第四話 魔導書
あれから又、六か月が過ぎただろうか?
現在生後11か月。
俺はもう歩ける。
正確には、何かに掴まって歩けるだが、やはり異世界転生による自我が在することの影響は凄まじかった。
上乗せして習得も早い。
俺は歩き方を知っているのだから。
故、途方な時間を掛けて、広大な魔王城を探索した。
無論メイドの見張りありきだったが、
俺は危ない所へは行っていないので(まだ)、結構何処へでも行けた。
ちょろいもんだ、俺は母を殺すための準備を進めているというのに。
だからもう俺は、俺の好きなタイミングで魔導書庫にイケる。
━━*
魔王城の【三階層】には、小さいものも含めて、全部で数千以上の魔導書庫が在している。
俺は其処に蔓延るようになった。
聞こえは悪いが、此の表現が適切になるくらいには、俺は一日中ずっと魔導書庫にいる。
そして現在、俺の眼前には五つの本が並べられている。
〇魔術原論-全436p
魔法の教本だ。
〇魔眼秘録-全256p
過去に実在した魔眼を特集した本だ。
〇始原譚-全224p
世界が誕生した起源とかのってるお伽話だ。
〇双界辞典-全512p
人族語 ←→ 魔族語を対訳で収め、解説した辞書だ。
〇魔獣録-全328p
魔界にいるモンスターを特集した図鑑。
此の5冊に落ち着いた。
参考書は100と要らない。
一冊一冊を完璧に覚える方が合理的である。
俺はもう既に、上2冊の「魔術原論」と「魔眼秘録」は一週ずつした。
だから此の2冊をベースに、いったん覚えたことを整理してみようと思う。
多分ごっちゃになってると思うからな。
無論、自分の中に落とし込むためだ。
あと下3冊もちょっとはたしなめているから、要所要所に交えながら確固たる自分の知識として定着させて行ければなと考えている。
俺は要所をまとめたメモ用紙を展開した。
自筆でがんばってちょー分かりやすくまとめたものだ。
ではさっそく。
セクション1ー魔法の発動には、無詠唱が一般的である。
基礎知識だ。
無論大昔は、生前持ち合わせていたイメージ通りのかったるい詠唱や、魔法陣、魔道具などを利用しての発動が主流だった。
てかそれ以外の方法は無かった。
だが時代は進み、そもそも扱う魔法が徐々に簡略化されたことで、詠唱なしでも具体的なイメージのみで発動が可能になったと記されている。
要はアレだ、古代魔法ってゆーの?
昔は発動すら難解だったっぽいし、先人はめんどくさくなって誰でも簡単に魔法が扱えるように開拓して行ったんだろ。
プテラノドンが → カラスになったようなもんだ。
進化の過程で、不便なものはどんどん淘汰されていく。
セクション2ー魔法には、五つの種類がある。
・攻撃魔法
・治癒魔法
・防御魔法
・補助魔法(=付与魔法)
・召喚魔法
意味はまんまだ。
強いて言う事があるとすれば、補助魔法と付与魔法はどちらの呼び方でもOKって事くらいだろうな。
要所要所によって、使いやすい方を使えばいい。
セクション3ー魔法の階級は、五つのみ。
初級魔法 → 中級魔法 → 上級魔法 → 最上級魔法 → 禁忌魔法
初級魔法は、基礎中の基礎。
いわゆる小学校の入門教科書レベルだろうか。
中級魔法程度なら、成人した人間が誰でも使いこなせる程度のレベル。
もちろん魔力総量による威力の違いや、スピード、あとは一度に出せる量とか大きさなんかは違うらしいが、
それでも義務教育レベル、高校卒業程度のレベル感覚だ。
上級からは、大学院程の知識や技量が求められる。
最上級クラスであれば、いわゆる宮廷魔術師とかそう言われるレベルで、専門家の域になってくる。
禁忌は、魔法一つで世界を壊滅させられる程の力を持った魔法である。
古代魔法などがそうだ。
主に以下の四つが該当する。
・呪詛魔法
・血魔法
・時空魔法
・契約魔法
此れは現在、扱い方が記された魔導書が在していないのと、見つけたところで習得困難だろうな。
魔王城の書庫を探せば、もしかしたら一冊くらいはあるかもしれんが、
