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第四章:お箸と図鑑の、初めまして

「お、お邪魔します……」

健太は、重いリュックを玄関に置き、

おずおずと夢子の部屋を見渡した。

そこは、夢子の「こだわり」が詰まった

不思議なワンルームだった。

棚には、色とりどりの箸がずらり。

「あ、適当に座って! 今、着替えてくる

から。ちょっと待っててね!」

夢子はキッチンを通り抜け、奥のカーテ

ンへ消えた。


「……すごい。お箸のコレクション?

漆塗りに、竹、それに銀色のまで」

健太が感心して眺めていると、着替えを

終えた夢子が大きなTシャツ姿で現れた。

「お待たせ! それね、食べ物によって使い

分ける私のアベンジャーズだよ」

夢子は胸を張り、ポチャポチャした頬を

少し得意げに膨らませた。

「今日は特別。健太くんにも、私のエース

を貸してあげる。これを使って」

夢子が差し出したのは、滑り止めが完璧な

黒漆の箸。健太はそれを拝むように受け取

った。

「……これで、ポテチを? 指を汚さずに、

本当に食べられるんですか?」

「そう。ポテチの魂を、折らずに汚さず掴

むの! これこそが究極の美学なんだから」


二人はローテーブルを囲み、一袋のコンソ

メパンチを厳かに開封した。

二人は一枚ずつ、丁寧にポテチを口に運ぶ。

「……美味しい。お箸で食べると、なんだ

か味が濃く感じますね」

「でしょ? あ、そういえば健太くん。

さっき、すごく重そうな図鑑持ってたよね」

夢子はポチャポチャの指で、玄関に置いた

健太のリュックを指差した。

「あ、あれですか……。石とか、道端の

草花とか、僕が好きなものをまとめた……」

「見たい! 健太くんのこだわりも、

私、もっと知りたいな」


健太は少し照れながら、分厚い図鑑を開き

夢子にそっと見せた。

「このページ、僕が一番、大事にしている

押し花です」

「えっ、綺麗……。これ、健太くんが自分

で作ったの? 宝石みたいだね」

「はい。無駄な趣味だって、みんなには

笑われちゃうんですけど……」

「……全然、無駄じゃないよ! 健太くんの

こだわり、私はとっても素敵だと思う!」

夢子の真っ直ぐな言葉に、健太の頬が

ポッと赤く染まった。

「……ありがとうございます。

そう言ってもらえると、嬉しいな」


健太の控えめな笑顔に、夢子の胸が

トクンと、ポテチの音より大きく跳ねた。

『……この人となら、私の無駄なこだわり

も、笑わずに一緒に楽しんでくれるかな』

夢子は、空になったポテチの袋をギュッと

握りしめ、ポチャポチャした頬を赤らめた。

チラッと健太の横顔を盗み見てから、

勇気を振り絞るように言った。


「ねえ、今度は私の推しのお店に、

お箸を持って付き合ってほしいな」

「いいですよ。じゃあ、その帰りに、僕の

好きな植物のある山にも寄っていい?」

「……山!? 私、登れるかなあ。でも、

健太くんと一緒なら、楽しそう!」

夢子がポチャポチャの頬を緩めて笑うと、

健太も眼鏡の奥の目を細めて頷いた。


窓から差し込む夕日が、二人の手元の

お箸と図鑑を、優しくオレンジ色に染める。

「……無駄なこだわり、捨てなくて、

本当によかった……」

二人の笑い声が、小さなワンルームに

ふわっと広がり、ポテチの香りと溶け合う。


二人の「無駄なこだわりデート」の

約束が、ポテチの香りと共に成立した。

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