中目黒チルドレン編
時は戦国。
戦国と言ったって鎧武者が跋扈しているわけじゃない。釘バットを持った自警団が不良外国人をぶちのめしているってだけだ。
アカの防波堤として立派に機能していた輝きは失われつつある。
そいつはアイデンティティの戦争だ。
日が沈む聖地を守護るために、俺たちは夜明けにならなきゃいけない。
胡乱な公団住宅が消えようと、駄菓子屋がコンビニになろうと、俺たちには守護らなきゃならない世界がある。
だからババアは俺に鍵を託したのだ。
「そう言う事だったのか」
警報器が鳴り響く中、俺は三菱零式艦上戦闘機のエンジン音を聞きながら笑った。
それは凄まじい振動と音だった。
いつも乗っているバイクなんて比べ物にならない。
ペダルを踏む。
三菱零式艦上戦闘機はゆっくりと動き出す。
動き出した三菱零式艦上戦闘機はガラス戸を突き破ると、靖国神社の参道を駆け抜けて一気に九段下の空へと走り出した。
幾千もの星が間近に見える。
「ババア、アンタの言う事が……心で理解できたぜ!」
戦闘機の動かし方だってそうさ。
ペダルから、操縦桿から、その全てから理解できる。心があれば良い。
飛び立った三菱零式艦上戦闘機は、やがて空中で超長距離爆撃機富嶽へと進化した。
俺は泣いた。
「ババア、俺はこれで世界を焼きます」
俺は富嶽で空を駆ける。
カリフォルニアやテキサスに原子爆弾を落として行く。
冷蔵庫にでも入って耐えてくれたら良いさ。
もしくはみんな死に絶えた街で生き残った1人が最初に出すロックな言葉をメモしといてくれ。
プルトニウムの風に乗って富嶽は遠くへ!
俺は俺をチノと呼んだ奴らを殺すしか無いんだ。
チンチャンチョンチンチャンチョン、ただいま富嶽のテスト中。
駄菓子屋のババアはアルツハイマーになって施設にいるらしい。
無線で聴こえたよ。
俺は富嶽を向けて施設を爆撃する。
ババアは死ねただろうか。
ババアの誇りは守れただろうか。
遠く雲平線に沈む太陽!
ババアがなぜ俺だけに鍵を託したのかは分からなかった。
でもいま、理解した。
鍵を託されたのは俺ひとりじゃない。
空は富嶽で埋め尽くされている。
こいつは戦争じゃねぇ。神話だ。
この空を埋め尽くす一億の富嶽はババアの富嶽で、俺たちはあの駄菓子屋で育ったショーワ中目黒チルドレンと言う事だ。
俺たちは空を駆ける。
あの陰鬱な町、中目黒を焼き尽くそう。
俺たちは滑り台やブランコを躱す様に富嶽を飛ばし、砂場に墜ちない様にして飛びながら西洋史観や中共とかと闘った。
西暦を終わりにしよう。
俺たちは地球を何周もしながら繰り返し爆弾を落とし続けた。
天使たちは歌わない。
雲平線の向こうに太陽が沈み、雲平線の向こうから太陽が昇る。
天使たちは歌わない。
折り返しは無く、俺たちはまた一機、また一機と眠る様に堕ちていく富嶽を眺めながら世界を焼き続けた。
やがて全ての富嶽が眠り、俺ひとりがこの空を飛んでいる。
俺は雲の下に降りて世界を眺める。
「あぁ、こんな、まさか」
地球は全て中目黒になっていた。
さらば、俺。
さらば、中目黒!もう二度と生まれてくる事の無いように!!




