15話 あの日のサイレン
15話 あの日のサイレン
母から、あとになって詳しい事情を聞いた。
母と兄がにいちゃんを迎えに行ったとき、
家の近くのコンビニにはパトカーが何台も止まっていたらしい。
野次馬の中に顔を出すと、
にいちゃんが取り押さえられていたという。
暴れるにいちゃんを見て、母は警察官に言った。
「私の兄です」
その一言で、警察官も少し安堵したそうだ。
にいちゃんは痩せ型で、昔から太らない体質だった。
けれど、そのときの力は凄まじく、
二人がかりで、ようやく車に押し込めたと聞いた。
総合病院の待合室の床で、
まるでお菓子を買ってもらえず泣き叫ぶ幼い子どものように、
暴れていたとも。
私は、その話を聞いても、
にいちゃんを嫌いにはなれなかった。
私は、にいちゃんを愛していたから。
後日、告げられた病名は
統合失調症と、大腸がんステージ4だった。
何かの聞き間違いなんじゃないかとおもった。
統合失調症なんて、どうでもよかった。
私の頭に浮かんだのは、ただ一つ。
「祖父も祖母も癌。
にいちゃんまで、私から離れていくの?」
それしか、言葉が見つからなかった。
コロナ禍が、にいちゃんを苦しめた。
そして癌もにいちゃんを苦しめた。
もっと早くきづいてあげればよかった。
ただ、その後悔だけを、
何度も何度も、繰り返し考えた。




