第三話 魔王城
更に一か月が過ぎた。
あっという間だった。
そして母は忙しいらしく、俺の育児はメイドに任されることが多くなった。
此の魔王城には、執事はいないがメイドはいる。
男女比が1:9くらいの割合で、圧倒的に女が多い。
無論、此のハーレム状態に俺はウッキウキしていた。
だが年齢がまだ浅いせいか、前世ほどの興奮は感じられない。
メイドの有り余る程に膨らんだ豊満な爆乳おっ〇いに抱き殺されても、
別に起立したりなんて事は無かった。
どうしちまったんだ俺……。
が、活力はある。
野心という名の活力は。
漲るパワーの矛先が、確固たる向上心で良かったと思う。
強くなりたい。
↑此の気持ちは、あれからもずっとビートしている。
正直振り切った。
もう見ないようにしているんだ、母を。
魔王をぶっ殺すため、俺が幸せになるため、
だから此の自己中心的な俺様ご都合主義の精神が、
終わらない原動力としてあり続けてくれている。
だからメイドの胸は、今のところ眼中に無いんだ。
案外やる時はやる男なのかもしれないな。
又、前世の俺は、少なからず子供の頃に見ていた景色というのは忘れていた。
自分は可能性に満ちていて、何でも出来る気がしていたあの時の俺。
輝いてた頃の俺。
それが今、再び訪れている気がする。
世界が眩しくて、デッカく見えるんだ。
更に、俺は言語の習得にも奮闘し続けてきた。
進んでメイドの言葉には耳を傾け、こちらを向いて喋ってくるものなら、
喜んで口の動きを真似てシャドーイングした。
あ、イケルかも。
そう思った日が急に訪れた。
↑きっかけは、俺の名前を呼ばれたことだった。
転生する前に、天界で決めさせられた名前。
初期設定のやつ。
其れがさっそく生きてきた。
俺の名前、あの時咄嗟の判断で決めた――ラプラスという名前だが、
(好きなゲームのキャラクター名から取った)
此れが、母やメイドどもから話しかけられる際に、
冒頭でよく同じ単語を連発している ← 此れに気付けた事が全ての始まりだった。
おかげで俺はいとも簡単に、ラ プ ラ ス という単語の、此の世界の発音方法が分かった。
そっから俺は、先ず『絵本』を読みまくった。
此の世界にも絵本はある。
ラ プ ラ ス の文字をひたすら探しては、
ラの付く単語だったり、プの付く表現などをひたすらにメモに取って、洗い流していった。
又、魔族語と言うだけあって、矢張り此の世界にも複数の言語が存在していた。
例えば人族語と魔族語で言うなら、前世のアメリカ英語とイギリス英語ほどの違いが見られる。
ゆーて誤差程度のものだ。
慣れてしまえば、そう怖がることも無い。
例えば「色」という単語のスペルを取っても、
(ア)color ←→(イ)colour
また発音に際しても、「水」という単語で言うならば、
(ア)ワーラー
(イ)ウォーター
と異なる。
同じように、人族語と魔族語にも違いがある。
では、人族語と魔族語でどれだけの差異があるか見てみよう。
ラプラス、 ← と表記するとこうなる。
・人族語
|-|=|
(間隔をあけて書くと →)| -| = |
ラ プ ラ ス
・魔族語
/|=/
(間隔をあけて書くと →)/ | = /
ラ プ ラ ス
人族語の場合、五十音で「ラ」は | ←である。
魔族語の場合、五十音で「ラ」は / ←である。
本来ならもっと、文字同士を繋げたり滑らかに書いたりするのだが、何せ生後4か月の手じゃ、
カクカク書くのが精一杯である。
では、この双方の文字において、注目するべき点を挙げよう。
それは古典のレ点のように文字が入れ替わる動きが見られることだろうか。
それが人族語と魔族語の両方に見られる。
此の世界の文法なんだろうか?
