16話 にいちゃんのプロポーズ
第16話 にいちゃんのプロポーズ
数週間入院し、その後は通院していると聞いた。
薬の効果なのか、LINEにおかしな文章が届くことはなくなった。
にいちゃんは、また恋の話をし始めた。
当時、還暦だっただろうか。
余命宣告を受けてから、
にいちゃんと私の距離は、前よりもずっと近くなった。
「死ぬ前に、一度は結婚したかったなー」
ふいに、そんなことを言った。
「にいちゃん、本当に彼女いなかったの?」
そう聞くと、珍しく答えてくれた。
「いやー、兄ちゃんはね、二回プロポーズしたことがあるんだ。」
え?
まさかのプロポーズ話?
「それで?どうやってプロポーズしたの?」
私は思わず身を乗り出した。
「普通だよ。『僕と結婚してくれないか』って言うんだ。」
「夜景の見えるレストランとか?どんなシチュエーションだったの?」
すると、にいちゃんはさらりと言った。
「一回目は電車の中で、二回目は病院でプロポーズしたんだよ。」
私は固まった。
「電車は…学生なら嬉しいかもしれないね。
病院は…どちらが患者かによって変わってきちゃうね」
そう言うと、にいちゃんは笑った。
「壱果も大人になったね。姪から教わることもあるんだね。」
そして、すっと話題は変えられてしまった。
きっと、余命宣告を受けてからのプロポーズだったのだろう。
間違いなく、そうだったのだと思う。
でも、怖くて聞けなかった。
聞いてはいけない気がした。
その夜、私はにいちゃんの病気を忘れるくらい、笑ってしまった。
にいちゃんは、やっぱり自由な少年だった。




