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カタパルト編

 夢を見ていた。

 駄菓子屋のババアは俺を呼ぶと、いつもの上品な顔ではなく、険しい表情をして「これを持っていきな」と銀色の鍵を渡してきた。

「これは?」

 俺は小さな鈴のついた鍵を見て訊いた。

「その時がくれば分かるさ」

 そう答えた瞬間にババアの顔は元通り。

 いつもの様な愛想の良い顔で笑った。




 夢に出てきたババアは知っている。 

 中目黒の八幡公園前にある古い駄菓子屋のババアで、マンガに出てくる様なイヤな奴では無く、上品で感じの良いババアだった。

 中目黒と言っても、今のようにオシャレな街になる前の中目黒だ。

 ババアの店は道を挟んで向かいにボロボロの公団住宅が建っていたから、貧乏な悪ガキもいただろうに、駄菓子屋のババアは愛想よく対応してくれた。


 その公団住宅はそのままホラー映画に出てきそうな具合で、その陰気さは新宿百人町にある例の団地に良く似ていた。

 当時の中目黒にあるその公団住宅は、百人町の団地より暗い鬱々とした陰気な印象で、子ども心に怖い印象を持っていたのを覚えている。



 そんな仄暗い公団住宅のそばで、ババアは持ち前の笑顔をくり出して商売をしていた。

 ババアの笑顔は強力で、その公団住宅から伸びる陰々滅々とした影を弾き返しているようだった。

 いま考えると、地主か何かで暇つぶしの駄菓子屋だったのかも知れない。

 俺はその駄菓子屋に行くと、りんご型の容器に入ったゼリーだとか、牛乳の缶を模した容器に入った粉の菓子などを細々と買っていた。


 


 ある時、その店にオモチャが置かれているのに気づいた。

 オモチャと言っても銀玉鉄砲などではなく、戦闘機が描かれた薄い紙袋には「ソフトグライダー」と書かれていた。

 力強いタッチで描かれた戦闘機に心が踊った。


 少し高いそのソフトグライダーが、俺はどうしても欲しくなった。



 3日分ほどのお菓子代に匹敵するソフトグライダーはとても高級品で、ますますその戦闘機が格好良いものに思われた。

 俺は買うのを躊躇していたが、店のババアは何を思ったのかニコニコと上品に笑って愛想良くしたまま頷いて「持っていきな」と言った。 

 俺は興奮してりんご型ゼリーのお釣りも受け取らぬまま隣の公園に走った。



 そして公園で紙袋を開けると、中には薄い発泡スチロールの型抜きの様なものが入っているのが見えた。

 俺はそれらを型枠から取り外して胴体に羽根を差し込んで組み立てると、付属のプロペラを先端に付けて完成させた。

 それは俺だけの戦闘機だった。

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