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8話 にいちゃんの片道切符
第8話 にいちゃんの片道切符
にいちゃんは、コミケというものが大好きだった。
コミケへの熱い想いを、いつも語っていた。
にいちゃんは早口で、
「次の作品は――」
と止まらない。
どうやら、にいちゃんの仲間たちと毎年作品を出していたらしい。
ある日、にいちゃんが言った。
「いっちゃん、見せたいものがあるから、見に来てよ。」
漫画かな?と思った。
でも、差し出されたのは、一枚の切符だった。
「東京にはね、恋ヶ窪っていう駅があるんだよ。
これ、ロマンチックだと思わないかい?」
私は、その駅の名前をじっと見つめた。
今が聞くチャンスだ。
「にいちゃん、彼女はいつできるの?」
一瞬、空気が止まった。
バツが悪かったのだろう。
にいちゃんは、すぐに話を逸らしてしまった。
あ、また逃げられた。
偉人の話や歴史の話は、歩くスピーカーみたいに語るのに、
恋の話だけは、頑なにしてくれなかった。
でも。
恋をしていない人は、
恋ヶ窪なんて駅名を、そんな顔で語らない。
きっと、あの時、想い人はいたのだろう。
私は、そんなことを考えていた。




