10話 にいちゃんお通夜で暴走する
第10話 にいちゃん、お通夜で暴走する
祖母の喪主を務めたのは、にいちゃんだった。
祖母は、とても愛された人だった。
故郷を離れ、こちらへ来てまだ数年だったのに、たくさんの友人が参列してくれた。
私の友人も二人、参列してくれた。
それは、ただただ感謝しかなかった。
きっと、それだけ祖母の人柄があたたかかったのだと思う。
思い出の写真がスクリーンに流れたあと、友人は静かに涙を流してくれた。
喪主であるにいちゃんが、ゆっくりと前に立つ。
「いやー、祖母のためにーー、本日は、お集まりいただきましてーー、ありがとうございます。」
どこか間延びした話し方に、
場の空気がほんの少しだけやわらいだ。
厳かなはずのお通夜なのに、
あちこちから小さな笑いがこぼれる。
にいちゃんの挨拶は、
真面目なのに、少しだけズレていて、
でもそのズレが、不思議と場を和ませた。
祖母もきっと、怒らないだろう。
祖母は、本当にみんなに優しい人だった。
にいちゃんが祖母の通夜を少し笑いに変えてくれたから、私もその日は、なぜか気持ちが落ち着いていた。
そのぐらい、わたしにとってのにいちゃんの存在は大きかった。
でも、事件はここからだった。
親戚が遥々集まる中、まさかのにいちゃんが暴走してしまう。
今まで恋の話すらしなかったにいちゃんが、
祖母の通夜の親戚の集まりで、流暢に下ネタを話し始めたのだ。
「いやーー母さんがいたから、今まで言えなかったんだよー。」
にいちゃんにとっての母は、私にとっての祖母だ。
辛さを隠したくて、場を和ませたかったのかもしれない。
でも私は、心の中で思った。
「なぜこのタイミングで下ネタ……。他にネタはなかったのだろうか。しかも身内の下ネタ程聞きたいものはない」
そして、にいちゃんの下ネタは面白くなかった。
そう、狙ってしまうと面白くないのが、にいちゃんなのだ。
私はただ、唖然とするしかなかった。
私の心の中はあの有名なムンクの叫びのような思いだった。
それでも、
どんより暗くなりがちな通夜の空気を変えようと努力をする。
それはにいちゃんの母への愛に対する悲しさを隠すためのものだったのかもしれない。
それが、きっとにいちゃんの良さだったとわたしは思った