億とある有象無象の雑多の中から探すような真似はしない。
時間がない、見つけたところで扱える保証がない。
最終手段程度に思っとけばいいだろう。
まぁこんなもんか。
次に、「魔眼秘録」に移ろうと思う。
こっからは少々ややこしくなるので、しっかり理解して行きたい。
俺は付箋をしておいたページをめくった。
「 | 」威圧の魔眼
全112と収録されている魔眼の中で、1番ダークな赤色。
魔力を放出し、威圧できる。
「 - 」石化の魔眼
黄色。
魔力を放出し、石化させる。
「 ✳︎ 」魔力視の魔眼
赤色。
目を凝らすことで、魔力を可視化できる。
「 ; 」支配の魔眼
赤色。だが、ある条件下 → ダークな青色へと変貌する。
死者の魂に魔力を刻むことで、支配できる。
「 ❇︎ 」治癒の魔眼
赤色。だが、ある条件下 → ダークなピンク色へと変貌する。
魔力を放出し、治癒できる。
「 / 」未来視の魔眼
赤色。だが、ある条件下 → ダークな翠色へと変貌する。
目を凝らすことで、未来視ができる。
全112種の魔眼が過去に存在したと記されていて、其の効能は多岐にわたる。
基本的には、自分の魔力を利用して、其の効能を発揮する者ものが殆どであろう。
俺が此の五つを特にマークしているのは、魔王城の中で、確か一度何処かで見かけた記憶があったからだが、
何せ似たような模様ばっかで判別が難しかったし、合ってるか分からん。
無論、「」内の模様は、黒目を現している。
大きく手書きのイラスト付きで載っていて、目の色とかもちゃんと塗ってある感じだ。
中でも上二つは、もう明確に何処で見たか覚えている。
威圧の魔眼。
此れは恐らく、母が持つ魔眼だ。
黒目が猫みたいな縦長になっているのが特徴的だろう。
何せ王の素質、発現頻度は1%未満とのことだ。
魔眼の発現頻度が、此の眼以外に一番低くても5%であることから、
母の持つ眼は相当スゴイのだと思う。
次、石化の魔眼。
此れは黒髪アップダウンパーマの長身の男の眼ではないだろうか。
黄色の眼は過去に10しか発現した記載がなかったので、違いが見分けやすかった。
ちなみに発現頻度は二番目に低い5%だ。
何せ石化は相当ヤバいな。
だが、手の内が分かっただけ上等だろう。
初見殺しは免れる筈だ。
次、魔力視の魔眼。
俺は手鏡を手に取った。
そして見る。
……やはりな。
「 ✳︎ 」の模様のものは一番種類が多く、半分以上を占めているのだが、
やっぱきっとたぶん、
此れ俺の眼だと思う。
予想は当たっていた。
俺は魔力が見えていたんだ。
だが発現頻度は、驚異の50%を超えるド平凡……。
まぁ発現してくれただけいいが。
又残りの三つに関しても、確か魔王城内で見たことある気がするから、其れっぽいのにマークを付けておいた次第だ。
そして本題。
魔眼の発現に際して、もう少し自分の中に落とし込んでおこう。
ちとややこしいのでな。
魔眼は、魔力量の多い場所で発現する。
此れを語るには、魔力についてよく理解する必要がある。
俺は真横に置いておいた、魔術原論を開く。
確か……、んと、此のページだった気が。
あれ、
目次見た方がはやいか。
俺は、34ページを開いた。
【4】魔力について
-魔力は、二種類存在する-
1、「起源性魔力」
(例)体内から生じる魔力、魔石の中にある魔力
2、「外界性魔力」
(例)空気中に含まれる魔力
では、1から見ていこう。
此れは言うまでも無いな。
自分の体内から生成される魔力と、魔石が最初から含んでいる魔力のことである。
現在、起源性魔力は此の二種しか確認されていない。
0 → から新たに魔力が作り出されるから、起源性とそう名付けられている。
特に、体内から生じるであるが、此れは備考欄に、
血液とともに魔力が生成されると記されている。
人体の構造だ。
体内には血とともに魔力が循環しているため、魔法を発動する際には血が靡く感覚が走るし、
