝石みたいな青緑色だったのに! ホント使えない。

 お父様もあんな地味色じゃなくて、白銀の髪とかピンク色の瞳とか、特別な色の女と結婚してくれたらよかったのよ。


「お母様からは、なんて言われたんだい?」


「おかあさまは、ナッシュのおせわでいそがしいもの。なにもいってないわ」


 お母様に言ってどうなるのよ。寝てばっかりいる弟をながめて喜んでるんだから、わざわざ構うことないでしょ。

 弟だって、あんな灰色の髪じゃなくて、金髪で生まれたかったと思うわ。わたしはお母様に似ないで、お父様と一緒の明るい金髪だからまだマシだけど、ヒロインが地味な茶色の目とか、ガッカリでしかない。


「きょうはもう遅いから、週末まで待ちなさい」


 ちょっと、週末って四日も待たせる気なの?


「おしごとは、おやすみできないのですか?」


 ソファに座るお父様の真横に陣取って、上目遣いでおねだりすると、抱きあげられて膝に乗せられる。


「ああ。仕事はとても大切で、お父様には責任があるんだよ。責任というのは――」


 ちぇっ。そんなの、ちょっと休みをもらったらいいだけじゃない。一日中ってわけでもないのに、頭がかたいんだから。

 でも、わたしがなにを言ってもお父様の気持ちは変わらなかった。






「神官長殿、娘がどうしても判定の儀を受けたいと言うのでな。よろしく頼む」


 約束通り週末まで待たされて、やっと神殿に来ることができた。ここ数日、わたしは怒っているのだと口を利かなかったのに、一日だって早めてくれないケチな親なのだ。


 きょうまで特にやることもなくて、退屈だから遊びに行きたいっていったら、お母様は近くの公園にわたしを連れて行った。

 イヌの散歩じゃないんだから、あんなところの何が楽しいのかわからない。

 花を見てるのもすぐに飽きたから、おいしいスイーツが食べたかったのに、メイドは困ってるだけで店を探しもしなかった。


『すぐ連れてきてくれなかったから、何日もムダに過ごしたじゃない』


 お父様は頼りにならないから、弟をうまく手懐けて、わたしの言うことに逆らったりしないように教育しないとダメね。

 次期当主の席を譲ってあげるんだから、姉のために働くのは当然だわ。


「失礼ですが、お嬢様はお幾つでしょうか?」


 神殿の奥から出てきたのは、思っていたよりも若い神官だった。白いヒゲを伸ばして、杖を持ってるイメージだったけど、どう見たってトップの貫禄がない。この人、ちゃんと儀式ができるのかしらね。


「ふた月前に、三歳になったばかりだ」


「本来ならば、あと四年。最低でも二年はお待ち頂くのですが」


 はぁ? それはモブたちの話でしょ。主人公が、そんなルールなんかに従うわけないじゃん。


「わたくし、はやくしりたいの」


 なんで反対すんのよ。お金は払うんだから、別に何歳からだっていいじゃない。

 貧乏人には大変かもだけど、わたしの家は子爵家なのよ。払わずにバックレたりしないわよ!


「あまりに幼い場合、正しい結果が出ない可能性がありますが……」


「ゆめでかみさまが、わたくしにちからをくれるといったのよ。どうしてもきになるの。だから、ためしにおねがい」


 こんなに可愛い女の子が頼んでるんだがら、さっさと許可しなさいよ。


「わかりました。お父上はあちらの別室にてお待ちください。では、お嬢様。こちらの石版に両手をのせ、目を閉じてください」


「はい!」


 いよいよラノベみたいに、特別な子ヒロインが爆誕するのね。どんなチートがもらえるのか、ドキドキするわ。

 きっと、もの凄い魔力持ちって判定されるのよ。それを十四歳の入学まで鍛えれば、誰もわたしに逆らえないわ。ふふふっ。

 逆ハーには興味ないけど、一生豪遊できるような家を選ぶのに、楽しんじゃいけないってことはないものね。


 台座が高すぎて届かなかったので、椅子の座面に置かれた石板に近寄った。そこに、手のひらをピタリとつける。ひんやりとした硬質の感触は、ただの石でしかなく、特別な力があるようには思えない。

 しばらく待つと、全身が痺れたように動かないことに気づいた。


「――っん! ?」


 なにが起こったの? 声も出せないし、目も開かない。意味不明すぎて、めっちゃ怖いんだけど。


「まったく、このような幼子が判定に執着するなど、精神の乗っ取りがおこなわれたと、白状したも同然。このように怪しげな者を、放置するわけがなかろう」


 なにこの神官。話し方が、さっきと全然違うじゃない。貴族であるわたしをだますだなんて、お父様に言って処罰してもらうんだからね。


「くっ!」


 石板から手を外そうとしてるのに、貼りついたみたいに動かせない。もがこうとしたのに、足もピクリとも持ちあがらなかった。

 そうしていると、うなじに冷たい何かを差し込まれたような感覚がある。それは、ゆっくりと首のまわりを一周した。


「不審者には印をつけねば。これは三歳児の思考ではありえない。枷は、無理に外そうとすれば首を締め続ける。だが、神力でつけた印は目に見えず、鑑定魔術にも反応しない。これは神と高位の神官たちにしか、痕跡を辿ることは叶わないのだ」


