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第六話 番犬ケルべラス

後日ーー、


 あの後俺は、さらに色んなことを執事に聞いて、なんかすっかり友達みたいになった。

 これを踏まえて俺が言えることはひとつ――アイツイイ奴だわ!


 前世で散々痛い思いしてきた俺は、人を見る目だけはあった。

 それは当然、魔族でも通用するはずだ。

 

 でもよー、なんかおかしくね?


「お褒めに預かり光栄です。あの後ぼっちゃんに頼まれて専属の執事になってからというもの、やはり〈ワンちゃん〉のお世話は引き続き行わなければならないようなので」


 ワンちゃん?

 いやこれが?

 おかしくない?


「別におかしくないです、極力私も近づきたくないので〈ワンちゃん〉の世話から逃れられるならと二つ返事でぼっちゃんのお世話を承諾したのですが――ちっ」


 あ、ちって言った。

 今舌打ちしたよね絶対?

「はい! しました」

 清々しいな!

 認めるんだそこは!


 現在俺は、執事に抱えられて、魔王城の――〈地下〉に来ていた。

 そして進行形で、円状に渦巻いた地下へと続く「階段」を、グルグルと降りていた。


 が、〈下〉に行くにつれて、なんかこの世の物とは思えない、なんかスッゴイ恐怖を感じていた。

 それはこの音を聴けば、なんかもう……



ヴゥ”ゥ”ゥ”ゥ”ゥ”ゥ”ゥ”ゥ”ゥ”ーーヴァ”ンヴァ”ン!!!!


(ヒェッ!!)

 

 な、なんだよ! この声!

「ワンちゃんの声です!」

 いやさっきからワンちゃんワンちゃん言ってるが、この声の何処をどうすればそう聞こえるんだ!!

 だって、わんわんっ! とかじゃなくて、もうヴァ”ンヴァ”ン!!!!なのよ!!

 超コェエよ!この世のものとは思えない音してるよ!!

「ちゃんとワンワーンと、おたけびを上げているじゃないですか、見苦しく」

 いやヴァ”ヲ”ンヴァ”ヲ”ンだよ!!

 み、見苦しく……?


 あーもうこえ~~~~よ!

 ほんと意味わかんね~~~よ!

 行きたくね~~よ! 引き返そうよ~~~!


「でも分かりますその気持ち、私も最初はそうでした、まぁ今も変わりませんが」

 

 いやどっちなんだい!


 タタッタタッ、という音が一つ、また一つと進んで行き、

――ようやくついた。



ヴゥ”ゥ”ーーヴァ”ンヴァ”ン!!!!ヴァ”ンヴァ”ン!!!!ガッシャン!!!!ゴロゴロ!!!!ザザンザザン!!!!ダンデンドンヴゥ”ゥ”ゥ”ゥ”ゥ”ゥ”ゥ”ゥ”ゥ”グルグルーーーーー



 もう一度聞くが、

 ほ、ほんとに、犬なんだよな?


「はい! この城の番犬――ケルべラス、魔王様のペットです」


ヴァ”ンヴァ”ン!!!!ヴァ”ンヴァ”ン!!!!ガッシャン!!!!ゴロゴロ!!!!ザザンザザン!!!!ダンデンドンヴゥ”ン!!!!ヴァ”ンヴァ”ン!!!!ガッシャン!!!!ゴロゴロ!!


 恐らく、いや俺もこの名前を聞いたときは――「ケルベロス」なのかな? と淡い幻想を抱いて、なんとなくイメージしていた時期が僕にもありました……って感じで、ちょっと語彙力を失うくらいにはヤバいかも。


 確かに3つ頭があるという予想は当たっていた、が、これがまたキモチ悪過ぎて言葉にしがたい。

 執事は身長180以上は絶対あると思うのだが、その執事を4つ縦に並べても《《余るくらい》》の、顔面のデカさ、これが3つ達磨みたいに縦に積み重なってる。


 胴体は楔かなんかで縛られてて、何より奥が薄暗くて見えないのだが、顔を前にして、体は後ろの方にあるらしい。

 マジで目を合わせらんねぇ……。


「解説助かります、そうですね、少々付け足すならば、コイツは死ねないんですよ――」

 死ねない?

「はい、魔王様が何度殺しても死ななかったんです」

 へ?