練度が増せば体の何処からでも魔法を放つことが可能であろう。
まぁもっと詳しく書いてあるんだけど、別に俺は将来医者になりたい訳でも魔法使いになりたい訳でも無いので、
更にややこしくなる箇所は自分のためにも割愛する。
続いて2の「外界性魔力」であるが、
此方も其のまんまだな。
窒素、酸素、二酸化炭素、アルゴンetc……の中に含まれている微量な魔力のことである。
ちなみに此の世界にも酸素などの空気中の成分は解明されていて、まぁ名所などは違うんだが、
何より自分に落とし込むことが目的であるため、分かりやすく前世の名称で続行する。
日本語だ。
本来、外国語を外国語のままで理解するのが身のためになるのは重々承知しているが、矢張り、それでもいったんは自国語に訳してしまうもんだろう。
まぁそんなもんだ(自己暗示)。
話を戻そう。
2は具体的なイメージがしづらいため、例を挙げて考えてみる。
例えば備考欄にもあるように、魔界などの特定の地域は比較的に、空気中の魔力の含有量が多い。
全9の大陸があるうち、最北端――魔界は、南から北へと大陸全土を横断するように吹く「偏北風」の影響で、其の終着点がために魔力が物凄く溜まりやすい。
又、空気中を占める魔力の割合が15%を超えると、多いと表現することになる。
通常は5~10%程だ。
此処で疑問符が上がるのではないかと思う。
Q.呼吸が苦しいのでは? と。
だがアンサーは、
その真逆だ。
魔力でも血液は作られる。
体の構図的に、魔力が元々ある世界では人体の体も此れに準ずるというか、適応した形で作られるのは言うまでも無いだろう。
普段富士山の麓で暮らしている者(例えば人族)などが → のこのこと魔界に足を踏み入れると、途端に意識が覚醒するというか、脳がシャキシャキするというか、
当然血液は圧迫されるし、酸素 → 魔力へと体に適応させる期間も考慮して、若干の目まいやふらつきが起こったりなんかはるだろうが、
まぁ強化される的なイメージで良いだろうか。
だが魔界に来たからと言って、体が急に変貌してむっちゃ強くなる訳では無い。
むしろ其れなりの時間が必要だ。
せいぜい人間や魔力の寿命くらいの規模感じゃ、矢張り頭が冴えてんなー程度の恩恵だろうが、
何万年と掛けて世代を引き継いで魔力含有量の多い地に住めば、進化の過程で少なからず容姿や能力などにも異変が出始めて来る。
其の例が、角だろう。
魔族に角が生えているのは、此の進化の過程の中で、魔力含有量の多い地に住んで来たからとされている。
他にも、魔界の植物やモンスターは、通常のものと比べて遥かに異型だ。
当然、ゴブリンなどを挙げてもグレードアップされて強くなっている。
では此処で、少々まどろっこしくなってしまったが、核心部分に触れて行きたい。
結局は此れさえ理解しておけば、万事解決。
【核心】魔力の有無は、呼吸が出来るか出来ないかで判断せよ。
詰まる所、呼吸が出来ないものには魔力は無い。
だ。
早速例を挙げてみる。
例えば魔界の土。
魔界の土は当然、呼吸なんか出来ない。
魔力無しだ。
では魔道具。
呼吸出来ないので、魔力無しだ。
確かに魔界の土っつうか、魔界はなんか魔力多イメージあるし実際多いのだけど、其れは2の「外界性魔力」= 空気中の魔力が多いだけであって、
其れを吸えない土などは当然、一ミリたりとも魔力を持ち合わせていない。
其れでも、土の中には僅かながら微生物などが在しているため、しばしば土自体が魔力を有していると勘違いされることがある。
呼吸をしているのは、土では無く微生物の方だ。
此の例で、魔道具についても突き詰めていく。
魔道具はある。
だが正確には、魔石が組み込まれているから魔力がある、である。
此の世界の魔道具は、「起源性魔力」、つまり0から1の魔力を生み出す人体とは又違った、天然由来の貴重な資源魔石、がることは先程理解したが、
此れをただ単に魔法の杖などの道具に組み込んでいるため、魔道具、そして其の魔道具事態に魔力があると勘違いしてしまう。
