第二章:お箸は剣より強し?
「ちょ、ちょっと! お前ら! ハトが嫌が
ってるだろ……っ! や、やめなよ……!」
健太の声は、生まれたての小鹿みたいに震
えていた。中学生はニヤニヤと笑いながら
健太の細い肩をグイッと乱暴に小突いた。
「なんだよ眼鏡。図鑑なんて重そうなもん
持ち歩いてさ。根暗は黙って本を読めよ」
健太の眼鏡が、衝撃で地面にポロッと落ち
た。「あ……あわわ……」視界を失い、お
ろおろと膝をつく健太に中学生が迫る。
その時。地面を揺らすような力強い足音が
公園の静寂を破ってドタドタと響いた。
「……健太くんに、乱暴はやめてよっっ!
これ以上近づいたら、承知しないから!」
真っ赤な顔で割り込んできたのは、ポチャ
ポチャの頬を膨らませた怒れる夢子だ。
「なんだよ、ポチャデ……」中学生が言い
かけた言葉は、夢子の気迫に阻まれた。
夢子が握りしめた「桜の my 箸」が、中学
生の鼻先数ミリのところでピタリと止まる。
「……私のお箸の精度を、甘く見ないで!
ポテチの破片さえ完璧に掴むんだから」
夢子の瞳には、獲物を狙う鷹のような鋭い
集中力が宿っていた。箸先が微細に震える。
「このリーチ内に入ったら、鼻の穴を容赦
なく摘むから! 覚悟はいいわね!?」
真剣すぎる夢子の眼差しと、今にも鼻を箸
でキャッチされそうな恐怖に中学生が怯む。
「ひ、ひえぇぇ! 警察に言われるより、な
んか生理的に怖いって! 逃げろ、早く!」
予想外の「お箸攻撃」に、中学生たちは顔
を引きつらせて一目散に逃げ出していった。
夢子は、ハァハァと肩で息をしながら箸を
引いた。緊張が解けて、膝がガクガクする。
「……健太くん、大丈夫?」夢子は屈み込
み、落ちていた眼鏡を拾って彼に手渡した。
「……夢子さん。すごい。お箸って、あん
な使い方ができる武器だったんですね」
健太は眼鏡をかけ直し、自分を救った「桜
の箸」を、まるで聖剣のように見つめた。
「あ……。ご、ごめん。つい、勢いで……
無駄なこだわりなのに、振り回しちゃった」
夢子は急に恥ずかしくなり、俯いた。でも
健太は、照れくさそうに優しく笑った。
「いえ、かっこよかったです。お箸のこだ
わり……無駄じゃなかったですね、絶対」
健太が照れ臭そうに笑うと、空腹の夢子の
お腹が「グ~~~」と派手に鳴り響いた。