 なに言ってるの? 神官たちは、王妃になるべきわたしの邪魔をするってこと? せっかく子どもの時に記憶が戻ったのに、特別な力が手に入らないんじゃ、意味がないじゃない。


 わたしは神官を睨みつける。お父様に言って、こんな魔法なんか、すぐに解かせるんだからね。


「娘よ。お前はその枷について、だれにも伝えることはできない。身の程を弁え、おとなしく子爵令嬢として生きるように」


「なんでよ!」


 あっ! 声が出る。役人を呼んで、こんな偽神官は捕まえてもらわなきゃ。


「世を乱さぬためだ。永く修行した神官のみが持つ、神からお借りした力だから、外そうとするだけ無駄だぞ。神はこの国が乱れることを望まない。さあ、父親とともに帰りなさい。そして子どもらしく生きることだ」


 貴族の首に、ペットみたいに首輪をつけるなんて、無礼だわ。いまに見てなさいよ。こんな枷なんか、すぐに外してやるんだから。そうなったら、一番最初に断罪されるのはアンタよ!


 すぐに神官に呼ばれて、部屋にお父様が戻ってきた。すぐにわたしを抱きあげて、目を合わせてくるけれど、偽神官が言ったとおり、黙ることしかできない。

 お父様には、儀式では何も起こらず、魔力はなんの徴候も見られないという、嘘の結果を伝えられた。

 娘が屈辱的な扱いを受けたというのに、間抜けなお父様は、偽神官の言葉を信じて苦笑している。

 わたしはなんどもこの神官が悪い奴だって言おうとしたのに、全然言葉にならなかった。


『クッソ腹立つ! ムカつく、ムカつく! なんなの、あのふざけた神官は』


 家に帰ったら、なにか気分が上がることをしないと。そうよ! 弟のあの青緑の瞳は、本当は私の物よね。どいつもこいつも、人の物を取りあげて許せないわ。アレは返してもらわないと。


「ふふふっ」


「なんだ、ピェーナのご機嫌はなおったのかな?」


 もう、無能なお父様には頼まないわ。二度と失敗しないように、次からは全部自分でやらないとね。

 わたしは、目的のものを取り返す方法を考えているあいだ、ずっとほほえみ続けていた。











 父親は丁寧に礼をして判定の儀の礼金を支払うと、不貞腐れた表情をしている娘を連れ帰った。

 儀式の間で行われたことは、口外できないまじないがかけられているので、疑問に思われることはない。あの父親は、娘が思った能力を授かることができず、口を利かないのだと思っているだろう。


 儀式の石板を台座に戻しながら、神官はウンザリしたように先ほどの娘のことを考えていた。


 忠告を素直に聞けば貴族として生きるだろうが、アレは理解しないだろうな。

 いくら解呪しようとしても、一定以上の魔力は枷から吸いあげられ、主神へと送られる。言動はすべて神へと筒抜けとなるものを。アレは理解していない。であるならば、あの娘はあと何年生きられるのか。


 ある者は、乳児で前世を思い出したと言い、五歳でここを訪れた際に精神魔術を仕掛けてきた。

 前世を思い出してから、毎日枯渇するまで魔力を使い、今日まで増やし続けたと言う。

 そう醜く顔を歪めて笑っていた子どもは、石版に両手をついた瞬間に魔力を吸い取られ、負荷に耐えられず命を落とした。


 同行していた親は、憑き物が落ちたように意識を取り戻すと、我が子の遺体を睨みつけ、その身ぐるみを剥ぎ取った。そして、その遺体を犯罪者の墓地に埋葬せよと命じると、金を置いて足早に去ったのだ。

 倒れた幼児は、親よりも豪奢な衣装を身にまとい、宝飾品にまみれていた。その肥えた体を見る限り、堕落した生活を続けていたのだろう。


 あの年頃の幼児が覚える魔術など、発動することの方がめずらしい。できたとしても、欲しいものを手元に寄せるような些細なものから、大人を軽く魅了する、本能と呼べるようなかわいいものだ。


 しかし、あの幼子は前世を思い出すと、自らが支配者であるかのように振る舞った。

 魔力が強くなり親を完全に従えたつもりでも、意識は残っていたらしい。

 我が子によって好き勝手にされた分、忌わしさが強まったのだろう。儀式の結果、その支配下から解放された親は、清々したといった風情で去っていった。

 きっと彼らの家では、他の家族たちも開放されただろう。


 神は石板に触れた魂を裁定し、即座に男児の息の根を止めた。親を含む家族や周囲の者への非道な振る舞いを不快とし、それ以上の存在を許さなかったのだ。


 芽を摘まれた魂は、使徒が回収して処理をする。もう二度と、この世界に生まれてこないように。

 家族を自分の踏み台としか考えていないあの娘は、一体いつまで生かされるのだろうか。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました


評価・リアクション・感想などいただけると励みになりますので、よろしくお願いします


誤字にお気づきの際は、お手数ですが報告していただければ助かります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