無論、魔石は消耗品である。
いずれゴミと化す其れだ。
だから生まれつき魔力量が少ない人族などは、此の魔石で作られた魔法の杖を使うことが多い。
反対に、生まれつき魔力量の多い魔族などは、魔法の杖なんか使ってる所を見ないのがもっともの例であろう。
自分より魔石の方が魔力量が多いのであれば、無論、其れに頼る。
だが、どんなに高価で優れた含有量を誇る魔石であれど、長い年月を生きる魔族にしてみれば、わざわざ自分の魔力量を下げて魔法を放つようなものなので使用しない。
魔石は無論、呼吸をしないので、起源性魔力に含まれるのだが、
不思議なことに魔石は、周囲の魔法を発動するためのイメージを吸収する特性がある。
此れが魔石には自我があると言われる、もっともの理由だ。
更に魔石は、一度に放出できる魔力量も限られているので、故に魔族は魔道具を使わない。
魔族 + 魔法の杖 で魔法を発動した場合 =
此の場合どうなるか?
答えは、先に魔石の中の魔力が使用され、無くなる。
だ。
だが、魔石は一度に放出できる魔力の量が限られている。
魔石の中の魔力を使い切るのにも、時間が掛かる。
故に魔族は魔道具を使わない。
詠唱をして魔法を発動しても、無詠唱でイメージして魔法を発動させても、魔法の杖などの魔石を含んだ魔道具を持っていれば、勝手にそっから魔法がぶっ放されちまう訳だからな。
しかも一気に放出できる量は限られてるし、消耗品だしで、魔族が使わないのも納得だな。
まぁ此れを使った少々トリッキーな技、魔法を使う瞬間に杖を手放して不意を突くなどの戦い方もあるようだが。
要するに起源性魔力(自分自身) + 起源性魔力(魔石)の重複、上乗せして超エグイ魔法を出すことは出来ないと言う事が此の題の結論になる。
ようやっと此れを理解して、俺は魔眼について理解できた次第だ。
魔眼は魔力の多い所で発現する。
だから人族と比べて、魔族は魔眼を有していることが多い。
此れも進化の過程でそうなった。
特に発動の条件だが、此れは書物によってもまばらで具体的な条件などは解明されていない。
ただ、一番有力な説としては、年の若いころに多くの魔力を浴びると、魔眼が発現しやすいとのことだ。
此の点に関しても、魔界で暮らしている魔力は発現しやすい訳だし、逆に言えば、人族であれ若いうちに魔力を多く浴びれば発現するとのこと。
又此れに関しては、今のところ遺伝は関係ないものとされている。
大人になってからの発現は、極めて少ないそうだ。
他にも、人族にのみ発現する〈加護〉というものもあるらしいな。
魔眼秘録の備考欄に書いてあった。
正確には、人族の血を有する者のみが発現する、との表記だったが、まぁおいおい此処らへんも解明していこう。
あの五冊の本をまとめると、大体こんな感じである。
では実践に参る。
俺は魔術原論を開いた。
てきとーに、風属性の初級魔法、見開き分だ。
・《ブリーズ》(弱風)
手元に小さな風を起こす → 火を灯す。紙をめくる。涼をとる。
日常的に使える初歩的な魔法だ。
・《ウィンドアロー》(風矢)
圧縮した風を矢のように飛ばす。
威力は弱い。倒せても精々ゴブリンくらいがいいところだろう。
・《エアシールド》(風盾)
うすい風の膜を張って、砂や煙を防ぐ。
物理攻撃には弱いが、視界の確保とかには有効だ。
・《ウィンドステップ》(加速)
足元に風をまとわせて、一時的に移動速度を上げられる。
回避や短距離での加速には便利だな。
そしてもう、此の四つの初級魔法はすでに使いこなしている。
ページをめくるのにもフツウに手でやればいいのだが、かっこつけてブリーズでめくっている(ドヤ顔)。
何より、日常的に魔法を使い続けることが大切なんだ。
そして問題はココからだった。
一通り初級魔法を習得した俺は、次は中級魔法への習得を試みたのだが、
一向に使えるようにならない。
其の兆しすら窺えない。
どういうことだ?
