表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

6話

読んでくださりありがとうございます。

朝、目が覚めたとき、

頭の中でまだジンジャーエールの氷の音が鳴ってた。


天井を見上げて、

しばらく何も考えずにいた。


夢だったかもって思ったけど、

手首に残った微かな香水の匂いが、

昨日のことをちゃんと現実に戻した。


「……マジで、話しかけられたんだよな」


誰に聞かせるでもなく、つぶやいた。

返事が返ってくるはずもない。


大学。

いつも通りの教室。

仁が騒いで、広大が寝てる。

同じ空気。

同じ昼。


だけど、自分だけがちょっと違う場所に立ってる気がした。


仁が顔を覗き込んでくる。

「お前、昨日なんかあった?」

「なんで」

「顔がちょっとマシになってる」

「どういう意味だよ」

「疲れた顔してねぇってこと」

「別に」


翔琉はペンを回しながら、

笑いを誤魔化した。


「マジで彼女できた?」

「ねぇよ」

「うそくせぇ」


「昨日ライブ行った」

つい口に出た。

仁が目を丸くする。

「お前が? 一人で?」

「うん」

「どうした、失恋でもした?」

「してねぇよ」

「……で、どうだった?」

「普通に、よかった」


ほんとは“普通に”じゃなかった。

でも、それをどう言っていいか分からなかった。


昼休み。

スマホを開いて、

ライブハウスの名前を検索した。


写真を見ても、

昨日の空気は戻ってこない。

光の感じも、人の声も、あの匂いも。


“エミ”って打ってみた。

何も出てこなかった。

当然だ。

フルネームも知らない。


「……何やってんだ俺」


スマホを伏せて、

カレーを一口食べた。

味がしなかった。


夜。

バイトの休憩時間。

川原がタバコを吸いながら言った。


「お前、昨日休みだったろ」

「はい」

「遊んだのか?」

「まあ、ちょっと」

「珍しいな」


川原は煙を吐き出しながら、

少し笑った。

「若いうちに、遊んどけよ。すぐ終わるぞ」

「……はい」


その言葉の“すぐ終わるぞ”が、

妙に引っかかった。


何が終わるんだろう。

遊び? 若さ? 時間?

それとも昨日みたいな夜?


帰り道。

信号が赤に変わって、

停まった車の窓に街灯の光が映った。


ヘルメットの中で、

エミの笑い声がふっとよみがえった。


「匂い、ラーメン屋っぽいね」


あの言葉を思い出しただけで、

胸の奥が少しだけ熱くなった。


「……何なんだよ」


そう言いながら、笑ってた。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

どうでしたか?

少しでも楽しんでもらえていたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