きっとそんなところだろう。
そして此れは憶測になるのだが、頭文字と語尾の文字が同じであれば、
語尾の文字の一つ手前の文字の読みが入れ替わると言った感じだろうか。
だが例外もあるため、一概に適切とは言い難いが、おいおいちゃんと理解して行く次第だ。
又、少々魔族語の方が文字は簡略化されている印象を受けるが、矢張りこういう面からも、
魔族特有のがさつさや、面倒くさがりな面だったりが垣間見えたりもする。
魔法も魔術も意味は変わらないが、頭文字に「魔」と付くことからも、魔法の歴史は魔族が起源であるし、
(御伽噺などから分かる)
前世でもお医者さんなどは、出来るだけ同じ意味の漢字でも、簡単な方の文字を使うことが一般的であるという話があるような感じで、
魔術の世界でも、出来るだけ文字や詠唱が簡略化されてあった方が多方面でも理にかなっている。
其れこそ魔法の発動がはやいとか、詠唱が短くなるとかだ。
きっとそんなんなんだと思う。
昔から魔法が身近にあった魔族の文字は比較的優しいのかもな、おかげで掴めてきた次第だ。
又、発音に際してもそう大差はない。
困惑する事もあったが、法則さえ分かれば、こんなものは誰でも簡単に習得できる。
後はどれだけ周りと差を付けて、時間をベットするかだ。
継続も欠かさない。
他にもメイドなどの動作などから推測して、早期の言語習得に努めている。
優しいメイドが、毎晩お伽噺を読み聞かせてくれるから、二重して復習もできている。
環境はめっちゃイイ。
俺はヤレる。
また書庫にイケる日や時間帯はまばらで、完全にタイミングと運任せのようなものだから、
(俺はまだ歩行できない)
チャンスがあり次第、今後も俺は、けっこー頑張るつもりだ。
━━*
又一ヶ月と時が経った。
俺は現在、黄色ロングヘアーのお姉さん系メイドに抱えられ、此の魔王城を巡回していた。
散歩、と言うべきだろうか?
あれから俺は、よくこうしてあやされるようになった。
あとは極力、怪しまれることを避けるために自作自演して泣いたりすることもあった。
演劇では木や村人Aを演じていた俺だ。
……それはもう壊滅的に下手くそだったが。
でもメイドは俺が泣けば、何でも言う事を聞いてくれた。
オムツを変えてくれたり、ミルクを飲ませてくれたり、こうしてお散歩をしてくれたり。
此の状況――言わば赤ちゃんプレイとそう差し支え無い状況であるが、いうほど興奮デキない俺がさぞ悔やまれる。
前世の俺なら三発はイケてた筈だ。
又其の最中に、何度か鏡で、自分の容姿を確認する機会があった。
父親譲りの透明感ある白髪に、母親譲りの赤いメッシュが織り交ざった、なんか歌い手みたいな髪色だ。
前世なら超ヤリラフィーでめっちゃ目立つだろうが、此の魔王城じゃせいぜい見劣りしないレベル。
他が派手なこともあり、俺は溶け込んでいた。
しかし地毛でコレは、流石にテンションが上がったものだ。
更に目の方も、ちゃんと真っ赤で予想通りだった。
魔族らしいルビーのような瞳だ。
転生初期に見た、アップダウンパーマの男のように、俺だけオッドアイなんていう展開も期待したが、
しっかり父母の赤い目を両方受け継いだ次第である。
又、頭の上を見れば、少々青味掛かった黒色の角が二本、ちょこんと生えているでは無いか。
やっぱ俺、魔族なんだな……。
ちなみに角を触るとむず痒い。
くすぐったいとかじゃなくて、不快感ある感じだ。
急所なのかは分からないが、あんま触られたくない。
そう感じるものだ。
角の大きさは、丁度松茸くらいのサイズだ。
俺の松茸ーそうそう、
ゾウさんのお鼻程度のサイズ感でー、
ちょこんと、な。
松茸がある = 性別は男だ。
あと顔も、不本意ながら中性的なイケメンである。
生前で俺は、少々顔がバブいなどと可愛いなどと揶揄される事があったため、
まぁ別に何でもいいんだが、アニメとかじゃどっちかっつーと王道イケメンよりかは、おじさんとか、
いや此れだとBLみたいになって其れこそ不本意過ぎるが、
誰もが此のキャラ好きであろう、とそう言われているものの逆を行くタイプだったので、まぁ何だ、そう言うことだ!
