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ムサビとベムスターが好きだった叔父の物語  作者: 巳ノ星 壱果


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6話 歩く参考書

第六話 歩く参考書


にいちゃんは、よく友人から「本の虫」と言われるらしかった。


でも私から見ると、

歩く参考書みたいな人だった。



歴史上の人物について聞けば、




「あの人はね、どこで生まれて、何をして、最期は――」


と、止まらない。


気がつくと、何分もずっと喋っている。



にいちゃんが賢いのは、子どもの私でも分かっていた。

でも情報量が多すぎて、まるでスピーカーみたいで、逆に頭に入ってこない。


たぶん、三分の一も理解できていなかったと思う。


それでも、にいちゃんは楽しそうだったから、

私は「ふむふむ」と頷きながら聞いていた。




ある日、ちょっとした事件が起きた。


次郎おじさんとにいちゃんは仲が良かった。

次郎おじさんは、にいちゃんの従兄弟だった。


家族旅行には、にいちゃんと次郎おじさんが、よく一緒に来ていた。


次郎おじさんは、不思議な人だった。

いつも笑顔で、優しくて、怒ったところなんて見たことがない。




その日、なぜか「こけし」の話になった。


すると、にいちゃんがいつもの調子で語り出す。


「一説によると、こけしって“子を消す”って意味があるらしいんだよ。

うん、本当だったら怖いよね。」


その瞬間。






「それ以上、喋るなー!」





次郎おじさんの怒鳴り声が飛んだ。


私は思わず、びくっとした。

あんな顔、初めて見た。


でも、にいちゃんは、まったく気にしなかった。


「でもさ、他にも説があって――」


そう言って、まだ喋り続ける。


次郎おじさんは本気で怒っているのに、

にいちゃんは、いつも通りマイペースだった。


不思議だった。


あんなに怒鳴られているのに、

それでも二人は、やっぱり仲が良かった。


私はその時、次郎おじさんの裏側を、少しだけ見てしまった気がして、ほんの少し怖かった。


それでも

人の顔色を気にせず、我が道を行くにいちゃんが、少しだけ羨ましかった。


挿絵(By みてみん)

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