21話 私の人生より優先したもの
第21話 私の人生より優先したもの
うちの両親は、相変わらず自由だった。
「壱果、いつ引っ越してくるの?」
それが、いつもの口癖だった。
父の仕事の都合で引っ越して、
「五年で帰ってくるからね」と言っていたのに、
気がつけば新しい家を建てていた。
地元には祖父母の墓があり、
実家も人に貸している。
そんな大事なことを、
まさか事後報告で聞くことになるなんて思わなかった。
「いつかね」
私はそんな言葉で、
何年ものあいだごまかし続けていた。
けれど、にいちゃんが大腸がんになってから、
私はひとつの決意をした。
にいちゃんのすぐ近くに行ける場所に、
自分も住むこと。
「にいちゃんは、もう長くないのかもしれない」
そんなことを考えてしまった。
両親からの連絡よりも、
私の人生の中で最優先だったのは、
いつだってにいちゃんだった。
今の私にできる、
いちばんの準備はそれだと思った。
私は少しずつ準備を始めた。
仕事を辞めて、単発バイトに切り替えた。
そして、友人が経営するラーメン屋に頼み込み、
アルバイトもさせてもらうことにした。
月に一回、時には二回。
四百キロの道のりを越えて、会いに行く。
今になって気づいた。
私の仕事の肩書きよりも、
両親からの打診よりも、
私の人生そのものよりも。
私がいちばん大切にしていたのは、
にいちゃんだったんだ。
にいちゃんがLINEで送ってくれたイラストがある。
「ころなとばし屋」と書かれた、不思議なキャラクターだった。
当時は深く考えていなかったけれど、今なら少しわかる気がする。
きっと、にいちゃんを苦しめたものだから。
だからこそ、コロナをやっつける存在を描いたんじゃないかと、私は思っている。
にいちゃんが筆ペンで描いてくれたそのイラストは、今でも私の宝物だ。