とにかく容姿は父親譲りの王子様風味、将来は身長も伸びるだろう。
そしてもう少し、此れは容姿と言っていいのだろうか分からないが、
俺はどうやら――魔眼の類のものを持っているのかもしれない。
此れは完全に憶測になるのだが、右目に力を入れると、魔力らしきもの(仮)が見える。
だが普段力を入れていないと、フツーに見えない。
此の差異が、俺がそう思ったもっともの理由だ。
転生初日に右目がむず痒くなって力を入れた際に、もしかしたら発動していたのかもしれないな。
うん、そんな気ーする。
あのとき刮目した母の魔力(仮)は、今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。
此処にいるメイドどもとは、比にならないデカさだった。
が、無論、母の胸は小さい。
少々魔力のことで食い違いがあったとすれば、前世じゃ魔力って言ったら、白いもやもやみたいなイメージがあったが、
実際は黒いんだな。
墨みたいな黒さしてる湯気が、ふわふわと体を漂っている。
もっとも、魔族だから此の色って可能性もある訳だが、其処ら辺はよく掴めていないんだ。
はやいとこ解明していきたい。
因みに俺の魔力もちゃんと黒だったぜ。
魔力総量(仮)こそ母に及ばないものの、此れから伸ばして行けばいいやって思ってる次第だ。
其の後、俺は連日の徹夜で、メイドの胸の中で眠ってしまっていた。
━━*
三か月が経過した。
相変わらず両親は忙しいようだ。
偶にボロボロになって魔王城に帰って来ることはあるが、又直ぐに出発してしまう。
何処かべつの場所に滞在しているようだ。
そして帰宅した暁には、ちゃーんと魔族の基準で俺に愛情を注いでは、悲しい顔してベビーベッドに寝かせる次第。
高い高いも慣れれば楽しいもんなんだろうがな。
俺は未だに慣れない……。
てか、石の天井に向かってギリギリまで投げ飛ばされるスリルは、そう簡単に慣れるもんでも無いだろう。
努力が水の泡になると思うと、どうも吹っ切れなくてな。
言うまでも無い、俺はまだ生後五か月だ。
フツーに天井にぶち当たりゃ、即死だ。
それに、俺は何故あんなにも高く真上にふっ飛ばされても、
首が折れたりはしないのだろうか?
疑問符が立ちまくりだ。
クエスチョンマークパレード。
やっぱあれか?
魔族って想像以上に頑丈な生き物なのか?
もう俺は、首が座っているし、
他にも母の投げが全然ブレないのもあるだろうな。
あと此れは気のせいかもしれないが、転生初期、其れこそまだ生後一ヶ月ほどの時なんかは首や体に違和感を感じていた事もある。
何か付与魔法のようなもので、体が硬くガードされてたりとかあるものなのだろうか。
いや、そう考えるのが妥当であろう。
無論、俺も生活ボケしてきているから、今じゃ其の感覚も確かあったような……程度のものになっているし、
何より現在に至るまで俺が生きながらえているのがもっともの証拠となるだろう。
別に丈夫であって困る事は無いしな。
俺は将来、屈強を目指す!
そしてコッカラが本題!
あれから更に三か月も過ぎれば、俺は一通り城内の構図も理解しつつあった。
其れでも広過ぎるが故、未だオールコンプリートは達成出来ていないのだが、
大方主要な施設の位置は把握した次第だ!
――先ず【地下B1】――
デカい闘技場があった。
東京ドーム一個分と言っていいデカさだ。
思う存分ドンパチ出来る。
が、精々三か月じゃ、行けても地下一階が限度だった。
其れ以下は、どうやら立ち入り禁止区域のようで、並大抵のメイドじゃ侵入できない。
俺が唯一、把握しきれていないのが、地下だ。
何処まで続いているかなんてさっぱりだが、
無論、俺の好奇心は止めれないので、いずれ無理矢理にでも行ってやるつもりだ。
――次に【第一層1F】――
武器庫と、なんか無駄にデッカい広間があった。
武器庫には使い古された剣などが何十本もあったが、今じゃ物置部屋にでもなっているのだろうか?
まぁ其の内侵入して、使えそうなもんがあれば俺の武器にでもしようかなと思ってる。
何せお宝発掘感あって最高だ。
飯が進む。
そして無駄にデッカい広間の方はというと、こちらは何に使うんだ?