「正確には、ぶった切った面から――カラダが再生されるんですね、しかも、これがまたグロテスクなことに、ぶった切った断面をカラダの近くにおいておくと、それがくっついちゃうんですよーはは」

 ぶった切った言ってるの置いといて、すまん全然理解できてないわ。

「そうですね、例えば、今檻の前で顔が縦に3つ重なっているでしょう? これ――実は、魔王様がご丁寧に、私たちがお世話しやすいようにくっつけたんですよー、《《縦に並べて》》」

(………、)

「なので本来、一番上の顔がある位置から首がつながっていたので、今じゃ〈へ〉の字になってるって訳ですね!」


 への字、


 顔へ(首)

 顔 へ(体)

 顔   へ(体)

 

 って、なってるワケか……。


「はいその通り! よくできました!」


 俺は思わず吐きそうになった。

 なんちゅうもん見せてんだ。


「仕方ないです。いずれぼっちゃんもお世話することになるでしょうし……」


 ケルべラスが吠えるたんび、俺たちが吹っ飛びそうになるくらいの風圧を巻き起こしてくる。

 鉄格子てつごうしか分かんないが、その太いゴッツイ黒い――《棒》みたいなのが何本も地面から生えて、終わりの見えない〈上〉へと続いている。

 

 一本の大きさは、また執事を使って申し訳ないが、執事を横に3つ並べても《《余る》》太さだ。

 それがケルべラスが出れないようちょうどいい感覚で敷き詰められている。


 その棒の隙間から、目ん玉をぎょろつかせ、噛みつき、俺たちを《《食おうとしてくる》》。

 棒には歯形が付いているものの、幸い壊れそうな気配はないので安心だ。


 で、……コイツをどうしろと?


「まずエサをあげます――コイツは中々図々しくてですね、ウマいものしか食べないんですよ。それこそ――《《人族のカラダとか》》」


 お、おいまさか……。


「ふは、さすがに冗談です。ですがどうも昔はそうだったらしいですよ? なんせ人には思い出があるようなので――」


 思い出?


「はいそうです、これは本当かは分からないですが、ババルナ様がまだ魔王様じゃなくて、そのお母さまが魔王様だった頃の時代に遡るのですが――」


 おいマジか。

 要約するとこうだ。


 まず衝撃の事実。

 このケルべラス――もとは母の古き〈戦友〉だった。


 人族と魔族がそれなりに「仲良くしていた」時代。

 平和の世。


 その時生まれた人族×魔族のハーフ、すなわち〈混血の少女〉が――このケルべラスの正体だ。

 ともに母ババルナと戦場を渡り歩き、盃を交わした旧友。

 

 だが時代が進むにつれ、国王の顔ぶれも変わっていき、互いの目指す先が変わっていくと起きた――「人魔戦争」。

 領土の奪い合いを賭けた戦争が勃発し、最後まで人族に歩み寄ったババルナの母は殺害され、戦争はさらにヒートアップし、現在もなお続く「人魔戦争」の姿へと変貌した。


 人族は魔族を全て殺害する計画を進行。

 魔族とのハーフという理由で捕まった少女は、その人族の国王の命令のもと、当時の〈円卓の騎士〉による呪いで、この醜い姿に変えられた――とのこと。


 その呪いは何年もの時を経てもなお解けない。

 死なない。楽になれない。

 一生その無様な醜態を晒し続ける他ないというのだ。


 俺は胸が苦しくなった。


「仕方ありません、両者守るものあっての戦争ですし、犠牲は付き物です。魔王様も何度も殺してあげようと試みたらしいですが、結果は惨敗。いまはもう成れ果てた化け物と化してますから、感情も何も無いんですよ。ただエサを食べて生き続けるだけ」


 餌をあげないで死なせてあげるってのは、


「ダメでした。それはケルべラスが苦しむだけなのでエサは与え続けるように、とのご命令です。だから魔王様もやむを得ず、エサが食べやすいよう――頭を縦に3つくっつけたのです。脳みそも詰まってない訳ですから、前までは1つ1つの顔がエサを取り合って絡まってしまい、といろいろ支障をきたしてたそうなので、まぁ魔王様の優しさと言うべきでしょう」


 そっか……。

 怖がるのも悪い気がしてきたな。

 

 なぁ、ちょっと魔法解いてくれないか?

 やっぱちゃんと、声聞いてやりたいんだ。


「いいのですか? うるさいしくっさいですよ?」


 あぁ、問題ない。

 俺だけ外してくれ。


「分かりました――では」



――ヴァ”ンヴァ”ン!!!!ヴァ”ンヴァ”ン!!!!ガッシャン!!!!ゴロゴロ!!!!ザザンザザン!!!!ダンデンドンヴゥ”ン!!!!ヴァ”ンヴァ”ン!!!!ガッシャン!!!!ゴロゴロ!!――


 

 っう”、るさく、ない……。

 エ、サは……これを上げればいいんだよな?


「はいそうです、それを3つある顔の方に投げてやってください――てか、まだあなたは赤ちゃんなのでせいぜい一番下の顔くらいしかエサを与えられないと思いますが――」


 そ、そうだったな。

 すっかり自分が赤ん坊なのを忘れてたぜ。


 じゃあついでで悪いが、それぞれの顔の近くまで俺を抱いて連れてってくれないか?


「いいのですか? 私は嗅覚と聴覚を一時的にシャットアウトしてるので大丈夫ですが、きっと想像を絶するほどの悪臭が――」


 だ、大丈夫だ!