今の一度たりとも、一日中書庫にこもって魔法を試しまくっても、魔力切れによる気絶はしなかったのにも関わらずだ。
其の場でぶっ倒れたりとかはしなかったから、より一層不思議に思った。
おかしい。
おかしすぎる。
俺は、魔王の子どもに生まれたのだから、魔力が人より多いのは容易に理解できた。
だが魔王の子どもであれば、どんな魔法であれ使いこなせるものなのでは?
そのはずなんじゃないの?
魔導書には、魔力さえあれば、誰でも属性問わず扱えると記されている。
でもやっぱあれか?
一応、得意不得意などの個人的な問題は少なからずあるようなので、やっぱ風の中級魔法は身の丈に合ってないんすかね?
ともかく、
今一度、試してみる。
昨日はできなかったけど、今日はできるかもしれないしな。
基本中級魔法は攻撃魔法が全般であるが、書庫の中でそんな物騒なもの使えるはずもないので、
いつも通りレビテーションを試す次第だ。
・《レビテーション》(浮遊)
ウィンドステップの応用みたいなもので、空を飛べる。
転生初日に父が、俺を抱えながら魔王城までひとっとびした際にも、此のレビテーションが使われていた。
別に珍しくない、如何にも中級レベルって感じの魔法だ。
俺は目を瞑った。
集中……。
深呼吸して、
俺が宙をぷかぷかと浮くイメージをするんだ。
そう……ぷかぷか~と、うんいいぞー、そんな感じ。
お、
きたか?
だんだん体があったまってってー、
ほっ!
…………………………………………。
……ま、まだだ。
もっと具体的なイメージを通わせ。
俺ならデキる。
そう自分に暗示するんだ。
できれば今胡坐をかいて座っている俺の、
ケツあたりをイメージして、
そっからこうー、
ぐぐっと持ち上がるようにぃ……。
…………………………………………。
「あっ!」
「やっ!」
「うぁあー! ……………………………………。ったぁ」
なんでなんだ!
スランプなのか!?
一応今の感じで、初級魔法はなんなくクリアできてるからイケる筈なんだけども!
はぁ。
……詠唱も書いてあるので、ここ最近はそっちの方を試していたのだが、一向にできる気配は見えなかった。
なんで?
もしかして俺、才能ない……?
思い高ぶってたかもしれない。
初級魔法がいとも簡単に習得できてしまったがために、俺は浮かれていた。
はぁ……。
まあ生後11か月にしてはよくやってる方だと思うが、それでも成長が一度ストップしてしまったことの絶望はすごい。
一生このまま使いこなせるようにならないんじゃ……なんて不安も少なからず出てきてしまう。
ともあれ継続だ。
粘り強く、ひたむきに努力を続けよう。
いずれ報われるとか、そう言われてるもんだしな。
━━*
一日、また一日と、過ぎ去るように日数は加算されていった。
できない。
できないんだ。
俺は常に魔導書を片手に持ち歩いては、魔王城のデッカい庭園で、戦闘用の中級魔法をぶっ放そうとしたこともあったが、
デキる気配がマジで見えん。
もう俺も一歳になったぞ。
一歳のガキが一人でそんなもんしようとするもんだから、もっとメイドとかから変な目で見られるのかと心得ていたが、
むしろそっと見守られている次第だ。
魔族ってこんなもんなんだろうか?