言葉が分からない俺は、なんか勇者を迎え撃つ場なのかな、と勝手に解釈している。
1Fだしな、ちょうどいいじゃん。
――続いて【第二層2F】――
此処は、寮みたいなもんだ。メイドや門番、六人の眷属たちの個室なんかがある。言わば寝室。
そしてメインは矢張り、食堂と酒場があることだろう。
あとジムみたいな訓練場もある。てんこ盛りだ。
基本俺たちは、大体此処に集まる。
集結する。
気付いたらいる。
とにかく楽しい場所なんだ。
其れこそ転生初期なんかは、母や、不愛想な父なんかも顔を赤くしてはっちゃけてた。
良い記憶がある。
だから思い出すだけで俺は自然と気分がアガる。
そんな場所だ。
尚、メイドの寝室に押し掛けることは容易い。
メイドの分際ではセキュリティも糞も無いのでな。
襲いまくり放題だ。
と、言ったものの、俺はそんなのより木人がある訓練場の方が、今は圧倒的に興味があるのだが。
女遊び < 強くなりてぇ 、だ。
――今度は【第三層3F】――
魔導書庫と禁書庫がある。
又、研究室や錬金工房なんかもある。
フロア中に無数にある魔導書庫へは、もう幾つか訪れた。
横に広いだけじゃなく、縦にも広いんだ。
何億冊とある本。
当分読書には困らないであろうが、何故時間がねえ。
良さそうなやつだけ引っこ抜いて、
とりま基礎知識つけんべ。
あと、いずれ禁書庫にだけは絶対行ってやりたいと思ってる。
又、実験室と錬金工房もチラ見したことはあったが、今は使われていないっぽい。
埃と蜘蛛の巣で埋め尽くされてて、入れようにも入れんかった。
昔は其れなりに使用者がいたんだろうな。
書庫が多すぎる分スペースは圧迫されていたが、其れでも前世の基準じゃ一軒家くらいのスペースはあったので、
少々勿体無いと感じている。
まぁそんなところだ。
――お次は【第四層F4】――
風呂がある。其れはもうデッカい風呂だ。
大浴場、露天風呂、混浴場、サウナ。
前世じゃ考えられない程の豪邸。
中でも俺は、やっぱ混浴に入ることが多い。
然るべくして然るというか。
当然っていうか必然っていうか。
残念ながら赤ちゃんである俺は、俺の意思などでは無く、やむを得ず混浴に参上している次第だ。
いやほんと、しぶしぶな、不本意ながら、仕方なーく付き合ってやってるんだ。
体を洗ってもらうために。
あとたぶんだが、連中らに性欲といったものはあまり無いのであろう。
眷属たちもフル〇ンだし、メイドとかもタオルで隠したりしないんだ。
さぞ当たり前のように、フツーに女体晒しまくってる。
其れにとやかく言ったりもしない。
まぁ風呂も三日に一回くらいしか入らないから、基本魔族は風呂キャンなんだ。
もうそういう連中なんだろ。
――いよいよラスト【第五層F5】――【最終層】――
巨大な玉座の間、両親の寝室がある。
あと其れ以外は、ただ只管に長い廊下があったりするくらいだ。
=愛部屋層だ。
丸々フロアを貸し切って二人だけの空間を形成するなんて、まったく流石は両親だな。
誇らしいよ。
もっとも、性欲は無いようなので、そういうことも無いんだが。
まぁこんな感じだ。
イメージ通りであろう。
「――――、――」
メイドは俺を抱っこしながら、何か言ってきた。
今は最終層のなっがい廊下にいる。
其の窓辺で立ち止まって、メイドは外の方を眺めていた。
魔王城は丘の上だから、こうやって窓辺からはおっきな湖が見えるんだ。
鳥みたいな魔獣がその上を滑空していたり、魚みたいな魔獣が飛び跳ねたりしている。
太陽の光が反射して、若干まぶしい。
もう此れも見慣れた絶景と化してしまったが、矢張りいつ見ても綺麗なことに変わりは無い。
俺はこれから、此の景色すらも終わらせるのだと考えると、少々いたたまれない気持ちになった。
いずれそうなる運命にある。
だから今この瞬間だけは、
何もできない子供である内だけは、
どうかこの素晴らしい世界を楽しませてくれ――




