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第三章:中古車と、タルタルの聖域

「……あ、あの、夢子さん。スカート、

やっぱり汚れてるし、どこかで拭かないと」

健太が申し訳なさそうに、夢子のタルタル

まみれのフレアスカートをそっと指差した。

「あ……。そうだった。お箸に集中しすぎ

て、すっかり忘れてた。どうしよう……」

夢子は、自分の丸いお腹で隠れていた汚れ

を見て、ガックリと大きな肩を落とした。


「恥ずかしくて、このまま電車に乗れない

よ。家、そんなに遠くないんだけど……」

「じゃ、じゃあ、僕の車で送ります!

中古ですけど、一応、動くので……!」

健太は、最近取ったばかりの免許証を、

お守りのように握りしめて提案した。


「健太くん、車持ってるの? すごい!」

「あ、いえ。父のお下がりで……。あの、

安全運転には、自信……持ちたいです!」


二人は駐車場へ。そこには、少し年季の

入った小さなコンパクトカーがあった。

健太は震える手でキーを回した。エンジン

が低く唸り、中古のコンパクトカーが静か

に動き出す。

「夢子さん、シートベルト、苦しくないで

すか? 調整しましょうか……」

「だ、大丈夫! ちょっと、お腹に食い込ん

でるだけだから! 気にしないで、前見て」

慣れない運転にガチガチの健太と、お腹を

凹ませて耐える夢子。車内には、独特の緊

張感が漂った。


無事に夢子のマンションへ到着し、二人は

安堵のため息を同時についた。

「健太くん、送ってくれて本当にありがと

う! 助かったよ!」

「いえ…。あ、荷物、部屋まで運びます。

貸して下さい。僕が持ちます」

健太は自分の重いリュックに加え、夢子の

ピクニックセットを担ぎ上げたその瞬間、

「……う。重い。夢子さん、これ、一体何

が入ってるんですか……? ずっしりと」

予想外の重量に、健太の細い腕がプルプル

と限界を訴え始めた。


「あ、予備のお箸と、ポテチ3袋と……

あとは、お箸専用の『高級つや出し油』

それと…お箸の角度を測るための重厚な

真鍮の分度器。その分度器は年代物よ」

そう言ってニッコリした夢子に健太が言う。

「……夢子さん、こだわりが、物理的に

ものすごく重いです! 腕が……!」

二人はフラフラ、ドタドタと、夢子のワン

ルームの玄関へ辿り着いた。


無事に着替えた夢子は扉の向こうの健太を

勇気を出して呼び止めた。

「あの!お礼にポテチ食べていかない?

もちろん、最高のお箸で!」

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