 なぜかは知らんが、意外にさっきから割と静かにしてるみたいだしな。

 意外としつけがなってるみたいで、イケる気がする。

 じゃあ頼んだ!


「分かりました……」


 牢の前まで俺を抱えた執事は歩いていき、その少し手前で止まって、俺を前へと突き出した。


 ――ヴァ”ンヴァ”ン!!!!ヴァ”ンヴァ”ン!!!!ガッシャン!!!!ゴロゴロ!!!!ザザンザザン!!!!ダンデンドンヴゥ”ン!!!!ヴァ”ンヴァ”ン!!!!ガッシャン!!!!ゴロゴロ!!――


 俺のすぐ目の前には、今にも飛び出して来そうなほど迫った顔面、そしてよだれたっぷりの舌が伸びていた。

 だが俺は、決して目を逸らさない。

 向かい合って受け止める。


 お前のその痛い気持ちを――全部俺が受け止めてやる。


 すると途端、《《俺を食わんとばかりに》》眼前まで伸びきっていた「舌」が、その場に落ちた。

 

べちゃっ


 唾液が跳ねて、顔の横をかすめる。

 

「な……ぼっちゃん、今何をしたのですか?」


 焦り口調で執事が言った。

 な、なにをって……なんもしてないけど。


「あ、ありえない――ほら見てください、ケルべラスの目が、《《すべてぼっちゃんを見ています》》」


 先ほどまで焦点が合っていなかった目が、6つ、すべて俺を凝視していた。


「――判別する目です。たまに噂で聞くのですが、まさかほんとに…………」


 な、なんだソレは。

 すっごい目力で見つめられてる気がするんだけども……めっちゃ充血してるし。


「ケルべラスは基本、魔王様と王夫様のいう事しか聞かない、それも気分がいい時以外はずっと暴れてるんですよ、それが静まるなんて、いつぶりでしょうか……」


 そ、そんなスゴイことなのか?


「はい、もうありえないくらいには。この静まり返ってケルべラスが何かを見つめるとき――それは「判別の眼」と言われます。ぼっちゃんが読んでいたかはわかりませんが、この魔王城の歴史を語る書斎の中でもトップクラスに有名な話ですよ――」


 そ、そうなのか。

 で、何を判別されるんだ?


「それはその者のみにしか分からないです。確か書斎にあった手順では――まず目を瞑ってください」


 ほい。


「そして、心を通わせるように、静かに、そして話しかけるのです」


 こ、こうか……?


((あ、あーもしもし、き、聞こえてますかー?))





『う、ああああああああああ!!!!! べろべろべろべろっばぁっあああああああああ!!!!!!』



((うぉおお?! な、なんだ今の声?! ビックリ……てかうるさ!!))


『お? 貴様話せるのか?』

((し、しまった……))


『まぁあいい!! あと吾輩はうるさくなんかあああああああああい!!』 

((こ、鼓膜が…………))


『はっはーん、どうだ、驚いたであろう!! 久しぶりの来客でな、さぞ吾輩も興奮気味なんじゃ!! ガーはっはっはっはっはっ!!!!』

((て、テンションたっかいなーー))


『なんだー人間の子よ!! どうも乗り気じゃないのう? 吾輩が話しかけてやったやつはみな喜んだのにな!!』

((、ん? えいま、「人間」っていいましたか?))


『うむ、間違ってたか? おっかしいなぁ……吾輩の眼に狂いはないはずなんだがあ、どうも人間味を感じてしまってな、よく見れば魔族の姿しておるしな!! すまんかった!!』

((あ、はははーーいえいえ、お気になさらず))


『うむ、では貴様、名前を言え』

((「ラプラス」です。てか想像してたより、その、ずっと可愛らしい声してるんですねー))


『ほほう? ほほほう? そうかそうか、吾輩の声はさぞ可愛かろう!! いいぞもっと褒めろ!! その権限を貴様に許す!!』

((かわいいー!! 超かわいいー!! すっげー、惚れちゃいそーー!!))


『んんっふぅう!! うむうむ、よかろう!! 気に入ったぞラプラス!! 吾輩は貴様を気に入った!! だから〈加護プロヴィデンス〉を貴様にはくれてやろう!!』

((〈加護プロヴィデンス〉!? ……い、いいんですか?! そんな大事なもの!))


『なに、減るもんでもないしな!! こうして暇つぶしに、見込んだ相手には与えてやってるんだ!!』

((……でも〈加護プロヴィデンス〉ってたしか……《《魔族は発現しない》》んじゃ……あ、そうか!))



『そう――吾輩は、《《人族》》と魔族の《《混血種》》がして、影で世界を《《支配する者》》、その名も――〈エルテイン・フォーミラ・ソロモン〉であーーーーーーーーーーーーーーーーーーる!! ふふぅん!!』

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