一歳が庭園をハイハイし、小さな木を支えにして歩行し、途端に魔法を使いだしても驚かないもんなんだろうか?
おかげで環境としては、すっごくやりやすかった。
また覚束無い俺の魔族語で、身振り手振りを駆使してうまく方法を聞き出そうと試み、無事優しく教えてもらったのだが、デキない。
ガッカリされたんじゃないかと不安におもぅ。
ちなみに発音に関しては、もうそれなりに歯も生え始めていたので、あーうあーとかじゃなくて、
どど、どぉーやるの? くらいには覚束無いながら頑張って喋れるようになっていた。
前世の知識ありき = 脳がより発達しているのかもな。
何せ、まだ、俺は続ける。
━━*
今日も俺は、三階層にいた。
いったん中級魔法は諦めて、他属性の初級魔法を一通り習得することにしたんだ。
そしてもうすでに、水・土・光属性の初級魔法は、一通り網羅していた。
まぁ俺の手に届く範囲の本に限られるのだが。
ほんっと、初級魔法は容易い。
だからこそ悔しい。
のだ。
だからこの調子で、めげずに、焦らずに、残りの火・闇属性も習得してしまいたいと思う。
そして無論、この世界の魔法属性は、
火・水・風・土・光・闇の六属性だ。
火属性は書庫の中だと火事になる可能性があるので、恐らくは湖の近くあたりで執り行うことになるであろう。
だから先に、闇属性の初級魔法を覚えることにする!
何せこの闇魔法は、俺が最後までとっておいたご褒美みたいなもんなんだ。
デザート、プリンみたいな感じだ。
厨二病 + 真っ赤な瞳に闇属性が加われば、そりゃもうイコールだ。
解はすでに出てる。
闇って単語だけで、いろいろと体が疼く。
其れが答えだ。
《シャドウハンド》(影手)、《ダークミスト》(闇霧)、《シャドウニードル》(影針)etc……
とまぁどれもバッチバチにカッコいい名前のラインナップであるが、
やはり男なら《シャドウハンド》を選ぶだろう。
なんだよ!シャドウハンドって洒落た名前は!?
ふむふむ。
203ページ、203ページぃ……ここだ!
俺はブリーズを203ページで止めた。
えっとぉ……、
《シャドウハンド》(影手)
お?
階級(初級)&(準中級)?
難易度は、入門基礎レベルか。
こんなのあるんだな、初めて見た。
曖昧な区分分けもされてるもんだな。
でも効果は、やはり闇属性ってだけあって強力だ。
他属性の初級魔法よりも異様さが際立つ。
用途1.-奪取-
視覚的に認識できる相手の持ち物を、半径5ルーン以内であれば奪える……か。
え待って、強くね?
ちなみに5ルーンってのは、前世でいう5メートルに相当する。
だが視覚的に捉えていないと盗めないって言う調整はされているみたいだな。
代償の方は……【魔力消費が激しい】か。
この表記の場合、通常の2、3倍は魔力を消費するって感じだな。
闇属性の魔法には、強力な分、【代償】というものが存在していた。
中でも上級くらいになれば、代償もその分大きく、片腕を失うことなんかはフツーにあるそうだ。
この点でいうと、光属性の魔法も代償が存在していて、まぁ精々初級魔法は魔力消費が大きいくらいなのだが、
やはりこの二つの属性は特別感がある。
近年に掛けて発展してきた魔法だ。
古代には光闇を除いた、火水風土しかなかったからな。
能力自体も、割と近年寄りである。
また使用者も他属性と比べて少ない。
ともあれやってみる。
……………………………………。
できた。
できたぞ!
俺は書庫にあった直ぐ近くの本を、《シャドウハンド》で奪取した。
成功した!
これで《ブリーズ》と同様、わざわざ手を煩わせなくても魔法で取れる!
余計に堕落していく気がした。
めんどくさがりに……。
でもカッコいいからいいのだ。
実際これで5ルーン上の本も取れるようになった訳だしな。
うん。
よし。
俺は次の初級闇魔法、《ダークミスト》(闇霧)習得へと取り掛かった。




