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乙女ゲームの正規ルートから外れて、君と青春することにした。  作者: 枢木 ヒナコ


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2/2

ep.2 隣の秀才と小さな歪み


・この話は転生ものです


•多少恋愛描写があります


•現世の描写と転生描写が交互に出ます


・いじめや家庭内暴力など心が重くなる描写が出てきます、辛くなったらこの場から離れてください





翌日、教室は新入生の期待と緊張でざわめいていた。



「さて、1年生諸君。今日は午前に魔力測定、午後に学力測定を行なう。今の自分の実力を知る大事な機会だ、真面目に取り組むように。」


教師の声に、緊張の空気が教室を包む。



ミレイは装置の前で手をかざす順序さえ分からず、少し戸惑っていた。


――現世では、そもそも魔法なんてない。

魔力を測る経験なんて勿論ない。



「……えっと、どうすれば…?」

私は小声でつぶやく。



隣のカイルが静かに顔を向ける。


「…まず、手のひらを軽く開いて。

その水晶に向けて魔力を意識して流すんだ。

力で押し込むんじゃなくて流れを手のひらで導く感じ。」


「流れを導く…?」


「うん。まずゆっくり深呼吸して、自分の中の魔力を感じる。

それから手のひらを装置の前にかざす。

魔力は光の粒子として現れるはずだ」



教師が声を上げる。



「流石と言った所かな…では、まずカイルからお手本を見せてもらおう」


教師の言葉に少し眉を顰めながらもカイルはゆっくりと手順を示す。

手のひらから魔力が流れ、粒子が空中で淡く光った瞬間、教室中の視線が一斉に集まった。



「……すごい!魔力量が1万以上あるぞ!」

「学年トップクラスの魔力だ!」

「1年生で1万超えなんてルシアン様以来じゃないか?」

教師たちも目を丸くし、生徒たちのざわめきが広がる。



カイル本人は淡々としており特に嬉しそうな様子もなく、細く灰がかった金髪の間から覗く眉間には薄く皺が寄っていた。


しかしその正確で無駄のない動きには、誰もが見とれてしまう。


「ゆっくりでいい、ミレイもやってごらん?」


カイルが優しく私を見つめて微笑む。


カイルの瞳は、少し不思議な色をしていた。

光の加減で、青にも灰にも見えるのに、

ふとした瞬間、紫がかった深い色が覗く。


——綺麗だけど、どこか冷たい。


背筋がゾクリと粟立つ感覚

私は得体の知れない感覚に苦笑しながら

1歩歩み出た。






次に私が挑戦する。

カイルの手順を真似し、深呼吸をして手をかざす。

押し込むのではなく、流れを導く…

手のひらから光の粒子が少し舞った。


装置の数値が表示されると、教師たちのざわめきが再び広がった。


「ちょっと待て!魔力量は中の上なのに……光属性を持っているぞ!!」


「光属性!? 2000年に1人しか生まれないはずの……!」


「他の先生達を呼んでくれ!」



私は思わず息を呑んだ。



――魔力量は中の上?

本来のゲームのミレイなら、もっと高く表示されるはず……なのに。

何なら学年トップになるはずだった。

光属性は確かにある、先生達が大慌てするシーンもあった。

でも、少しパズルのピースが浮いて嵌らないような違和感がある。


本来のミレイに異分子である私が交ざってしまったからなのかもしれない。



周りの生徒たちも、目を丸くしてこちらを見ている。

「わあ……光の力なんて……」

「子供の頃に読んだ絵本に出てくる聖女様と同じだ!」


ざわめきが教室中に広がる中、私は少し顔が熱くなるのを感じた。


こんなに他人から注目されたのは初めての経験だった。


足早に元居た場所に戻れば、カイルは穏やかに微笑む。


「属性持ちなんて滅多に居ない。これからミレイは注目の的になるだろうね。」


「やめてよ、私はそんなに目立たなくていいの!カイルこそ注目の的になるじゃない!」



「…そうかもね。午後の学力測定も頑張ろうな。」



皮肉めいた笑みを浮かべたカイルの瞳がまた冷たく深い色を宿す。

私はカイルの触れられたくない部分に触れてしまったのだと一瞬で理解した。






午後には学力測定が行われた。



計算や語学は現世で培った力で高得点を出す。

現世の義務教育レベルの問題だった。

元々は乙女ゲームの世界だ

購入対象も学生さん達も入ってるだろうし、そんなに難しい事は出てこないはずだと思った。

歴史も、ゲームでの知識を活かして比較的高得点。


ただし魔法関連の問題は理解できず、他の科目に比べたら目も当てられない点数に留まった。


ミレイは小さく息を吐き、少し肩を落とす。

――魔力は中の上だし、学力も上の下……

本来のゲームのミレイでは何もしなくても学年トップクラスだったのに……

やっぱり転生してきた私がノイズになっている?



色々と考え込んでいるとその様子を見ていたクラリスが、にこりと笑みを浮かべながら近づいてきた。


「ふーん……光の魔力を持っていると騒がれてたのに、ちょっと期待外れね。学力も魔力も中途半端。

所詮は平民育ちね、基礎的な教育も受けてらっしゃらないのかしら?」



クラリスの取り巻きの女子達からクスクスと笑い声が漏れる。



確かにこのゲームにおいて魔力量は家柄に比例する設定もあった。

本来のミレイは平民育ちなのに魔力量が多く、光属性を持っていると言う設定。

そこから色んな事に巻き込まれたり、解決したり、恋に落ちたりするはずだった。


確かに今のミレイは学力も魔力も中途半端。

本来の設定から外れている部分が多々あるのも事実。



クラリスの言葉に考え込んで黙っていると

カイルは眉をひそめ、すぐに割って入る。



「……家柄なんて関係ないだろ。

誰でも等しく学べるのがこのルミエール学園だ。

ミレイに対しての物言いは少し礼節に欠けていると思うぞ。」



クラリスは少し驚きながらもニコリと笑みをたたえた。

「…失礼いたしましたわ。

学園も言うなれば社交の場、そして社交界ではいろんな噂で溢れますの。

例えば優秀な魔導師や魔法騎士を排出したお家や王族から信頼を得ている方やそのご家族についてとか…?」



「…何が言いたい?」



「貴方もミレイ様も素晴らしい力をお持ちですわ。

きっと今後は噂の的になるでしょうね。

でもね、平民なら平民らしく身の振り方をしっかりとお考えになられた方がよろしいかと。特に出自がよろしくないなら尚更ね。」



「ご忠告どうもありがとう、クラリス嬢」



再度ニッコリと笑みを浮かべ「ごきげんよう」と去っていくクラリスの後ろ姿にミレイは心の中で、小さくつぶやいた。


――ただ魔力や学力だけの世界じゃない、色んな事情があるんだ……



ふと、カイルの瞳と私の瞳がぶつかる。


「ミレイ、何も気にする事はないよ」


少し困ったように笑うカイルの瞳は先程と違い、

青く光を宿し揺れていた。



廊下の先ではクラリスがチラリと二人を見つめ、冷たい目を向けていた。

「こんなの許されるはずないじゃない。」

クラリスの呟きは誰の耳にも届くことはない。




教室の窓から差し込む午後の光の中で

ミレイはふと、隣にいるカイルの背中に小さな安心感を覚えた。



――カイルの事をもっと知りたい、カイルとならきっと少しずつ学校生活を楽しめそうだ、と。



こうして、友情の芽生えとともに

この小さな波紋が学園内、国内、そして世界へと広がっていくのをミレイはまだ知らない。









読んで頂きありがとうございました。

次の更新をお待ちください。

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